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NEWS&CHIPS|国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト、メディアコンサルタント津田建二の事業内容~技術・科学分野の取材・執筆(国際技術ジャーナリスト)

取材紀行の最近のブログ記事

MWC番外編~バルセロナ取材ぶらぶら歩き;スリ、電車、新会場

(2013年3月12日 19:48)

223()に成田を出発し、33日にスペイン バルセロナから帰国した。今回は行きのフライトでも帰りのフライトでも「卒業旅行」の若い人たちでいっぱいだった。行きのフライトはアムステルダム経由だったので、まずオランダに行きイタリア・フランスを旅行するというグループに会った。彼らの無邪気な声を聞いていると降りるときに思わず「旅行中、気を付けて」と言わずにいられなかった。

 

ところが我々(もう一人の仲間と一緒)がスリの被害に会いそうになった。バルセロナ空港から電車で地下鉄が交差するサンツ駅に到着すると、客席に座っていた1組の男女が突然立ち上がり入口のドアの方向に向かった。地下鉄は止まってから自分でボタンを押して開けなければならないため、最初に私がボタンを押して降りて仲間を待っていたところ、ドアが閉まった。どうしたのだろう、と思い、駆け寄ると再びドアが開き彼が出てきた。話を聞くと、男女の内の男がドアを閉め、女が彼のポケットに手を入れようとしたという。手を振り払っていると他の乗客もおかしいと思い始めやむなくドアを開けた。もし一人だったら被害に遭っていた恐れがあった。

 

バルセロナにはスリが多いと聞いてはいたが、これほど身近にいたとは。そういえば2年前に来た時に、車いすに乗った年配の男ともう2人の男がグルになり、わずかに坂になっているカタルーニャ広場で車いすをわざと押して手を離し、いかにも地方から出てきたような若者2~3人にぶつけたふるまいを目撃した。若者たちは男たちには係わらずに無視しで歩き去った。こんな時に温情をかけたら大変なことになる。

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カタルーニャ広場からリシュー駅に向かう繁華街 

今回の仕事は、あるクライアントからMWCMobile World Congress)の会場を一緒に回って、製品や技術の説明を聞き不明な点を質問するというものだ。回った企業を取材してもよい。まるで旅行のアテンダントであると同時に記者でもあった。このため記者として事前に登録すると、取材しないか、という案内を山のようにいただく。ただ、面白いことに日本のメーカーからはほとんどお呼びがかからない。その多くが海外のベンチャー企業である。彼らは画期的な技術を持っているはず。でなければベンチャーキャピタルがお金を出さないからだ。こういった無名の企業を取材することが最高に面白い。日本のメディアはほとんどやってこないからだ。

 

MWCが開催されている間は、欧州域内からバルセロナ行きと、バルセロナ発欧州域内のフライトは満員だ。今年もご多分に漏れずアムステルダムからバルセロナ行きのフライトは満員だった。ただし、日本人旅行客はほとんどいない。フライトチケットは繁忙期に入るため高くなる。しかし、あまり高価な卒業旅行の企画は日本の旅行会社としては立てられない。このためバルセロナへはMWC参加者が帰る頃に入るか、参加者が向かう頃に出るかしかない。いずれの場合も、この前後の期間のフライトはいっぱいになる。

 

バルセロナ市内のホテルはこの期間、価格が非常に高くなる。23倍はざらだ。東京でいえば山手線内の便利な所は非常に高い。このため郊外の安いホテルに泊まり50~60分かけてMWC会場まで「通勤」した。通勤には路面電車と地下鉄を乗り継いだ。電車の切符は、10回乗れるという日本の鉄道にはないチケットが9.8ユーロ(約1100円)と安い。1回乗ると切符の裏に乗車記録が印字され、あと何回乗れるかがわかる。路面電車と地下鉄の乗り継ぎの場合は、1時間15分以内に乗り換えると1回分の料金で乗り継ぐことができる。使い勝手は良い。

 

今年は、電鉄会社の労働者のストライキはなく、電車を有効に使うことができた。MWCの会場が今年から変わった。これまではオリンピックの開かれたモンジュイックの丘の下に設けられた会場だった。この会場の広さ(展示スペース)は16万平方メートルだったが、これでも手狭だということで新会場に移った。新会場は、従来会場のあったエスパーニャ駅から三つ目に新たにEuropa Firaという駅を新設したところに設けた。新会場の展示スペースは20万平米となった。ちなみに日本の幕張メッセはホール 1~8 5.4万平米、ホール9~111.8万平米しかなく、合計しても72000平米しかない。世界にはバルセロナに限らず、20万平米クラスの見本市会場はミュンヘンやハノーバなどにもある。上海の見本市はドイツを模した以上の大きさを誇る。

 

MWC開催の前日224日の日曜日は会場でレジストレーションとクライアントのホテルの下見。夕方からはメディア向けの催し物が2件ある。バルセロナで一番の繁華街であるカタルーニャ広場に向かい、広場から10分程度歩いたリシュー駅のそばで開かれた一つ目のShowStoppersに参加した。劇場の一部を会場として30社程度が小さなブースを出し、軽食・飲み物を取りながら取材するという前夜祭イベントである。MWCの出展料が高いため、このイベントしか出ないという企業もあった。ここでディスプレイ付きのモバイルルーターや、アプリを簡単に作れるソフト、新しいワイヤレス充電器、iPhone用防水カバーなど小物新製品や技術が展示された。この後もう1件の前夜祭であるMobileFocusにも参加した。ここでも同様なブースが出ていた。出展社もこの二つのイベントを掛け持ちしている所もあり、遅れてやってきていた。

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MWC前日のレジストレーションにこの行列

そして、25日月曜日からMWCが始まった。

23日土曜日にバルセロナのMWCへ向け出発

(2013年2月19日 08:25)

今年も225~28日にスペインのバルセロナで開かれるMobile World Congress MWC)に参加することになった。あるクライアント企業からの技術説明アテンダントとしての参加である。さまざまな出展企業が展示する製品やサービスについてそれらのブースの説明員の話を伺い、それを日本語で紹介するという仕事である。技術ジャーナリストだからわかりやすく説明し、広い分野の知識があると見込まれたのだろう。もちろん、取材も行う。

 

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今回、バルセロナでの会場は新しくなる。従来のエスパーニャ広場駅近くの展示会場はもはや手狭になり過ぎたためだ。MWCはスマホやタブレットなどの携帯機器の展示会ではない。もともとGSM Congressが発展した展示会であるため、通信オペレータ(キャリアともいう)がみんな集まる展示会である。このためオペレータへ納入するネットワーク・通信機器や、機器に使う半導体を展示したり、サービスや変わった材料も登場したりする展示会である。なにせ入場料が展示会だけで7万円もする。基調講演などのセミナーも聴講するなら10万円を超す。

 

あくまでもB2Bの展示会ゆえにここに集まってくるのは、機器メーカー、オペレータ、半導体メーカー、アプリケーションソフトメーカー、材料メーカー、サービスベンダーなどだ。しかし、報道陣がこの展示会から書く記事はいつもスマホやタブレットである。素人でもわかりやすいからだ。

 

今回は、やはりオペレータが通信ネットワークにおけるトラフィックをいかにして緩和するか、あの手この手の技術や手法が登場する。もう一つ大事な動きは、オペレータはドカン屋ではないという存在感を示すことである。今やアップルやグーグルは、オペレータが設置した通信ネットワークの上でサービスを提供し、代金はオペレータを通じて回収するというビジネスモデルを確立したOTTOver the Top)である。無料のアプリのダウンロードなどで通信ネットワークをOTT企業は利用し続けている。オペレータはネットワークを敷設するだけのドカン屋ではないことを示す必要がある。

 

海外のオペレータは、RCSRich Communication Suites)として、通信契約するとオペレータが無料のアプリに相当するソフトウエアを無料で提供する。昨年のMWCでこの動きが見られた。オペレータ自らがOTTに負けないような無料のアプリをサービスし、自ら課金システムを利用する仕組みである。国内でも先日KDDINTTドコモ、ソフトバンクらもこういったアプリを提供することが新聞で伝えられた。

 

この展示会に出展する半導体メーカーには、クアルコムやインテル、NXPnVidia、サムスンなど、世界の勝ち組が集まる。日本の半導体メーカーとしては、ルネサスエレクトロニクスとノキアとの合弁会社であるルネサスモバイルと、富士通セミコンダクターが出展する。

 

ルネサスモバイルは、LTEモデムチップのデザインインとして海外からの受注の方が国内からよりも圧倒的に多く、70~80%にも達する文字通りグローバル企業だ。川崎郁也社長によると、フィンランド、インド、日本、英国、米国とグローバルな拠点で仕事をしており、社内の公用語は英語だという。フィンランドやインド、日本、と英語を母国語としない国の社員が圧倒的に多い企業であり、だからこそ世界の標準語である英語でコミュニケーションをとっている。

 

MWC2013にジャーナリストとして登録して以来、世界中の企業から取材要求を受けている。その数の多さに圧倒され、どこまで対応できるかいささか自信がない。しかし、オペレータ、アプリケーションソフト、半導体、通信機器、ネットワークシステムなどさまざまな業界を一通りは取材する予定だ。昨年は直前まで市内の交通機関がストライキに入り、交通手段が使えるのか開幕されるまで不安であったが、今年は今のところそのような動きはなさそうだ。ただ、フライトチケットの関係上、早めに現地入りするので予習はできそうだ。

 

進歩するための二つの言葉

(2012年10月 3日 21:59)

8月に米国のソフトウエアベースの計測器や組み込み設計システムを開発しているNational Instruments社主催のNIWeekへ行って、書き足らないことがまだある。プレゼンが始まる前にスクリーンに流れるいくつかの言葉の中には、今の日本に役に立つものが多い。印象に残った二つの言葉を紹介しよう。

 

学ぶことをやめる者は年寄りだ。たとえ20歳であろうと、80歳であろうと

 人生いくつになっても学ぶという姿勢が大事なのである。以前NHKテレビで見たのだが、92歳のお年寄りの脳が成長していることが見出されたという。その方は、90歳になってから中国語の勉強を始め、学ぶことが楽しくて仕方ないと語っていた。

 

脳内にあるニューラルネットワークの神経細胞のつながりは、脳を使わなかったり、酒を飲んだりすると確実に切れていくと言われている。酒は飲んでも翌日また頭を使って仕事をすれば神経細胞はつながるため、若いうちの脳は退化しないように見える。ただ、その生活を60歳~70歳になってあまり脳を使わない生活を送っている状態で酒を飲み続けていると退化する恐れが十分ある。

 

酒はともかく、脳を使うというか、常に学ぶことをしていると新しいアイデアが次々と沸いてくることは確かだ。とかく若い柔軟な頭脳の時に勉強すればその勉強が身につくと言われるが、歳とは関係ないだろう。日本航空を立て直した稲盛和夫さんは今年80歳だ。日航の問題を把握し、解決案を考えさせると同時に的確な指示を与えてきた。考え、学ぶことができた。実際には大変お疲れになられたことだろう。

 

逆に若者が考え、学ぶことをやめたら、絶対に年寄りには勝てない。そのような若者だらけになったら国は衰退していく。若者の特権はやはり体力である。体力にモノを言わせて年寄りに負けないほど一所懸命勉強し、アタマを使って常に考える習慣を身につければ年寄りには勝てる。次の日本をリードできるのはやはり若者だ。学ぶことをやめたら年寄りだという言葉は真実をついている。



リスクを採らないというリスクほど大きなリスクはない

 リスクを採らないように採らないようにとして穏便に済ませようとすればするほど、それが積み重なっていけば大きなリスクになってしまうという意味である。問題を先送りすればするほど次第に経費がかかったり、却ってリスクが高まったりする。特に、日本の官僚機構、大企業の仕組みなど、出世した者ほどリスクを採らずに先延ばしにしようとする傾向が強い。2~3年で任期を全うすれば手厚い退職金や年金が待っているからだ。官僚や経営陣はリスクを採らない方が得する仕組みになっているのである。ここにメスを入れなければいつまでたっても借金は膨大になり、子や孫の世代が借金を払うことになる。払えなければ国家や会社は倒産の危機を迎える。

 

会社の方が国よりもまだましだ。資金を提供した銀行や株主が黙っていない仕組みを持っているからだ。今の日本国家にはそれがない。それでも、あとになってリスクを採らなかったばかりに現状の経営が悪化しどうにも手をつけられなくなった時のリスクの方がよほど大きい。売却したい部門は安く買いたたかれる。残った部門でさえも足元を見られ買いたたかれる。日本の借金である国債の問題も実はこういったリスクを負っている。

 

リスクは資金が豊富にあるうちに評価し、リスクを見込んだ原価計算をし直し、万が一のことがあっても組織を維持できるように正しい評価と計算をしておく必要がある。例えば、原子力エネルギーは安いという宣伝文句が嘘であることが3.11でわかった。安全を確保するための技術を使い、リダンダンシー(冗長構成)や誤り訂正技術、フォールトトレラントなどを駆使し、万が一の場合に備えて保険を強固にすると、実は決して安くはない。

 

IBMが環境対策に資金を投入し、工場内から有毒物や外のありそうな物質を絶対に出さないという方針で工場管理をしていた、という話をIBMの方から聞いたことがある。なぜコストのかかる環境対策にそれほど一所懸命になるのか、伺った。IBMは有毒物を工場外に出してしまった時のリスクを考慮したコスト計算を行っていた。そのリスクは、場合によっては会社の存続にかかわるリスクかもしれない。それよりも環境対策を万全にして有害物を工場敷地から出さない、ということにコストを費やす方が結局は安くなる、ということだ。

 

残念ながらわが国の原発の安全対策は不十分であり、今回被害に遭われた方々に対する補償なども原価計算に含める必要がある。これがリスクを採る安全対策になる。つまり、リスクを含めた原価計算をしなければ企業として存続できないはずなのである。それ抜きでコストを出すことには全く意味がないのである。このように計算し直すと、原子力の1kW当たりの電力はこれまでの計算値よりもずっと高くなるはずだ。それを国民に示すべきであり、それがないからいつまでたっても政府・行政不信になる。

 

リスクを採らないビジネスというものは本質的にあり得ない。ベンチャーを起業するリスク、企業を存続させるためのリスク、何にでもリスクはある。リスクを考えずに何かを事業を起こしてトラブルに見舞われると想定外という言葉で逃げる。リスクがあるからと言って問題を先送りしてはいつまでたっても解決しない。問題を先送りすることを英語で、Japanize(ジャパナイズ)というらしい。日本政府のやり方を指した皮肉である。

(2012/10/03)

10月13日から1週間、米国行き

(2012年9月23日 20:41)

次の海外出張では、1015~19日、GlobalPress Connection主催EuroAsia Pressセミナーに出席する。このセミナーは、さまざまな企業の講演やデモがあり、日本にいては聞けないような話が山のようにある。中には、企業を訪問し、半日の説明やデモなどを見せていただくこともある。魅力的なことは、日本に現地法人のない、ちっぽけなベンチャーの話がきけることだ。また、日本に現地法人があっても本社のCEOCTOから直接、話を聞けることもメリットだ。11のインタビューも可である。

 

米国のベンチャー企業は、すごい技術を持っている所が多い。というのは、1歩先んじた技術を持っていなければベンチャーキャピタル(VC)は出資してくれないからだ。最初の出資である程度、成功の道筋が描かれるかどうかを確認、調査し、うまくいきそうになると、最初のVC(エンジェルともいう)はさらに追加投資を行うと同時に、別のVCや業界企業を紹介し、彼らからも出資してもらう。だから、2回目、3回目の資金調達となるといよいよ製品の試作が始まると同時に、潜在顧客にもアプローチし始める。複数のVCから資金を調達できれば、そのベンチャー企業の成功確率は高まる。われわれジャーナリストにとっては、日本でまだ誰も報じていない企業のすごい技術の話はまさにテクノロジーの特ダネとなる。

 

また、日本の現地法人があっても、CEOの生の声を聞けることは別の情報を仕入れることに等しい。例えば、2年前のGlobalpressのコンファレンスにおいて、元ザイリンクスのシニアVP(バイスプレジデント)からMIPS TechnologyCEOになった、Sandeep Vij氏のスピーチは、極めて印象的だった。スタンフォード大学の現在学長であるヘネシー教授のもとでRISCコンピュータの開発をやってきた彼は、MIPSで再びRISCに係わりを持つようになったと喜びのメッセージを発した。こういった生の声を聞けるのである。

 

シリコンバレーのミルピータスにあるリニア・テクノロジー本社を訪問して、たくさんの新製品のプレゼンを聞くこともあった。リニアは高性能ながら汎用の製品を設計製造することが上手な企業で、製品の価格は少々高いが、性能を得るためあるいはシステムコストを下げるためには購入せざるを得ないものが多い。夜になると、リニアの招待で街の中華レストランへ行き、シニアエンジニアの方たちと日本、欧州、米国、アジアなどさまざまな顧客との付き合いやビジネス情報を議論し合うこともある。日本にいてはとてもできないような取材である。

 

さらにシリコンバレーはいまだに新しい情報の宝庫だ。かつてのシリコンバレーはもう半導体はダメだ、これからはナノテクだ、バイオだと言われた時期があった。しかし2000年代に入ってからは転入人口の方が転出人口よりも多くなり、住宅を求める声は再び強くなっている。現実に、電気自動車はデトロイトではなくシリコンバレーから始まり、ソーラー技術もシリコンバレーから起きている。Facebook創業者のザッカーバーグ氏は東海岸ボストンにあるハーバード大学を出てシリコンバレーに本社を構えた。半導体では仮想3FPGA の Tabula 社、MOSトランジスタの電流バラつきを減らせることで低消費電力を実現する Suvolta社など、新発想の半導体技術ベンチャーが現れてきている。

 

ちなみに日本語のベンチャー企業は、英語ではスタートアップ(startup)あるいはStartup companyと言う。ベンチャーと言うと、「あなたの言っていることはベンチャーキャピタルのことか?」と聞き返されることが多いので注意が必要だ。

 

一つの気がかりは、社長のIrmgardからくるTwitterによると、チームのメンバーの一人であるPatriciaが病気になったことだ。E-チケットは頂いたが、サンフランシスコ空港からのロジスティクスに関する情報が全くこなくなった。ブラジル出身のPatriciaは、非常に賢い(smart)働き者の女性であり、Irmgardの良いサポータだ。一刻も早い回復を祈る。

(2012/09/23)

NFCが広がる自動認識展とiPhone5に思う

(2012年9月14日 00:32)

昨日、自動認識展をのぞいてみた。ここでは、NFCNear field communication)のパビリオンが初めて登場した。また、パビリオン以外でもNFCを用いた決済システムをデンソーウェーブが展示するなど、NFC技術の広がりを強く感じた。

 

NFCは日本のFelicaと同じではないか、という声をよく聞く。実際、私もしばらく前まではそのように思っていた。しかし、NFCを取材して感じたことは、NFCは標準化された基本技術だが、Felicaは専用技術だということが最大の違いであり、日本にとって最大の問題である。つまり、IDや認証システム、決済システムなどを手ごろな価格で提供できないという問題が日本にはある。日本は相変わらず独自仕様のため高価で、世界には普及しないものを作っていることがここでも当てはまる。

 

Felica技術は、大きく分けてRF+モデム回路(ワイヤレス技術の基本)とセキュリティ回路からなる。NFCは前者と後者を分け、前者を標準化し、さらに後者のインターフェース部分も標準化したものだ。分けることによって、これまでカードにしか使えなかったFelicaの応用を携帯電話機やスマートフォン、タブレット、パソコンなど電子機器なら何にでも使えるようにした。専用部分はセキュリティ回路のセキュリティ部分だけだ。応用ごとにここだけソフトなどを書き直したりハードを追加したりすれば、応用範囲は格段に広がってくる。

 

NFCは、電子マネーの決済や交通の乗車券や航空券、入退室管理などセキュリティに係わる所だけをしっかり守ることで、世界中で使える規格となってきた。クレジットカードの延長として今後はNFCカードが世界中で使えるようになる日はそう遠くない。かつて、クレジットカードはお店でカード番号を写していた。そのうち、エンボスカードとなって、凸凹の部分を機械的にガシャガシャとスキャンすることで間違いなく番号を入力できるようになった。今は、カードリーダーによって決済機関およびカード会社の認証をとることで、数秒で確認できるようになった。NFCが金融、カード業界に普及すれば、スマホでどの店もカードを読み取るだけで決済できるようになる。私たちが気がつかないうちにスムースにそのように移行するだろう。

 

NFCの登場によって、スマホにも入るようになり、これまでの単純なお財布ケータイだけではなく、スマホが読み取り機・書き込み機(リーダー・ライター)になる。これまでのお財布ケータイは読み取られるだけのタグの役割しかなかった。ところが、スマホにはディスプレイもキーボードもある。タグだけに使うのはもったいない。リーダー・ライターとして使えれば用途は格段に広がる。NFCがすでにスマホに入った機種は50以上になるという。専用のカードリーダーは数1000台しかなかったが、スマホにNFCが入るようになり数十万を超えるカードリーダー・ライターの台数が世界中に普及していることになる。

 

iPhone5でがっかりしたのはNFCが入っていなかったこと。もともとアップルはNFC Forumのメンバーに入っていないため、iPhoneNFC認証されたチップが入ることはないだろうと思ってはいた。しかし、アップルのことだから、何かサプライズがあるかもしれないとiPhone5に期待した。結果は皆さんも知っての通りだ。残念に思う。アプリケーションプロセッサがA6になり、LTEが使え、画面サイズが少し大きくなり薄くなっただけだと、さほど代わり栄えはしない。これまでにもアンドロイドで似たような機種はある。アップルへのワクワク感が今回は裏切られた。

(2012/09/14)

台湾は「りゅうきゅう」だった―北京歴史博物館にて

(2012年9月 6日 11:54)

このブログで尖閣諸島問題を議論するつもりはないが、1992年に北京・天津を取材に訪れ休日に北京の歴史博物館を訪れた時のこと。ここで、台湾はかつて「りゅうきゅう」と呼ばれていたことを知った。天安門広場に面した歴史博物館は、隣接する革命博物館と同様、中国4000年の歴史を表す展示物を公開している。この博物館で、竹に書かれた象形文字や、古い壺や陶器などと並んで、ある地図に興味を持った。

 

唐の時代、明、清の時代、中華民国、中華人民共和国、それぞれの時代の地図があった。注目したのは、唐代末(874年~880年)に現在の台湾の形の島が「流求」と表示されていたのである。明らかに「りゅうきゅう」と読めるだろう。これが南宋の時代(1127年~1279年)の地図でもやはり「流求」と呼ばれていた。

 

元の時代(1271年~1368年)の末期の地図(1357~1359年と表示)を見ると、台湾を「瑠求」と呼んでいた。これも日本語で読むと、「りゅうきゅう」と読める。このことから、台湾は琉球王国の一部だったのではないだろうか、という推理が働く。琉球とはもちろん、現在の沖縄のことである。

 

さらに、明の時代の1405~1433年の地図を見ると、大陸の福建省と現在の台湾との海峡が「台湾海峡」と表記されていた。そして明代末期の1644年になって初めて、現在の台湾は「台湾」と呼ばれるようになった。つまり、台湾という名称は江戸時代に入ってから使われている。

 

琉球王国は、その後日本の薩摩藩によって支配され、明治に入り征服された、とされている。薩摩藩が支配していた時、琉球王国は清国にも朝貢していた。つまりは二重に支配されていた。その後、沖縄が日本に組み入れられた時には清の力はなく、日本のものになった。現在の台湾は、すでに台湾と呼ばれており「りゅうきゅう」ではなかったようだ。

 

尖閣諸島は琉球王国に組み入れられていたと言われている。だとするとやはり尖閣諸島は日本のものであり、台湾のものかもしれない。しかし、どのように見ても中国のものではない。今の中国の言い分は、尖閣諸島は台湾のものであり、台湾は中国のものだから、尖閣諸島は中国のものだという、三段論法である。極めて無理がある。しかし、台湾のものと言われると、そうかもしれないような気がする。もちろん、日本のものという論理も間違っていない。この辺りはグレーゾーンになっている。だから尖閣諸島問題が東南アジアで起きている。

(2012/09/06)

「カワイイ」は英語としてもはや普通に使われている

(2012年9月 3日 22:53)

「カワイイ」という言葉が英語としての市民権を得ていることを8月の米国出張でわかった。ロサンゼルスの飛行場で乗り継ぎ便を待っていたら、近くの椅子に座った親子連れの中国人がいて、その赤ちゃんを見て盛んに「カワイイ」を連発しているアメリカ人女性をみた。中国人はきょとんとして、何を言われているのかわからないままにしていると、米国女性は日本人ではなく中国人であることに気がついた。すぐさま、「失礼、とてもキュートだったので」、と言い訳していたが、本人は日本人の赤ちゃんだと思ったのだろう。

 

日本語の「カワイイ」は日本のアニメやコスプレなどを目にした海外の女性が発していたシーンをテレビで見たことがある。日本の「マンガ」は海外でずいぶん受け入れられている。80年代に来日した外国人が東京の電車内を体験し、日本人は電車の中で漫画を読むレベルの低い民族だと述べたというニュースを見たことがある。昔は漫画に理解を示さなかった米国人だったが、2~3年前に行ったサンフランシスコのBarnes & Nobleという書店には漫画コーナーがあるが、そのコーナーで漫画を立ち読みしていたのは米国人だけだった。

 

漫画の持つストーリー性や絵の忠実さやレベルの高さなどが理解されたのだと思う。漫画やアニメなど日本独特の文化が海外にも浸透しているのは事実だ。漫画という言葉も実はMangaという立派な英語になっている。どうやらメードインジャパンは今や工業製品ではなくアニメや漫画などのエンターテインメント商品やサービスが主力になっているのではないだろうか。

 

2005年ごろDesign News Japanの編集業務をしていた時、米国のDesign News編集長と電話会議をよく行った。その時の話の中で米国のDesign Newsは今後Mangaを採り入れたいという。その心は、一目でテーマを表せるからだという。Mangaは米国でももはや子供の読み物ではなくなった。その編集長は米国人のManga作家を見つけ、2ヵ月先の号ではMangaを使った機械エンジニアのストーリーを描いていた。

 

10年以上までの話だが、Nikkei Electronics Asiaの仕事をしていて、香港のスタッフと話をする機会が多かったが、中には日本のキャラクタ商品「キティちゃん」が大好きなスタッフもいた。彼女がバケーションを兼ねて来日した時、どこか行く目的地があるのかと尋ねたら「サンリオピューロランド」へ行くと言い、逆に私はその場所を知らなかった。また、韓国の若い記者と米国で話をしていた時、日本のある俳優(男性)を知っているかと聞かれたが私は知らなかった。日本人の私よりも韓国人の若者の方がよく知っているのである。日本の娯楽文化はアジアでは極めてなじみ深い。

 

もっと日本人は自分の文化に自信を持つべきではないか。カワイイ、ドラえもん、ハローキティ、AKB48など、日本発のオリジナル文化は世界中の心を捉えつつある。日本人が考える以上に、「あなたのビューティフルな国へまた遊びに行きたい」と考えている欧米人、アジア人は多い。この言葉を何人もの人から言われたことか。

2012/09/03

テキサスはジーンズ、シカゴはチノパン、東京のクールビズは?

(2012年8月21日 00:13)

旧暦のお盆を過ぎたというのに、毎日30℃以上の真夏日が続く。所によっては35℃以上の猛暑日に見舞われる都市もある。電力不足が予想されながらも停電という事態は免れている。シンガポールやクアラルンプールのような赤道直下の熱帯地方と比べても東京の方が暑いような気がする。湿気が多いからだろう。

 

最近はクールビズが当たり前になっているため、ネクタイを締めなくても許される時代になったことはたいへんありがたい。ネクタイを締めるだけで体感温度は2~3℃高まる。クールビズファッションは洋装業界から始まり、一般のビジネスマンにまで広がっている。

 

ただし働く環境で涼しければどのような格好でも良いという訳ではない。最低限のマナーともいうべきルールはあろう。その基準は相手に不快な思いをさせないことだろう。男ならきたない毛脛を出してオフィスで仕事することはご法度だろうし、女性ならへそ出しルックはご法度だろう。

 

カジュアルな服装にもルールはあり、このルールは国や地方によって変わる。以前勤めていた外資系出版社の1拠点であるシカゴでは、社内ではノーネクタイでもかまわなかった。普段はノーネクタイの営業担当者でもクライアントのオフィスを訪問する時は背広にネクタイで行く。女性の営業担当者は口紅程度の化粧をしジャケットを羽織って行く。男性のあるパブリッシャーに聞くと、基本的なルールは襟のあるシャツ以上で、ズボンは、ジーンズはダメだがチノパン以上ならOKだと決めている。

 

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85~10日滞在したテキサス州では、カーボーイハットにジーンズでもよいという。この地方ではジーンズは正装の一部だからだそうだ。ただし、よれよれのジーンズはダメで、ヒザの出ていない新しいジーンズに限るという。

 

日本の記者会見で驚くことは、丸首のTシャツによれよれのジーパンで来ている記者がいることだ。しかも一流ホテルを使った会見でさえも、このような不快な服装で来る。電力事情が切迫している昨今に、背広にネクタイとは言わないが(自分も講演の講師の時以外はネクタイしない)、せめて他人に不快な思いをさせないという気づかいは必要なのではないだろうか。むしろ、女性記者の方がまともな服装で出席している。記者の基本は情報を得ることだ。相手に不快な思いをさせて情報を十分引き出せるだろうか。

 

昨年この世を去ったスティーブ・ジョブズ氏は丸首にジーンズ姿でプレゼンを行っていた。しかし、彼を見ても不快に思わない。なぜか。ジーンズはきちんとした新しいモノを穿いているからではないだろうか。

 

米国の記者会見にも何度か出席したが、よれよれのジーパンにTシャツといった格好の記者はいない。多くの記者がノーネクタイでもウールのズボンにYシャツあるいはジャケット、といったそれなりの格好で来る。むしろ、米国の記者の方が時と場所、シーンを使い分けた服装をしている。

 

私は決しておしゃれを楽しむ人間ではない。妻から「あなたのようなおしゃれをしない人間は見たことがない」とよく言われる。自分は最低限、相手に不快な思いをさせないような服装をすることだけは心得ている。着る服がわからない場合は、Yシャツにウールのズボンにジャケットを着るか、涼しい季節なら背広にネクタイで済ましてしまう。これなら少なくとも相手は不快な思いをしなくて済むだろうから。

2012/08/21

水族館にゴードン・ムーアさんはじめハイテク関係者が寄付

(2012年8月 1日 21:54)

海外取材で企業や大学を訪問したり、公共施設を訪れたりして気が付くことだが、米国の産業人はずいぶん寄付をしている。米国に西海岸カリフォルニア州シリコンバレーにある名門スタンフォード大学に行くと、ビル・ゲーツ研究所がある。英国のケンブリッジ大学を訪れた時もビル・ゲーツ研究所を見かけた。

シリコンバレーから50kmほど南へ行ったところにモントレーという街があり、今春、モントレーにある水族館を訪れた。水族館の入口には高額の寄付をされた方々の名前があった。その中に、ビル・ゲーツ夫妻はもちろん、ムーアの法則(半導体の集積度は年率2倍で増加すると1965年に発表した経験則)で有名なゴードン・ムーア夫妻、ヒューレット・パッカード社を創設した、ウィリアム・ヒューレット夫妻、デビッド・パッカード夫妻の名を見つけた。


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スタンフォード大学構内にあるビル・ゲーツコンピュータ科学研究所


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モントレーの街並み 左側の建物のさらに左側には海が面している。


モントレーはジョン・スタインベックの小説「キャナリー・ロウ(缶詰横丁)」の舞台となった街で、自身もここで暮したことがある。ここはイワシの缶詰(いわゆるオイルサーディン)工場があった場所で、海側に水族館がある。今春、GlobalPress Connections社主催のe-Summit 2012の中日にエクスカーション(遠足)を計画してくれ、モントレーを訪れることになった。

水族館の入口に高額の寄付をした人たちの名前が記されていた。私の知っているハイテク関係者で10万ドル以上高額の寄付をした人たちは、水族館とは無縁の仕事をしてきた人たちだ。半導体の集積度は毎年2倍のペースで高まっていくことを1965年に発表したゴードン・ムーア氏は現在もインテル社の名誉会長である。ヒューレット・パッカード社の二人の創始者はスタンフォード大学にも、名前を刻んだ建物がある。

米国では個人の寄付がこのように至るところに見られるが、日本とは大きく違う。もちろん、億単位の給料をもらう経営者が少ないこともあるが、それだけではない。かつて日本には、「自分が死んだら自分が持っているゴッホの絵も一緒に燃やしてくれ」と言っていた大企業の社長がいた。ゴッホの絵は人類の財産だ。個人の好き勝手にできるものではないはず。なぜ美術館に寄付しようという気持ちが働かなかったのか。

米国では寄付をするとその分、税金を控除されるという仕組みがある。個人が団体に寄付した分を控除することは国家にとって収入が減ることに他ならないから財務省は嫌がる。しかし国民感情としては、自分のお金が社会に有意義に使われることは透明性が高い。税金は役人の給料にもなっており、そのほか何に使われるか不透明だ。水族館や美術館、図書館、学校など公共施設に寄付するのならその分税金を減らせるわけだから、公共施設は財務省の管理内であるし、控除の対象にしてもよいだろうと思うが。

要は、働く人間がモチベーション高く、社会のために働いてくれれば国としても良い訳だろうから、国は寄付による税控除をもっと真剣に考えるべきではないだろうか。米国のように、高額所得者にかける税金が高い国において、寄付控除によって公共施設を教育目的で充実させることは、寄付する人間にとっても満足がいくのではないだろうか。

8月6日からのNI Week

(2012年8月 1日 17:23)

今年は、テキサス州オースチンで開かれるNI Weekに参加することになった。NINational Instruments社の略である。オースチンは、米国の半導体コンソシアムであるSEMATECHがあった街であるし、かつてモトローラやモステック、SRCなど半導体関係の企業やコンソシアムが集まっていた。今でもサムスン電子、SiliconLabsなどの拠点もある。

NIは、もともとソフトウエアを利用したフレキシブルな測定器としてこの業界に参入した。その発想は極めて革新的だ。ソフトウエアと、ハードウエアボードがあれば、パソコンがオシロスコープにもスペクトルアナライザにもなる。NIは当初、Virtual Instrument(仮想測定器)と呼んだ。

ただし、この呼び名は誤解を受けやすい。例えばオシロスコープなら時間軸に対する電圧や電流の波形を表示するが、まるでシミュレーションだけで本当は測定していないようにもとれる。このため、同社はこの呼び名をやめた。その後、データ測定だけではなく、設計、シミュレーション、テストが可能なさらにフレキシブルなLabVIEWと呼ぶ、開発環境をリリース、これが現在同社の大きな原動力になっている。

LabVIEWは、グラフィカルユーザーインターフェースを使って、回路やシステムを組み、組んだ回路を測定・テストする総合的な開発環境である。LabVIEWの開発環境に、グラフィカルプログラミング言語(G言語)とコンパイラやデバッガ、リンカなども統合されているため、グラフィカルなユーザインターフェースを利用してプログラミングしてすぐに結果を知ることが可能だ。例えば、回路図をライブラリからコピペしてプログラミング言語も加えて回路の機能をテストすることができる。

このLabVIEWと、ちょっとしたカスタム設計のハードウエアボードを使えば、ソフトウエアを書き直し、ハードウエア部分もFPGA等のソフトウエアベースの半導体チップで回路構成をし直すだけで、ほとんどすべての機能をフレキシブルに実現できる。例えば、まだ規格が決まらない先端技術の開発などにはピッタリだ。規格がたくさんあってとてもASICのようなハードワイヤードでカスタム半導体回路を起こしきれない、といった開発案件にも対応できる。特に携帯通信規格のLTELTE-Advanced(4G)など、各国で規格や周波数が違う技術にはピッタリだ。

今回、久しぶりに企業の招待での海外出張となる。NIの創業者の一人でありCEOでもある、James Truchard氏は米国のハイテク経営者の中でも尊敬されている経営者の一人だ。話を聞くのがとても楽しみである。