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NEWS&CHIPS|国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト、メディアコンサルタント津田建二の事業内容~技術・科学分野の取材・執筆(国際技術ジャーナリスト)
   

社長同士の話し合いができる組織GSA

(2013年12月 5日 23:54)

アメリカだけではなく、欧州もアジアも世界中の半導体メーカーのトップエグゼクティブが集まる会合がある。GSAGlobal Semiconductor Alliance)と呼ばれる組織だ。しかし、ここには日本の半導体メーカーで参加しているのは、東芝とザインエレクトロニクスの2社しかいない。ルネサスエレクトロニクスも富士通セミコンダクターもソニーもパナソニックもロームも参加していない。これでグローバルなコラボレーションができるとでも思っているのだろうか。

 

この組織の特長は、経営トップが一堂に集まることだ。半導体産業はグローバルなコラボレーションが必要なエコシステム(生態系のような仕組み)を作らずして、成長することが極めて難しくなっている産業だ。GSAには垂直統合型の半導体メーカー(IDM)だけではなく、ファブレス半導体企業、製造だけのファウンドリ企業、設計のCADツールを提供するEDAベンダー、複雑なIC回路上の一部の価値ある回路IPを設計するIPベンダー、デザインを請け負うデザインハウス、製造装置メーカー、後工程専門請負のOSATOutsourced Semiconductor Assembly and Test)ベンダー、半導体向け材料メーカーなどが参加している。製造装置メーカー大手の東京エレクトロンもメンバーだ。

 

これらの企業をみているとコンペティターよりも相補関係を結ぶことのできるコラボ向きの企業が圧倒的に多いことがわかる。半導体産業はもはや自社ですべての工程を賄えなくなっている。無理に賄おうとすると利益が出ず赤字に陥る。日本の半導体メーカーの状況はまさにこれである。自社の強みを生かすことなく、苦手の工程までも自社で行うからこそ、T2Mtime to market)に間に合わなくなり、ビジネス機会を失うのである。苦手の工程や作業は、得意な企業と組むこと。これが海外メーカーの勝ちパターンである。世界の半導体が成長しているのに、日本の半導体だけが成長せず落ちて行っているのはここに原因がある。

 

海外とのコラボレーションをしないどころか、海外メーカーを知ろうともしない、ことにも問題がある。「敵を知り己を知れば百戦危うからず」は、戦いの基本中の基本である。敵を知るためには、世界中の企業と話をして相手を知り、自分の強みを主張し、協力できることは協力(コラボ)する。敵だと思っていた企業がコラボの相手にもなりうる。協力の輪が広がればエコシステムになる。日本の経営トップが海外のトップを知り合い、お互いにコラボできるところを追求していけば双方にメリットのあるビジネスができるはずだ。

 

GSAのコンファレンスがセミコンジャパンに合わせて開催された。参加者があまり多くなかったが、世界と人脈ネットワークを作ろうという気構えが全くないのだろう。今回は先月、東京でセミナーを開催したため、エグゼクティブの海外からの参加は少なかったが、2年ほど前に東京でGSAの会議を開いたときは、ケイデンス、メンター、シノプシスのそれぞれの社長や半導体メーカーの社長らが集まり、ざっくばらんに話をした。ここに集まる人たちは、責任持って経営判断ができるCクラス(CEOCTOCFOCOOなどCの付く地位)の経営陣ばかりである。

 

ところが、日本のこういった集まりは、実がない。お付き合いでメンバーになっているため、社長は出ず、決定権を持たない代わりの人物がお付き合いで集まっている。これでは、サロンにすぎず、ビジネスはできない。GSAには経営トップが出る。トップの都合が悪ければ会合には出ない。決してお付き合いではない。GSAは、少なくとも日本で言うところの業界団体でもなくお付き合い団体とは全く違う。

 

社長同士が集まり話のできる環境だと、工場の売却や買収、エコシステムの構築などをスムースに進めることができる上に、相手と腹を割って話ができるようになる。新聞報道で、パナソニックが3000億円以上もかけたと思われる魚津、砺波、妙高の3工場をわずか100億円という金額でイスラエルの企業に売却するという記事があった。魚津工場は世界で最初に45nm生産ラインを立ち上げた最先端の工場だった。もしパナソニックの社長がGSAのメンバーで、海外企業の社長と深い話ができていたら、ここまで買いたたかれることもなく、工場の価値の高い時に売り払うこともできたはずだ。とにかく相手を知らないために、半導体事業が行き詰り、どうにもならなくなって初めて買ってくれ、と声をかけても結果は目に見えている。

 

GSAの年会費がいくらであるのか知らないが、たとえ1000万円や2000万円を払っても100億円が1000億円に化けると全く安いものだ。グローバルな協力関係を築くためにも国内半導体メーカーの社長が顔を出し、世界中の企業と知り合いになりお互いのメリットを見いだせる話ができるようになれば日本の復活にもつながる。GSA会長のJoep van Beurden氏によると、来週米国で社長が150名集まってディナーを開催するそうだ。ものすごい規模の集会であるが、社長同士の話から実りあるビジネスは多いはずだ。世界に疎い日本こそ、この組織に入り世界のことを学び、復活への糸口をつかんでほしいと願う。日本の企業よ、早く井の中の蛙から脱出してほしい。

2013/12/05

 

   

買収されて良かった~日本企業では先端技術を開発させてもらえなかった

(2013年11月20日 00:42)

今年の8月、富士通のマイコンとアナログの部隊は米国のNORフラッシュ半導体メーカーSpansion(スパンション)に買収された。それ以来、旧富士通のマイコン・アナログ部隊は、スパンション・イノベイツと名前を変えた。米国のシリコンバレーを本社とするSpansionの日本法人という位置づけではなく、Spansionという傘の下にスパンション・イノベイツ(マイコンとアナログ)とスパンション・ジャパン(NORフラッシュ)が入る、という組織になった。

 

いわば、富士通セミコンダクターのマイコンとアナログ部門はSpansionの一部門となったのである。この8月、一体どうなるのか、不安の声をスパンション・イノベイツの社員から聞いた。彼らはSpansionの考え方を全く知らなかったようだ。このため、社長兼CEOJohn Kispert氏が日本の市場や富士通に対してどう思っているのか、旧富士通の社員は不安気に思っていた。

 

John Kispert社長とは何度か東京でもシリコンバレーでもインタビューをしているし、東京と米国との間での電話インタビューも何度かある。彼は、日本が大好きな人間で、特に真面目に貪欲に働く人間が好きだ。組み込みシステム向けのNORフラッシュの日本のエンジニアをいつも、ものすごく優秀な(よくtremendousという表現をする)人たちのおかげで、日本市場に食い込めている、と評している。同時に、どう彼らのモチベーションを上げるか、新しい面白い仕事(チャレンジングでもあるが)を与えることこそ、経営者が行うべき仕事だという。エンジニアは仕事に没頭でき、幸せ感に浸れるだろう。企業は人なり、という昔の日本の企業経営者がよく言ったことをJohnは実践している。

 

このほど、日本のスパンション・イノベイツの会見(主催はスパンション社)があり、日本人社長にスパンションと一緒になってから、シナジー効果は出てきているのかどうかを質問した。というのは、この会見では新製品を発表したが、旧富士通セミの製品の延長でしかなかったからだ。今の段階ではまだ、スパンションの技術を採り入れていなかった。つまり買収によるシナジー効果はまだ出ていない。

 

ところが、である。現在の製品の次の製品にはスパンション独自のMirrorBitテクノロジーを組み込んだマイコンを出してくるようだ。富士通時代なら、プロセス技術は55nm技術どまりで、これ以上のテクノロジーの開発も発展も期待できなかったため、エンジニアのモチベーションも下がってしまっていた。ところが、スパンションは40nmテクノロジー、さらに28nmテクノロジーも進めていく、と社内で言っているという。これによってエンジニアのモチベーションは上がってきた。「われわれは先端技術をもっと開発できるのだ」というモチベーションだ。

 

もし、富士通にいたままだと、先端技術の開発は許されず、エンジニアは悶々とした毎日を送っていただろう。買収されて良かったと感じているのではないだろうか。富士通セミコンダクターのエンジニアの生の声を聞く機会があれば聞いてみたい。

2013/11/19

   

世界のメガトレンドから半導体の未来を議論した本

(2013年11月17日 22:03)

国内だけにいると、半導体は落ち目の産業のように思えてしまう。新聞は、リストラや工場売却の話しか報道しないし、半導体企業の成功した仕事について全く報道しない。円ベースで今年の売り上げはソニーが4%増、富士通セミコンダクターは3%増(アナログ・マイコンを8月に売却)、ルネサスは2%増になる見込みで、東芝は全社の利益の半分くらいを半導体フラッシュメモリが稼ぎ出しているようだ。もちろん、世界の半導体産業はもっと成長率が高い。

 

また、半導体はこれから先の成長分野の中核エンジンになる。医療・ヘルスケア、スマートグリッドやコミュニティ、スマートハウス、電気自動車やプラグインハイブリッド、全自律運転カー、ロボット、人工衛星、再

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生可能エネルギー、IoTInternet of Things)、ワイヤレスセンサネットワーク、エネルギーハーベスティング、モバイル端末、通信インフラ、IT/クラウド・コンピューティング、NFCカード、ともかくこれから成長するビジネス分野の全てにおいて頭脳となりエンジンとなる。半導体がなければ、これらの成長分野は成り立たない。

 

残念ながら、半導体というだけで日本ではもう本が売れないと聞く。半導体の作り方、製造技術に関する本は山のようにある。だが今、求められるのは、半導体を使う側の視点である。世界がいまどう動いているから、それに必要なシステムがどうなり、その結果、半導体の未来がどうなる、というストーリーの本は1冊もない。

 

この7月に日経BP 未来研究所から、半導体の未来を議論する本を作ってくれないか、という依頼をいただき、着手した。世界の大きなメガトレンドと人間の自然な要望(安心・安全・健康・長寿など)が作り出す未来のシステム、それに求められる半導体製品、それに必要な設計・製造技術、大きく変わるビジネスモデル、などを中心に半導体の未来を議論する本を作ってきた。大学の先生や企業のエンジニアに原稿を依頼し、自分でも執筆した。ようやく初校が終わり、再校段階まで来た。間もなく終わる。発行は、1217日を予定している。


この作業のため8月~11月のほとんどの土日を費やし、今年のクリスマスイルミネーションはいまだに何もテストしていない。今年のはじめに新たな点滅回路を試作し、テクトロニクス社の4万円台という低価格オシロスコープを使ってテストした(参考資料1)のだが、肝心の本番が手つかずの状態になっていて、近所の子供たちに申し訳ないと思っている。

 

校正の間、この本をもう一度読み直しながら、これまでにない本を作り出すことができて、良かったと思った。世界の大きなメガトレンドをしっかりつかむ企業でなければ今は生き残れない。日本の半導体はかつて、世界のメガトレンドを無視した結果、大敗したという苦い経験がある。DRAMで世界のトップからあらよあらよと転げ落ちていった様はまさにメガトレンドを無視した結果であった。コンピュータの世界で、ダウンサイジングという大きなメガトレンドを見ようともしてこなかったのである。

 

DRAM1980年代前半から大型コンピュータ(メインフレーム)に使われるようになった。日本の半導体メーカーは、16Kビットまでの米国支配から64Kビット以降は我が世の春を謳歌した。1986年には世界半導体ランキングの1NEC2位日立製作所、3位東芝という圧倒的な地位を手に入れた。DRAM64K256K1M4Mとひたすら4倍の集積度を上げていけばよかった。マーケティングで顧客の声を聞かなくてもひたすら4倍の製品を開発すればよかった。当時の大型コンピュータから見るとDRAMの容量は小さすぎて、集積度を上げてくれさえすればよかったからだ。

 

ところが、コンピュータサイドは大きなトレンドを起こしていた。大型コンピュータでは、ユーザーがプログラムを書いても、大勢順番待ちを強いられ3~4日間待たされることが常だった。このためコンピュータユーザーは、もっと性能が低くてもいいから安くていつでも使えるコンピュータが欲しい、という要求を強めていた。このためコンピュータは大型から、ミニコンやオフコン、ワークステーションと小型に向かっていた。その究極がパソコンだ。ところが、パソコンに使うメモリとなればとにかくコストを下げることが最優先。このため誤り訂正回路を使った高信頼のDRAMよりも、低コスト重視のDRAMへとトレンドは動いていった。

 

この動きにいち早く飛びついたのが米国のマイクロン社だった。安く作るための設計技術・製造技術、全てをつぎ込んだ。デザインルールを小さくする微細化(リソグラフィ)技術、同じデザインルールでもチップを小さくできるコンパクトなレイアウト法、そして工程を短くするマスク削減、こういった技術を1985年前後から注ぎ込んだ。彼らはとにかく低コストで作ることに専念し、チップを大きくしない技術を最優先した。狙いはパソコンのみ。もしパソコンがソフトエラーを起こしてフリーズしたら再起動をかければすむ。ソフトエラーを防ぐための回路を集積するとチップが大きくなってしまうことを嫌った。

 

ところが日本のDRAMメーカーは相変わらず大型コンピュータ向けに誤り訂正回路、冗長ビット回路などエラーを起こさない回路を集積した高価なDRAMを作り続けた。マイクロンからライセンス供与を受けたサムスン電子が90年代前半にDRAMを出しても国内トップの責任者は「安売り競争に巻き込まれたくないから安いDRAMは作らない。人件費の安い国の企業とは競争しない」と明言した。ところがマイクロンが安いチップを製品化すると、初めて黒船が来襲したような大騒ぎになった。時すでに遅し。時代は大型コンピュータからパソコンへ主役が交代していた。日本メーカーは世界のトレンドを見ずにやってきた結果、大敗したのである。

 

この苦い経験を二度と味わってほしくない。このためには世界の大きなメガトレンドを知り、自社が向かうべき方向をつかみ、世界のトレンドと一緒に成長していけばよい。こういった願いを込めて、今回の本を作成した。タイトルは「メガトレンド 半導体 2014-2023」である。

 

参考資料

1.    個人で高性能オシロが買える時代が到来-テクトロの4万円台オシロを試す(連載5回)

http://news.mynavi.jp/series/tbs1000/001/index.html

http://news.mynavi.jp/series/tbs1000/002/index.html

http://news.mynavi.jp/series/tbs1000/003/index.html

http://news.mynavi.jp/series/tbs1000/004/index.html

http://news.mynavi.jp/series/tbs1000/005/index.html

 

   

国家プロジェクトはなぜ税金の無駄遣いと言われるのか~どうすれば無駄にならないか

(2013年11月 9日 21:57)

多くの国家プロジェクトが毎年生まれてくる。全て国民の血税で賄われている。これまでのやり方は、5年、7年と期間を区切ってプロジェクトを運営してきた。しかし、その間に数十億円、数百億円もかけて装置を購入する。プロジェクト期間が終われば、高価な装置は捨てざるを得ない。もったいない。どこかに売却しようにも、装置の運転コストが年に1億円規模もしたら、誰も買ってくれない。では、名前を変えてまた新規のプロジェクトとして継続しよう。こうやってゾンビのように次から次へとプロジェクトが消え、生まれてくる。でも運営資金は全て税金だ。これまでと同じようにまたプロジェクトを画策している話も最近、チラホラ聞こえてくる。

 

母体を運営する人たちの多くは「天下り」である。逆に、霞が関に新しいプロジェクトを提案すると、一民間企業の提案はまず採用しない。複数社を集め、工業会などの団体を含ませることが条件となる。その団体があるから天下りできるのである。ただ、私は天下りが悪いというつもりはない。天下りであっても、仕事に見合う給料を与えれば職を確保でき、失業することもない。問題なのは、給料に見合わない仕事しかやらない、できないことである。霞が関から天下りで年収2000万円もらっている人が2000万円に相当する仕事をしていれば全く問題ない。ところが、話を聞くと400万円くらいの仕事しかしていない人がたくさんいるらしい。だったら、400万円にすれば、天下りでも問題はないはずだ。

 

国家プロジェクトの最大の問題は、投入した資金に見合う仕事を生み出したか、という視点がないことだ。市場経済の社会では、投入する資金に対して自律的にお金を生む仕組みを生み出すことが団体を継続できる唯一の解である。自律的にお金を生み出さなければ、無制限に私たちの血税を投入することになる。

 

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海外の国家プロジェクトでは、税金を投入し続けなければ目的を達成できないというプロジェクトはほとんどの場合活力を削ぎ失敗している。逆に成功したところは、税金を回収できたところである。政府からの投入金をはるかに上回るほど自律的に稼ぐのである。IMECというベルギーの中のフランダース地方政府が税金を投入している半導体研究開発会社IMECは、毎年回収できており自律して稼いでいる。全体で使うコストに対する政府の出資金の割合は毎年低下しており、プロジェクトが生まれた時は100%だったが、今では20%にも満たない。シンガポールの国家研究機関IMEを取材した時も、国家が投入する予算の割合を毎年減らすから自律的に稼ぐようになっていると聞かされた。米国の半導体研究開発会社SEMATECHでも米国連邦政府の投入資金は、今はゼロ。ただ、ニューヨーク州が雇用創出のために、資金を出すから本部をニューヨーク州へ移せ、ということでテキサスからニューヨーク州へ移転した経緯がある。ニューヨーク州の目的は、このプロジェクトから起業させ、雇用を生み出すことだ。だから州税を投入するのである。これらの例は全て成功例だ。欧州には失敗例も多いが、彼らのほとんどは日本と同じひたすら国家予算から血税を投入している。

 

成功した国家プロジェクトでは、新たなベンチャー企業を何十社も創出し、雇用を数千人規模で新たに生み出している。同時に彼らがプレゼンするとき、何十社を企業させ、何千人の雇用を生んだ、ことをアピールする。投入した資金は新しい企業が自律的に稼いでいるからもはや税金は投入されていない、と述べているのだ。

 

日本の国家プロジェクトでは、資金の回収はおろか、ベンチャー企業を生み出さない。このプロジェクトから起業し、新たな雇用を生み出せば、税金は国民に還元される。ベンチャーキャピタリスト、ファンド、金融に加え、サプライチェーン、ハードウエア・ソフトウエア・サービスのエコシステムを築くのである。高価な装置も新しい企業に貸し出すなり、売却するなり、市場経済の仕組みの中に取り込んでいく。自律的に運転する方向に導くべきだろう。

 

ところが、国プロでは、出口、出口と研究成果を使うべき応用分野をうるさく言う。しかし、企業や大学の研究者に出口を求めることには無理がある。製品のユーザー(エンジニア)に会ったこともないからだ。研究者に出口を求めても、せいぜい鉛筆ナメナメしてどこかの調査レポートを丸写しにしているだけにすぎない。研究学園都市であるはずのつくばでは、大学と研究機関、企業がバラバラだと言われている。エコシステムどころか、話もしないという。一般に研究者や学者は象牙の塔にとどまっていたい、と考える人たちが多い。だから国内の多くの大学が産業界に十分貢献できていない。

 

英国のブリストル大学では、産業界と一緒になったプロジェクトを1~2年間組まなかった教授の給料を下げている。また海外では、教授の年間給料を12カ月ではなく11カ月しか支給しないところも多い。だから教授は産業界と一緒になって社会に役立つ研究を目指し、資金を稼ぐ。

 

エコシステムは企業同士だけではない。大学や国家の研究機関を研究開発のリソースとして使い、一緒になってエコシステムを作り上げる方が良いモノができる。今は世界的競争力が問われている時代だ。コンペティタは国内ではなく、世界中だ。みんなで知恵を寄せ集め、コスト競争力のある仕組みを作らなければ、世界中から置いてきぼりを食う。それには世界の企業や大学も仲間に組み入れるという視点も重要になる。当然、お金をたくさん出してもらう。日本の地盤沈下の役割を国家が担っているようなことに成り下がってはいけない。世界に勝てる社会を創るための仕組み作りを提供することが本来の国プロである。税金を闇雲に投入することではない。

                             (2013/11/09

   

スマホ・タブレット用半導体はクアルコムだけじゃない

(2013年10月19日 22:00)

最近、半導体の新しい用途はないですかね?と聞かれることが多くなった。そのたびに答えていることは「スマホやタブレットに使われる半導体はアプリケーションプロセッサ(APU)だけでではないですよ。スマホの仕組みを理解すればもっといろいろなところに半導体が使われています。この市場は大きいです」だ。

 

スマホは世界中でブームになっており、今回の米国でもアップルのiPhoneは相変わらず人気の的だ。次に見かける機種はサムスンだ。逆に言えばアップルとサムスンに納入できるようなチップを開発すればよいのである。彼らの話に耳を傾ければよい。

 

今回の米国取材でも、欧州、アジアのジャーナリストだけではなく、半導体メーカーやEDAベンダー、組み込みベンダーたちと話をすると、みんなスマホ市場を狙っている。APUと通信モデムで圧倒的なシェアを持つクアルコムだけではない。スマホ内部のテクノロジーや、自分たちの家族がどのスマホを使っているかという話も聞くことができる。日本では、スマホはもうクアルコムの一人勝ちだから、狙ってもしょうがない、という消極的な意見や、世界的なテクノロジートレンドについて行ってはいけないといった意見を述べる学者先生もいる。やはり、井の中の蛙なのだ。

 

世界の大きなテクノロジーの流れと一緒に乗っていけば必ず一緒に成長できる。誰も見ていない分野に向けることは実は危険が極めて大きい。市場があるかないかわからないからだ。誰もやっていないところで一発当てる、という発想は博打である。マーケット指向の市場経済でマーケットを見ずして、どうして経済成長できようか。

 

今回の米国取材は、Globalpress Connection主催のEuroAsia 2013をベースにしている。このイベントで話をしてくれる米国の企業は、モバイルコミュニケーションを軸に、スマホやタブレットはいうまでもなく、IoT(最近ではInternet of Thingsとは言わずにInternet of Everythingということが多くなってきた)、通信インフラ系、クラウド、そしてビッグデータ解析といった分野まできちんと見据えて、それに向けたチップを製品化してくる。もちろん、これらのハードに共通する電源用ICもある。クラウドはソフトウエアを貸し出すASP(アプリケーションサービスプロバイダ)ではない。自動化・自律化したシステムをクラウド上に構築することがハードウエアメーカーには求められているのだ。

 

もちろん、数量の出る分野はスマホそのものだ。ただし、その分、価格は安い。となると、安い価格でも設計・製造できるチップ技術を開発する。一つだけ例を紹介しよう。2001年に設立されたSilego(シレゴと発音)Technology社は、2009年ごろまではインテルのプロセッサ向けのクロックICを作っていた。クロックICとは、文字通り時刻を刻むためのICである。パソコンなどのプロセッサは決まった周波数でさまざまな命令やデータを動かす。その周波数のパルスに同期して働く。従来は水晶発振器から基準の周波数のパルスを発生させ、クロックICがそれを逓倍(テイバイと読む)して、いわゆる1GHzとか2GHzなどと言われているクロック周波数を発生させる。だからこそ、プロセッサを動かすためにはクロックICはプロセッサとセットとして使われてきた。

 

ところが、インテル2007年ごろからクロック回路をプロセッサに集積するようになり、クロックICは不要になった。今年発表されている新型プロセッサはすべてクロック内蔵である。シレゴ社はさて困った。このままでは業績は落ちていくだろう。このためには新製品が必要だ。

 

そこで、シレゴは顧客といろいろな話をしているうちに、スマホのプリント回路基板の面積の無駄を見つけた。抵抗やコンデンサなどの受動部品や、CMOS標準ロジック、単体のトランジスタが結構使われており、数十cm2程度の基板面積を占めていた。スマホは動作時間を延ばすために基板面積を減らしても電池の面積を拡大したい。数十cm2の面積を1~2mm2に減らせばスマホの動作時間を延ばせる。そう考えた。

 

しかも、新しいプロセッサの開発から製品化までは数年ある。この間はクロックICも生産中のプロセッサに使わざるを得ないはずだ。だからこの間に新型ICを開発しなければならない。シレゴ社が開発したICは何とFPGAである。常識ではFPGAは高価だ。もちろん、ザイリンクスやアルテラのような何百万ゲート以上に相当するようなICは高価である。シレゴのFPGAはわずか数10ゲートもあれば十分、という声に応えた。顧客と話をしていると、「レジスタ8個分だけのICが欲しい」とか「ほんのわずかなカスタマイズだから単体の部品を集めて構成している」といった声を聞いた。こういったわずかな回路を数十ゲートのプログラマブルなFPGAで作れば、どのような客にも対応できる。

 

この考えがヒットした。2007年~2010年の間は売り上げがフラットだったが、この新型FPGAを出して以来、急

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速に伸びた。予想通り、クロックICの売上は急速に落ちて行き、2013年はピーク時の1/10にまで落ちそうだ。一方、1円単位で勝負する安い新型FPGAは、2009年以降、CAGR(年平均成長率)が46%と驚異的な勢いで成長してきた。この結果、会社全体としても2013年の売り上げは2009年の2倍になりそうだ。

 

シレゴの成功は顧客の悩みに耳を傾けたことにある。それを簡単に開発するためのソフトウエアツールも作った。これさえあれば、顧客は自分の好きな回路を簡単にしかも自由に設計できる。回路自身は簡単だから、この設計ツールは慣れると20分くらいで設計が終わるという。客の声に沿ってスマホを理解し、シレゴは市場を見つけた。諦めずにスマホの技術を理解し、市場を見つけることこそ、成功の王道である。ちなみにシレゴの社長は、「自分の名前は、Ilbok Lee(イルボック・リー)と言うが、イルボOKと言ってくれ」と冗談を言い、極めて明るい前向きの韓国系アメリカ人だ。

2013/10/19

   

東京エレクトロン・Applied Materialsの合併の真実に迫る

(2013年10月17日 00:26)

半導体製造装置で世界第3位と2位である東京エレクトロンとApplied Materialsの経営統合について、これまでの取材をベースに考察してみたい。もちろん取材できないところもあるので、あくまでも考察とする。

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今回の経営統合を、両社のプレスリリースを見る限り対等合併を強調している。日本のメディアもそのように伝えた。しかし、Reuters(ロイター通信)Wall Street Journal(ウォールストリートジャーナル)などの海外メディアは、Appliedが東京エレクトロンを吸収合併すると伝えている。実のところはどうか。海外メディアの言い分の根拠はあいまいである。

 

両社のここ数年の業績を並べて見てみよう。(続きを見る)


   

シリコンバレーはResilientがよく似合う

(2013年10月14日 03:52)

半年ぶりに米国西海岸に来た。このGlobalpress Connections 主催のEuroAsia 2013イベントは14日の月曜日から始まるが、久々に講演スポンサのスロットが全て埋まった。米国の半導体業界は回復してきたといえる。

 

到着した昨日は土曜日で休日だったため、サンノゼの街を歩きながらテクノロジー博物館「The Tech」へ行った。購入したチケットには、「シリコンバレーの精神」をこの館の特徴とする、と書いてある。

 

米国のこういった公共施設には寄付が多い。この建物のプレミアムパートナー(スポンサー)として、サンノゼ市(言うまでもないことだが)、アプライドマテリアルズ、アクセンチュア、シスコシステム、マイクロソフト、フレクストロニクス、インテル、ノキアの名前が入っている。さらに寄付した個人が手形を付けた6インチウェーハが、所狭しとガラスケースに並べている。ここには、ムーアの法則で有名なゴードン・ムーア氏、長い間アプライドマテリアルズの社長だったジェームズ・モーガン氏など業界著名人の名前がずらりと並んでいる。さらにはヒューレット・パッカード社を始めた、ウィリアム・ヒューレットとデビッド・パッカード両氏の名前も見える(写真1)

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米国では施設に寄付が多いのは、税金が控除されるからであり、寄付された側も名前を展示することで敬意を表している。日本ではお金は全て財務省が管理するため、控除にならない。だが、市民側に立てば、寄付するお金は何に使われるのかがはっきりしている。少なくともこの博物館の運営に使われていることだけは確かである。以前紹介したモントレーの水族館でも寄付したハイテク業界の著名人の名前が書かれていた。税金だと、一体何に使われているのかわからない。私たち市民にとって、何に使われるのかわからない税金よりも、使い道のはっきりした寄付の方が納得できる。日本でも寄付が税金から控除されるようになれば、もっと寄付したい気持ちが高まり、寄付金はもっと増えるだろう。米国では寄付は税金控除の対象になる。公務員の方々みんなが滅私奉公の精神を持っているのなら、税金も納得できるのであるが。

 

テクノロジー博物館では、ゲーム感覚でテクノロジーを体験できる見せ方が多い。面白かったのは「ジェットコースターの設計」というシミュレーションだった。ジェットコースターの線路コースを五つくらいに分け、それぞれの形を選ばせる。最初は適度な角度で、のぼりはある程度急な角度にして、下りは緩やかでカーブもつけて、最後は360度回転させる。ここの設計がまずいとゲームは終わってしまう。設計がうまく行くと、今度はそれを、隣にある大スクリーンに移動しその成果を見る。コースターと同じ椅子に腰かけながら大画面のスクリーンを見て、さきほどのシミュレータで設計したコースターを再現する。グラフィックスシミュレータによって、今度はジェットコースターに乗っている感覚が味わえる。

 

ここで感じたことは、National Instruments社の設計ツールLabVIEWや、MathWorks社のMATLAB/Simulinkのように、ドラグ&ペーストで部品を組み合わせて全体を設計できるツールが使えることだ。子供たちに提供されるこういった便利なツールが、自分でテクノロジーを体験できる仕組みになっていることに驚いた。展示するだけや、一方的に教えるだけでは、子供たちは納得しない。ゲーム感覚でものを設計できるという体験はとても大事で、子供は自分で設計したものが成功する、という貴重な体験が得られる。日本はテクノロジーよりも科学の見世物が多いような気がする。米国の方がより実用的で、かつ楽しく体験できるような構成にしている。ここにiPhoneを生み出す原点があるような気がした。

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半導体の説明もしゃれている(写真2)。砂からシリコンへ、というビデオが流れていた。SiO2を主成分とする砂を還元すれはシリコンができるわけだが、そのシリコンから複雑なシステム回路を作り出す様子を示している。原料は、原理的には無尽蔵である。将来に渡ってもシリコン半導体でシステムを構成する、という立脚点に立てば、半導体も日本も将来は明るくなる。

 

最近、よく使われるビジネス英語で、「resilient」という形容詞がある。弾性的とか跳ね返りが強いとか、というような訳が辞書には載っていると思うが、ビジネスや経済の回復力が速いといった場面で使われる。ここしばらく、米国でも半導体は緩やかに回復していたが、今回のGlobalpressのプログラム状況を見ていて感じたが、米国のシリコンバレーにはResilientという言葉がよく似合う。

 

2013/10/14

   

今年のCEATECは静かだった

(2013年10月13日 12:54)

「今年のCEATECは静かだね」、とあるイギリス人から言われた。彼は数年間、日本に滞在した経験があり、かつてのCEATECを見てきた人間だ。今は英国に戻り、今回は久々に来日した。実際、初日のショーに来る人はかつてと比べると非常に少ない(写真)。民生の展示会そのものの傾向だろうか。であればInternational CESも同じように寂しいはずだ。ところが、CESはいまや大勢が来るようになっている。CEATECとは全く様相が違うのである。なぜだろうか。

 

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CESはかつて、Consumer Electronics Showとして新聞でも「家電見本市」と訳されている。しかし、昨年参加した時、報道関係向けの資料には、ショーの正式名称はInternational CESであり、CESConsumer Electronics Showと分解してはいけない、と書かれている。つまり家電見本市と訳してはいけないのだ。CESCESとして扱え、という訳だ。CESCConsumerだけではなく、ComputingCommunicationsなどの意味も含んでいるからだ。

 

International CESCEATECとは何が違うのか。CEATECに限らず、日本の展示会は開発品や新製品を見せるためのショーであることが多い。これに対して、海外の展示会は、展示するものではなく、商談するためのトレードショーである。完全なB2Bのイベントなのだ。だから、参加者数はあまり問題にしない。むしろ、Cクラスの人たちが、参加者の5060%を占める展示会だ、というアピールをする。Cクラスの人とは、CEOCTOCIOCFOなど経営者という範疇に入るエグゼクティブパーソンのこと。予算権限を握る人たちが多く参加するイベントであれば、もはやB2Bである。消費者が来る展示会はビジネスにはならない。だからCEATECに出展してもビジネスにつながらない、ということになる。実際、CEATECへの出展を取りやめた、ある企業は、ビジネスにつながらないことを嘆いていた。

 

日本は東京一極集中である。全てが東京に集まっているからこそ、東京に情報も集中する。あるアメリカ人がテキサスにいるときよりも東京に来る方がアメリカの情報がよく入る、と言っていた。ところが、アメリカでも欧州でも東京ほど、情報が集中する都市はほとんどない。このことはビジネスをするうえで、東京は極めて便利だが、欧米では20社の人と商談するため出張の予定を組むとなると一月くらいかかる。トレードショーでは、3日間で20社に会うことは簡単にできる。だから、出展社の担当者のスケジュール表を見せてもらうと、朝から夕方までびっしり詰まっている。B2Bのトレードショーに出展品に力を入れず、商談ルームに力を入れる。出展する大手企業は、商談室を20室も30室も作り、接待用の飲み物とおつまみを用意する。仮に担当者一人が15社のアポを持ち、常に20室が埋まっているとすると、わずか3日間で300社と商談していることになる。

 

CEATECでは4Kテレビやスマートフォンなどの展示が多く、そこに集まる人たちはコンシューマとして新製品を見ている。B2Bにはなっていない。商談には結び付きにくい。JEITAという工業会に入っているメンバーとして「お付き合い」で参加している企業が多いため、積極的な商談にするつもりのブースの作り方になっていない。

 

かつては電子部品や半導体の出展企業が極めて多かったが、なかでも国内の半導体企業は昨年同様、今年もロームだけだった。かつて出展していた日本企業が出展しない理由は業績が悪く「お付き合いする余裕がない」、という背景がある。ところが、海外企業もかつて常連だったTexas InstrumentsSTMicroelectronics、などはもはやいない。CEATECに来る来場者に魅力がないから海外企業も来ないのであろう。つまり来場者が出展者の顧客になるという関係ができていないのである。

 

この意味で、毎年2月にスペインのバルセロナで開かれるMWCMobile World Congress)は入場料が6~7万円、セミナーの聴講もセットだと15万円程度にもなる。それでも世界中から数万人が集まる。かつては第2世代の携帯電話規格であったGSM方式の通信オペレータの集まりであったが、今や通信機器(インフラ機器からモバイル端末、アクセサリ、半導体、部品まで)に関するトレードショーになった。ここではCクラスエグゼクティブが何万人来場した、と表現している。半導体ベンチャーや中小の企業を取材するときは商談ルームで行うことが多い。エリクソンのような大手インフラ機器メーカーの取材は、巨大な商談ルームで、新規開発機器のデモと説明について行う。スマホの展示はメインではない。

 

ここではモバイルブロードバンドを中心とするエコシステムが出来上がっており、部品から通信機器、通信オペレータに至るまで、それもハードウエアからソフトウエアまで、民生のスマホからインフラ系のソフトまで、完全なエコシステムが出来上がっている。これはビジネスとしては最高の環境になっている。

2013/10/13

   

「買収されてうれしい」企業もある

(2013年9月28日 20:14)

買収で勝った、負けた、はどうでもよい。東京エレクトロンとアプライドマテリアルズの統合のニュースに対しては、アプライド側が勝ち、東京エレクが負けた、というようなトーンの記事やブログが多い。大事なことは、1万人以上の社員の雇用を守り、事業を継続することである。世の中の役に立つ技術を開発してきた東京エレクが数年後に、パナソニックやシャープ、ルネサスのようになってもよいのか?

 

高く売れるうちに売り雇用を守ることこそ、優れた経営者がとるべき道であろう。エルピーダメモリが自力で立ち行かなくなり、企業再建を東京地裁に委ね、その結果米国のマイクロンテクノロジが資金を出すことになったことも同様である。再建を請け負った元社長の坂本氏は社員の首を切らないように頑張り、雇用を守った。坂本氏に対して、快く思っていない債権者も多い。しかし、地裁に委ねたということは、エルピーダの自力再生をギブアップしただけの話であり、債権放棄を含め、再生の道筋をつけたことは評価してよいだろう。

 

今回の東京エレクとアプライドの経営統合の話は現在取材中なので、詳しく今は書かない。近いうちに真相の裏付け記事を書くが、とりあえずは重要なことを忘れてはいけないことを指摘しておきたい。

 

2008年に英国の取材旅行において印象深い話を聞いた。ヘルスケアチップの先駆的ベンチャー企業であるトゥマウズ(Toumaz)社は、血圧や体温、心拍数を24時間1週間連続して測定し、そのデータを、スマホや携帯電話を通じてドクターに届ける、というビジネスを描いていた。この会社は、世界でも大学トップテンに入るほどの優秀なロンドンインペリアルカレッジのChris Toumazou教授とAlison Burdett講師(写真)


Alison Burdett (2560x1920).jpgが立ち上げたもの(参考資料1)。起業資金の一部は家族に出してもらった。ベンチャーキャピタルが日本と同様、あまり機能していなかったためだ。目標とするビジネスに向けて、当座の資金を得るためにデザインハウスを"アルバイト的に"やっていた。特にカナダの企業からデジタル補聴器の設計を受注してからは右肩上がりに成長していた。そろそろ、本業の目標設計に着手しようかと思っていた矢先、カナダの企業は補聴器設計を中止、注文がパタッと止まった。

 

そこで、トゥマウズ社は資金を集めるため、新聞広告を出し、自分の企業を買ってくださいと訴えた。幸い、大手が買収してくれたため、開発を本格的に始めることができた。2008年に半導体のオリンピックともいわれるISSCC(国際半導体回路学会)でヘルスケアチップについて講演し、翌年のISSCCで賞を受けた。講演したCTOAlisonさんは、今やBANbody area network)の世界的権威となっている。

 

要は、この小さなベンチャーは、高齢化問題、病院のベッド不足、病院たらいまわし、医療費削減、など現在、病院が抱えている問題を一気に解決できるヘルスケアチップの設計・生産まで持っていきたかったのである。その資金源のためなら、身売りも厭わない。米国のFDA(日本の厚生労働省に相当)の認可を2年前に取得、米カリフォルニア州サンタモニカにあるセントジョンズ病院で1年間臨床実験した結果、病気の早期発見・早期治療につながり有益な結果を得ている。経済的にも、入院患者の平均入院日数が6日間削減され、その結果コストは9000ドル(90万円)も削減できたと今年の6月に発表している。

 

2年前に米国のインターシル社を訪問した時、同社は画像処理技術を持つテックウェルを買収したのだが、テックウェル社から入社したエンジニアは自分の開発した技術をインターシルが買収して認めてくれた、と喜んでいた。ちなみにテックウェル社はシリコンバレーで日本人の小里文宏氏が起業したベンチャーであった。クルマのバックミラーに液晶パネルを組み込み、バックモニターとするデモを示した。

 

海外では日本と違い、大きな企業に買収されることは自分の技術を認めてくれたことだとして喜ぶケースもある。買収されることが必ずしも悪いことではない。むしろ自分の開発した技術が資金不足で世の中に出なかったり、閉鎖してしまったりするよりは、世の中に出し、世の中を変えるための半導体チップを開発して自己実現できるのであれば、買収されることはむしろ歓迎される。勝ち負けではない。

 

参考資料

欧州ファブレス半導体産業の真実、津田建二著、日刊工業新聞社発行


   

iPhone5Sに見る64ビットプロセッサの時代

(2013年9月11日 23:12)

日本時間本日の午前2時に発表されたiPhone5Sでは、64ビットのアプリケーションプロセッサが使われていることが明らかになった。スマートフォンに初めての64ビットプロセッサが使われたのである。iPhone5Sの技術を解き明かす。

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スマホに64ビットプロセッサとは! まずこのことに驚いた。パソコンに64ビットのインテルのプロセッサが搭載されて以来、まだそれほどの年数月は経っていない。今回アップルが搭載したのは、A7と呼ばれるアプリケーションプロセッサであるが、今回はアプリケーションプロセッサに加えて、もう一つセンサ信号処理用のプロセッサM7A7と共に使うコプロセッサとして搭載している。

 

M7は人の動きを鋭くキャッチする。歩いているのか、走っているのか、車を運転しているのか、全てわかる。ナビゲーションソフトとも連動し、クルマを駐車場に止め、歩き出したことを感知し、地図モードを車モードから歩きモードに切り替える。バッテリを長持ちさせるために、クルマに乗っていることをキャッチするとWi-Fi探索をやめる。また、しばらくの間iPhone5Sが動いていなければ、スリープモードに入ってネットワーク探索をやめ、電力を節約する。

 

M7は、加速度センサ(X,Y,Z軸に沿った直線的な動き)とジャイロセンサ(3軸について回転するような動き)、電子コンパス(北を示すN極を検知する磁気センサ)からの信号を検出・演算処理するもので、それらの組み合わせから、iPhoneユーザーがどのように動いているのかを知ることができる。その演算処理をM7A7と協調しながら実行するためにコプロセッサと呼ばれている。この演算処理するアルゴリズムにiPhoneならではの差別化技術をアップルは開発したのである。

 

iPhoneのようなモバイル端末に64ビットのプロセッサが使われたということは、DRAM容量をもっともっと増やせることを意味する。これまでの32ビットシステムだと232乗=4Gバイトしかアドレッシングできなかった。これ以上のメモリを積む意味がなかったが、64ビットとなると、264乗だから、ほぼ無限大(エクサバイト級)のDRAM容量を理論的には積むことが可能になる。現実にはコストとの兼ね合いになるが、動きセンサと処理コプロセッサを利用するiPhone5Sのユーザーエクスペリエンスは、これまでにないような楽しさを提供するだろう。

 

また、今回はゲームにおいて、本物感を出すためのグラフィックスプロセッサもA7には集積されている。アップルのホームページでその情報を見る限りかなり美しいグラフィックスなので、おそらくImagination TechnologiesのマルチコアのグラフィックスIPコアのPowerVRシリーズを集積しているに違いない。光の陰影処理が可能でまるで映画を見ているようなグラフィックスが同社のホームページに載っている。Imaginationはオートデスクの光効果のソフトウエアを開発した部門を数年前に買収し、当時はまだ消費電力の大きかったこの光処理をスマホレベルでも演算できるような演算アルゴリズムを開発したのであろう。

 

初期画面を出すための押しボタンにはサファイヤ結晶が使われている。サファイヤの薄くて丸いボタン板は、指紋をしっかりつかみ、その下に置かれたイメージセンサで指紋を読み取る。他人がiPhone5Sを拾って、このボタンを押してもiPhone5Sは動作しない。セキュリテイはバッチリだ。

(2013/09/11)