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NEWS&CHIPS|国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト、メディアコンサルタント津田建二の事業内容~技術・科学分野の取材・執筆(国際技術ジャーナリスト)

半導体業界の最近のブログ記事

自前主義だから、ファウンドリ事業をできないニッポン

(2014年5月29日 00:17)

日本のエレクトロニクス産業も半導体産業も、設計から製造・販売まで垂直統合方式で今日までやってきている。商品のライフが長い時代(1990年代半ばくらいまで)は、モノづくりに長い時間がかかってもやっていけた。2番手戦略でも十分に追いつけた。ソニーが画期的な製品(ウォークマンやカムコーダー、CD-ROMMDドライブなど独自の発明商品)を発売しても、2~3年で松下電器産業が追い付いた。商品ライフは長かったから、最初にリスクを負いながら開発せずに最初の商品を見た後に、残業・徹夜で追いつけば十分に利益を出せた。

 

今日、アナログからデジタルに進み、特に民生品の商品寿命が短くなると、これまでの2番手商法はもはや使えない。ここに日本の悩みがある。民生品はデジタルのモジュール方式になり、アナログの擦り合わせ方式は必要ではなくなった。東京大学のものづくり経営研究センターの藤本隆宏教授のグループは、日本が得意なのは擦り合わせ方式だと主張する。デジタル化はモジュール方式になり、レゴのようにモジュールを組み合わせれば深いノウハウがなくてもデジタル民生品を作れるとする。

 

日本の擦り合わせ方式は、垂直統合の良さを追求し、阿吽(あうん)の呼吸で設計から生産まで詳細な契約マニュアルを書かなくても製品を流すことができた、と言われている。全部が全部この通りではないが、一理ある。

(続く)

ルネサスの未来にやっと期待できるようになった

(2014年5月15日 23:10)

ルネサスの未来がようやく見えてきた。59日に発表された20143月期の決算報告会では、5期連続営業黒字が達成された。ただし、早期退職プログラムなどにかかるリストラ費用など特別損失として計上したため、純損益としては53億円の赤字になったが、昨年の大赤字から1623億円が改善された。

 

元々ルネサスがNECエレクトロニクスと一緒になった時、売り上げに対する社員数が異常に多く、誰が見ても収益は望めないことが合併する前からわかっていた。むしろ、合併する前に工場や人員を整理したうえで合併すべきだと言われていた。にもかかわらず先に合併した。これでは、日立やNECといった親会社の言いなりにならざるを得なくて、気の毒としか言えなかった。

 

この1年で工場の売却や閉鎖などで経費を削減し、過剰な人員も整理しただけではない。ルネサスが成長戦略として採用したことは、「車載のルネサス」戦略を鮮明に打ち出したことだ。これまでは、半導体製品の種類で事業を行っていた。マイコン事業、アナログ事業、パワー半導体事業、システムLSI事業などで区分けし、あくまでも作り手側の見方でしかなく、ユーザーの立場には全く立っていなかった。

 

これを、自動車事業(車載制御・車載情報)と、汎用事業(産業・家電、OAICT、その他汎用品)と応用別に分けた。汎用にどのような価値を設けるのかはわからないが、少なくとも「自動車事業ならルネサスに任せろ」と言わんばかりの組織である。とても頼もしい。自動車用の半導体であれば、マイコンだけではなく、センサ出力からのアナログやアクチュエータを駆動するパワー半導体、そしてアルゴリズムやソフトウエアを盛り込むシステムLSISoC)など、ユーザーの価値を決める重要な機能を提供する。ユーザーはルネサスに頼めば、ワンストップで自動車のECU用のチップを手に入れられ、ソフトウエアを盛り込むことができる。ユーザーは半導体のことを気にすることなく、ECUのシステムや自動車全体のネットワークなどシステムにフォーカスできる。これぞ、ルネサスの価値となる。

 

実は、カーエレクトロニクス分野に参入し始めた米国半導体メーカーは増えている。これまで自動車向けでほとんど実績のない米国メーカーがユニークなチップを設計して自動車メーカーに提案している。ルネサスはうかうかしていられない。だから、これまでののん気なルネサスが心配だった。まだルネサスはカーエレクトロニクスに強いが、いずれ抜かれるのではないかと私は恐れていた。

 

昨年の5月、オムロンから来た作田会長が工場を整理するとともに、ユーザー指向のコンセプトを社員に伝え、事業マインドを変えつつある。記者会見では、ARMのマイコンが浸透し始めているので、どう戦うのか、という質問があった。しかし、ARMマイコンと競争したりコラボしたりするという考えではなく、ユーザーから見てARMのマイコンを使うべきかどうかが重要だ、と答えている。以前、自動車事業を統括する大村執行役員と話をしていた時、彼はユーザーからみて、(ルネサスオリジナルの)SHコアかARMコアか、ユーザーの望むシステムにとってどちらが適しているかという視点で考える、と言っていた。ユーザーにとって、ARMSHVシリーズが揃っているからこそ、最適なアーキテクチャのCPUコアを使えば良いから選択肢が増えたと考えればよい、とする。

 

これらのコメントは、ルネサスがメーカー視点ではなくユーザー視点に変わってきていることを示している。すでに以前のルネサスではない。世界と戦える視点になっている。もはや、ダメなルネサスではなく、世界と戦えるルネサスになりつつある。インドに拠点を設けたこともその積極的な攻めの姿勢の表れである。インドで組み込みシステムを開発しているDelta Embedded Solutions社(写真)を昨年取材した時、彼らはルネサスのマイコンを使っていると言っており、どうやってルネサスにアプローチしたのかを聞いてみた。すると、いろいろなマイコンを比較した結果、

ESEC&AMD 017.JPG

ルネサスのマイコンが開発すべきシステムに最も適していたため、欧州ルネサスから入手したと答えていた。この時点ではまだ日本のルネサスにはアプローチしていなかった。今回のインドに拠点を設けるという姿勢は、インド市場にルネサスの汎用マイコンを普及させる絶好の機会になるだろう。

                            (2014/05/15)

サムスンとグローバルファウンドリーズの提携の裏側

(2014年4月26日 10:53)

サムスンとグローバルファウンドリーズ(GF)は、次世代技術である14nm finFET技術で提携した。このニュースの裏側から提携の真実に迫ってみよう。

 

この裏側にあるものは、両社ともトラブルを抱えている点である。このトラブルのタネを提携によって解決することで、両社ともウィン-ウィンの関係が得られる。日本経済新聞は、サムスンがGFにライセンス供与したとあり、サムスンの方が技術的に優位性を保っているような印象を受けるが、ライセンスを供与するのかどうかはどうでもよい。サムスンにとっては渡りに船のうまい話であり、同時にGFにとっても飛びつく話であった。なぜか。

(続く)

富士通とパナソニックの統合が失敗する理由

(2014年4月16日 23:19)

二日前、富士通とパナソニックを統合した新会社が設立されるというニュースがあった。1年以上も前に、「富士通とパナソニックを統合して成功するわけがない」という記事を書いた。今回も、何人かの人間に聞いてみた。成功すると思っている人は一人もいなかった。なぜか。ダメ同士の部門がくっついてどうして成功するのかわからない、と皆異口同音に言った。なぜダメ同士か。

 

1年前とは違う視点で考察してみよう。15日のロイターは、富士通とパナソニックは半導体システムLSIの設計・開発部門を統合する計画について今年秋新会社を設立することで大筋合意した、と報じた。そもそも、システムLSIとは何か?実は半導体メーカーの多くがシステムとは何かを知らずにこの言葉を使っていると複数の人たちから聞いた。メモリではない高集積の半導体チップを、ただ漠然とシステムLSIと呼んでいるようだ。

 

だからここではっきりと定義しよう。システムLSIとは、ハードウエアとソフトウエアからなるシステムという概念を取り入れた高集積の半導体チップ、と定義しよう。するとASICapplication specific IC)やASSPapplication specific standard product)とは全く異なる概念であることがわかる。ASICは、カスタム仕様のハードワイヤードロジックである。ここにはソフトウエアという概念はない。ASICを他の企業も使えるように仕様を少し緩和して複数社が採用できるようにした半導体チップをASSPと呼ぶ。こちらもハードだけのチップである。設計件数はどちらも減少している(1)

 

ASIC-ASSPtrend.jpg

システムLSIは別名SoC(システムオンチップ)とも言い、チップにシステムという概念が入る。ハードウエアの回路と、ソフトウエアを焼き込めるようなメモリを搭載したロジック回路である。具体的にはマイクロプロセッサとROMRAM、周辺回路、I/Oインターフェース、ストレージなどを搭載している(図2)。ROMには独自のソフトウエアを焼き込んでよし。差別化できる独自のアルゴリズムを格納してもよし。複数の仕様をソフトウエアで格納してもよし。一方、周辺回路には独自のハードウエアをロジックで組み、高速化回路とする。回路の中身は変えられないが、ソフトウエアよりもずっと高速にデータを処理できる。

 

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システムを構成する場合、何をハードウエアで考え、どれをソフトウエアで構築するか、何を半導体チップに集積し、何を別チップにするか、などを大きな俯瞰図のようにシステム全体を見て判断する。ファブレス半導体企業とは、ハードとソフトの塩梅(あんばい)を考えながら低コストで顧客のシステムを実現するための半導体を企画できる会社を指す。顧客の言われるとおりにプログラムを組み、RTL出力するだけのデザインハウスではない。

 

では、富士通のシステムLSI部門は、パナソニックのシステムLSI部門は、ハードとソフトをうまく切り分けてシステムを半導体チップに焼き付けることをやってきただろうか?筆者が取材する限り、残念ながら顧客の言われるとおりに半導体設計用言語HDLを使ってプログラムしてきただけである。いわば注文を受けてプログラムを書くプログラマ集団のデザインハウスに近い。半導体でシステム概念を企画・構成した経験があまりない。この作業を実は、富士通やパナソニックの半導体を発注しているコンピュータ事業部門やテレビ事業部門がやっていた。半導体部門はただ単にHDLでプログラム作業をしていただけなのだ。HDLでプログラムするのなら、インドの企業の方がコード効率の優れたRTLを出力できると言われている。

 

こういったデザインハウス部門同士をくっつけて、クアルコムやブロードコム、AMDnVidia、メディアテックなどのようなユニークで、しかも価値のある半導体を企画開発できるのだろうか。まずこの出発点が間違っているのではないだろうか。

 

百歩譲って、ファブレス半導体企画メーカーを設立するのであれば、システムのことを熟知しているハードとソフトの人間を大量に採用しなければならない。親会社から移動させる手もあろう。外部から採用する手もあろう。とにかく、ソフトウエアにも大量の人員が必要なのだ。NORフラッシュメモリで復活したスパンションでさえ、ソフトウエア人材を大量に採用したとCEOのジョン・キスパート氏は述べている。ファブレスを目指すのならソフトウエア技術者を大量に採用する覚悟があるのだろうか。

 

経営者がMOTというか、IT・システム技術を理解しているのなら、システムLSI半導体部門を切り離すのなら、企画のできるコンピュータ部門なり通信機器部門なりからソフトウエアエンジニアを半導体部門に投入することは欠かせない。これなしでは半導体部門だけをくっつけさせても失敗することは目に見えている。

 

さらに言えば、世界の勝ち組半導体メーカーは、顧客の一つ上のレイヤーまで抑えたソリューションプロバイダに変身してきている。ソリューション提案をすることで顧客を納得させ、増やしている。もはや御用聞きだけでは務まらない。こういった世界的な流れまで捉えた仕組みを理解しているだろうか。1年以上前に言ったことから、結局何も変わっていない。

2014/04/16

「アップルがルネサス子会社買収」報道の裏を読む

(2014年4月 3日 21:25)

42日の日本経済新聞一面トップに「アップルが買収交渉、ルネサス半導体子会社」という見出しの記事が出た。その日は、この真意を問う質問をよく受けた。半導体子会社とは、ルネサスが55%、シャープ25%、台湾Powerchip Group20%を出資して設立された液晶ディスプレイ用のドライバICを設計・製造しているルネサスエスピードライバ社のこと。

 

ルネサス本社は、即日「(省略)報道されている内容は、当社が発表したものではありません。当社およびルネサスエスピードライバは更なる成長の為、譲渡を含む様々な検討を行っておりますが、現時点で決定した事実はありません」というプレスリリースを流している。

 

面白いことに市場は素早く反応し、2日は前日比150円高の934円まで高騰した。アップルという最高のお客に買ってもらえることが決まり、まるで株価を釣り上げるためにこの情報が伝わったかのようだ。

 

株式市場はさておき、この話がなぜどこから出てきたのか、想像力を働かせて考えてみよう。これからの話はあくまでも想像力を働かせたものだ。まず、この話が事実とすれば、アップルによる買収は成立しないことは火を見るよりも明らかである。理由はいくつかある。まず、アップル側から見ると、ルネサスSPを買うメリットが何もない。液晶ドライバICはそれほどのハイテク製品ではなく、液晶の1画素を動作させるだけの駆動回路にすぎないからだ。このようなドライバICは、市販で購入できるコモディティである。画素数が求めるものと違うのなら、欲しい画素数のドライバをICメーカーに発注すれば済むだけだ。

 

次に、アップルは、このニュースが日本で流れた途端、「ルネサスは信用できない」と思ってしまうからだ。買収交渉は、絶対に外部に漏らさない秘密裡に行われるものであり、成立する前に漏れると、秘密を簡単に漏らすような相手だとして、信用されなくなる。特に、外国企業とのやり取りは、絶対に秘密厳守だ。

 

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ところが、日本企業の経営層や霞ヶ関上層部は、ドメスティックなやり方しか知らない。外国企業との交渉にも、日本的な事前リークによって既成事実化してしまおう、という古いやり方を使う。いまだにこの手法を使っていることに呆れてしまった。日本企業同士の合併ではよくある手だ。とにかく先に既成事実化してしまうことが勝ちだとばかりに新聞記者にリークする。企業内の権力争いの場合でもこの手をよく使い、次期社長などをリークして新聞に流すのである。社長のイス争いをしている場合にはよく使われた。もちろん、当人は知らぬ存ぜぬで通す。

 

こういったやり方は日本国内では通用したが、海外企業との交渉中では100%失敗する。富士通は三重工場を台湾の半導体大手TSMCに買ってもらおうと、新聞に発表したものの、TSMC側は全く反応を示さなかった。この場合は正々堂々とプレスリリースでもTSMCとの話し合いをしていると述べている。ルネサスが山形工場をTSMCに買ってもらいたいときでもTSMCに先駆けて新聞に情報を流し、失敗した。TSMCからすると、本気で買収交渉をしているのなら、秘密を漏らす相手とは組みたくない。信用できない。東京エレクトロンとアプライドマテリアルズの合併のニュースは、秘密裏に行われ、成功した。

 

話を元に戻そう。第三に、アップルは総じて外部に情報を漏らさないように情報を管理する企業である。スティーブ・ジョブズ氏が死去した後のお別れパーティのアナウンスはメディアにさえ流さなかった。偶然、前日スタンフォード大学構内を歩いていた時にそのアナウンスを見つけたが、内輪で行うことが書かれていた。もちろん、招待状を持たない人間は会場へは入れてもらえない。

 

アップルの内情を暴露した人間が訴えられたことも多い。だからこそ、ちょっとした噂話を流す、AppleInsiderというウェブが人気ある。新製品発表の日を報道関係者に知らせただけでもニュースになる。iPhone 5Sの発表の時がそうだった。アップルはApple Developers Conferenceのような正式発表の場やニュースリリース以外では決して発表しない。Googleもそれに近い。この意味で、今回の事件は、事実であればルネサスがアップルに訴えられるリスクもありうる。賠償されるリスクも覚悟しておく必要もあろう。

 

ではいったい誰が漏らしたのか。日経のニュースには、ご丁寧にシリコンバレー発のニュースのように扱っているが、無意味だ。ルネサスSPの関係者ではなかろう。そうならばルネサスから叱られるからだ。ではルネサス本社か、その事実を把握できる立場にある霞ヶ関か、ということになる。さもなければ、ルネサスの親会社(日立、NEC、三菱、産業革新機構など)も考えられる。ルネサスがすぐに上記のプレスリリースを流したということは、広報部が知らなかったということを意味する。広報以外のいずれかであろう。

 

ルネサスはこれまでもリストラを繰り返してきた。工場閉鎖、売却、早期退職、あらゆる後ろ向きの手段を講じてきた。ルネサスSPが作る液晶ドライバというコモディティ製品の工場もさっさと売ってしまいたい。もちろん設計アーキテクチャやサービス、ビジネスモデルに力を入れるアップルにとって、工場を買う必要もメリットもない。ましてやコモディティ製品はどのメーカーに頼んでも作ってもらえる。

 

日本の企業経営者や官僚はもっと国際的な感覚とビジネスルールを知ってほしい。そして売却やM&Aを視野に入れた戦略を進めるのであれば、外国企業の社長同士の会やパーティ、ディナーにぜひ顔を出し、11でとことん話し合ってほしい。米国は、腹を割って話ができる日本の経営者を求めている。新聞記者への安易なリークはもってのほかである。

                                   (2014/04/03

半導体は未来志向の産業、世界と組めば必ず復活する

(2014年3月19日 23:36)

「半導体・ITエレクトロニクスは何かよくわからない、難しいもの」と答えた学生が多かった。これは、数年前、ある大学の臨時講義で経営学部の学生たちに「半導体・ITエレクトロニクスと聞いてどう思うか、何を感じるか」と聞いたときの返事である。電子・半導体・ITが一体どのような産業なのか、多くの人たちは興味がない、あるいは知らない。

 

実はつい最近、ある大手化学メーカーにおいて、「メガトレンド 半導体 2014-2023」という本(1)に書いた大きなメガトレンドから未来の産業をイメージするという講演を行った。あとで講演を聞かれた人たちは「世の中の流れを広く掴むこと、社会のニーズの重要性を理解できた」という反応が返ってきた。半導体・エレクトロニクス業界の真っただ中にいると、直近の技術や業界動向に目が行きがちだからこそ、メガトレンドと人間の要求という視点での捉え方は理解しやすかったとも言われた。

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この二つの事実は、分野の全く異なる文科系の学生には、近寄りがたい何か訳のわからないもの半導体・エレクトロニクスであり、業界の専門家は目先の技術にとらわれやすい、という広く見えないことにつながっている。半導体エレクトロニクスは、かつてのコンピュータやトランジスタラジオから、スマホや自動車、デジカメ、テレビやプリンタ、炊飯器、洗濯機、掃除機、時計、エアコンなど身の回りにある電気・電池で動くもの全てに使われている。広がっているからこそ、身近な存在になってきたのにもかかわらず、気が付かない技術になっていた。LEDやソーラーもレーザーも半導体である。カーボンナノチューブやグラフェンなどの最先端材料でも半導体を作る動きがある。

 

米国シリコンバレー在住のPR会社のRegis McKenna氏がかつて、日経BP社の早朝レクチャーで話をしてくれた時、技術が身近になり、「Technology transparent」(技術が透明)になる時が技術の普及期にあたる、と言っていた。彼は昔、シリコンバレーの取材によく同行してくれた。テクノロジが透明になって誰も気が付かなくなると、誰でもそのテクノロジを使う時期になる、という言葉は的を射ている。携帯電話はどうやって遠く離れた人と通話できるのか、メールできるのか、きちんと説明できる人は極めて少ない。しかし多くの人々がそれを普通に使いこなしている。今の半導体・エレクトロニクスがこの状態になっている。

 

専門家であり半導体・エレクトロニクス産業に携わっている人たちは、目の前の技術にばかり目を奪われている。製造関係の人たちは、ムーアの法則が止まったら半導体産業は終わるのではないか、と危惧している。一方、新しいスマホやタブレットなどのデバイスや、プロセッサチップを設計している人たちは、10年後には100億トランジスタが搭載され、人類の頭脳に匹敵する機能を持つようになる、と将来に期待する。このギャップはいったい何なのか。製造しか見ていない人たちには、未来に向けた大きなメガトレンドを見ていないのである。あるいは製造も難しくなるが、設計はもっと複雑で困難になることが理解できていないこともある。しかし、人間の知恵は、これまでも様々な困難に打ち勝ってきた。

 

だからこそ、もっと大きな世の中全体の動き、すなわちメガトレンドをしっかりつかみ、直接の顧客の声は言うまでもないが、さらにその先の産業やユーザーの声もしっかり聴けば、成長できるのである。半導体製品は訳のわからないものではない。むしろ、私たちの生活を豊かにしてくれる産業である。例えば、全盲の方の目が見えるようにする可能性を秘めている。脳と目をつなぐ視神経さえ働けば、これは可能である。医学では不可能なことが半導体技術で可能になる。だからこそ、半導体は未来に向けた産業といえる。

 

新聞などのメディアでは、半導体産業は落ち目の産業というが、世界の半導体産業を取材すると全く違う。未来の産業だから、将来は医学で出来ない治療ができる、クルマの自動運転車が可能になる、癒してくれるロボットができる、といった未来を切り拓くことができる。世界では成長しているのに日本では成長していない産業であることは確かだ。だからこそ、世界のやり方を見習えば、日本も同じように成長できるはず。問題は、それをやっていないだけだ。日本人だけが参加していない会議、日本人だけが少ないミーティング、ワークショップ等たくさんある。社長同士の会合にも日本人だけが参加していない。こういったことから少しずつ世界の基準に合わせていけばよいのである。世界と一緒に進めるようになれば必ず日本は復活する。

2014/03/19

東芝から技術データを盗んだ産業スパイの実像に迫る

(2014年3月18日 20:14)

この週末の報道テレビ番組を見ていたら、あまりにもいい加減なコメントにうんざりした。そう、東芝から技術情報を盗んだ産業スパイの件だ。日本の技術者がアジアの企業に転職したことが即、技術情報の流出という単純な議論は事実を捉えていない。

 

今回の事件は、東芝のNANDフラッシュの研究データを盗み、ライバル企業の一社であるSK Hynixに提供したことが不正だというもの。逮捕されたのはサンディスクの元社員。サンディスクは東芝と共同でNANDフラッシュメモリを開発し、さらに量産工場にもお互い投資しており、両社の拠点は三重県の四日市の東芝工場内にある。元社員は、サンディスク社員でありながら、パートナーである東芝のサーバーに侵入しデータを不正に入手した。それを韓国のライバル企業であるSK Hynixに提供した。SK Hynixのサーバー内にデータを置いて社内の誰でも見られるようにしたという。

 

何のために提供したのかは今後の捜査を待たなければわからないが、可能性として考えられることはいくつかある。 (続きはこちらへ
                                     (2014/03/18)

半導体産業で勝ち組になる方法

(2014年2月 8日 14:50)

半導体はどこに今売れているのか。半導体チップを最も多く購入する企業の上位10社を市場調査会社のガートナーが1月下旬に発表した。第1位はサムスン、第2位がアップルである。3位ヒューレット・パッカード(HP)、4位レノボ、5位デル、6位にソニー、7位東芝、8位シスコ、9LG10位華為が続いている。これを見る限り、スマートフォンメーカーが最も購入量が多い。

 

購入額.png

かつては、パソコンメーカーが大量に購入した。このトップ10社にはパソコンメーカーは3~5位に下がっている。また、4位のレノボはパソコンからタブレットやスマホにも今は力を入れ直している。8位のシスコと10位の華為はモバイル端末よりも通信・ネットワーク機器に強い。

(続く)

半導体シリコンは、三菱マテの操業停止で不足するか

(2014年1月17日 23:22)

先週末の19日、三重県四日市市にある三菱マテリアル四日市工場で、5人が死亡、12人が重軽傷を負うという爆発事故が起きた。同社の従業員3名と、協力会社2名の尊い命が奪われた。ご冥福をお祈りします。

 

事故後、同社は同日プレスリリースを発表し、事故について即応した。さらに翌日、生産設備の操業を一時停止する旨をプレスリリースで述べた。再開時期については未定としている。14日には、役員報酬を1月から一部返上すると発表し、17日には今回の事故を受けて社外4(大学3名と協会関係者1)、社内2名からなる事故調査委員会を設置したことを発表した。これら一連の素早い行動は、経営層の本気度がよく表れており評価に値する。

 

9日の最初の発表によると、「水素精製設備の熱交換器を定期洗浄するために取り外し、所定の酸洗場において前洗浄を実施の後、蓋を開けた際に爆発が発生」とある。このリリースでは、周囲の設備に大きな被害はないと追加説明している。このことから、この熱交換器そのものが何らかの原因で爆発を起こしたものといえる。ここでは原因を追究・考察しない。自己調査委員会の調べを待つことにする。

 

この工場は、半導体シリコンの原料となる、多結晶シリコンを製造している。工場停止による半導体シリコンへの影響はどうなるのだろうか。考察してみたい。

(続く)

社長同士の話し合いができる組織GSA

(2013年12月 5日 23:54)

アメリカだけではなく、欧州もアジアも世界中の半導体メーカーのトップエグゼクティブが集まる会合がある。GSAGlobal Semiconductor Alliance)と呼ばれる組織だ。しかし、ここには日本の半導体メーカーで参加しているのは、東芝とザインエレクトロニクスの2社しかいない。ルネサスエレクトロニクスも富士通セミコンダクターもソニーもパナソニックもロームも参加していない。これでグローバルなコラボレーションができるとでも思っているのだろうか。

 

この組織の特長は、経営トップが一堂に集まることだ。半導体産業はグローバルなコラボレーションが必要なエコシステム(生態系のような仕組み)を作らずして、成長することが極めて難しくなっている産業だ。GSAには垂直統合型の半導体メーカー(IDM)だけではなく、ファブレス半導体企業、製造だけのファウンドリ企業、設計のCADツールを提供するEDAベンダー、複雑なIC回路上の一部の価値ある回路IPを設計するIPベンダー、デザインを請け負うデザインハウス、製造装置メーカー、後工程専門請負のOSATOutsourced Semiconductor Assembly and Test)ベンダー、半導体向け材料メーカーなどが参加している。製造装置メーカー大手の東京エレクトロンもメンバーだ。

 

これらの企業をみているとコンペティターよりも相補関係を結ぶことのできるコラボ向きの企業が圧倒的に多いことがわかる。半導体産業はもはや自社ですべての工程を賄えなくなっている。無理に賄おうとすると利益が出ず赤字に陥る。日本の半導体メーカーの状況はまさにこれである。自社の強みを生かすことなく、苦手の工程までも自社で行うからこそ、T2Mtime to market)に間に合わなくなり、ビジネス機会を失うのである。苦手の工程や作業は、得意な企業と組むこと。これが海外メーカーの勝ちパターンである。世界の半導体が成長しているのに、日本の半導体だけが成長せず落ちて行っているのはここに原因がある。

 

海外とのコラボレーションをしないどころか、海外メーカーを知ろうともしない、ことにも問題がある。「敵を知り己を知れば百戦危うからず」は、戦いの基本中の基本である。敵を知るためには、世界中の企業と話をして相手を知り、自分の強みを主張し、協力できることは協力(コラボ)する。敵だと思っていた企業がコラボの相手にもなりうる。協力の輪が広がればエコシステムになる。日本の経営トップが海外のトップを知り合い、お互いにコラボできるところを追求していけば双方にメリットのあるビジネスができるはずだ。

 

GSAのコンファレンスがセミコンジャパンに合わせて開催された。参加者があまり多くなかったが、世界と人脈ネットワークを作ろうという気構えが全くないのだろう。今回は先月、東京でセミナーを開催したため、エグゼクティブの海外からの参加は少なかったが、2年ほど前に東京でGSAの会議を開いたときは、ケイデンス、メンター、シノプシスのそれぞれの社長や半導体メーカーの社長らが集まり、ざっくばらんに話をした。ここに集まる人たちは、責任持って経営判断ができるCクラス(CEOCTOCFOCOOなどCの付く地位)の経営陣ばかりである。

 

ところが、日本のこういった集まりは、実がない。お付き合いでメンバーになっているため、社長は出ず、決定権を持たない代わりの人物がお付き合いで集まっている。これでは、サロンにすぎず、ビジネスはできない。GSAには経営トップが出る。トップの都合が悪ければ会合には出ない。決してお付き合いではない。GSAは、少なくとも日本で言うところの業界団体でもなくお付き合い団体とは全く違う。

 

社長同士が集まり話のできる環境だと、工場の売却や買収、エコシステムの構築などをスムースに進めることができる上に、相手と腹を割って話ができるようになる。新聞報道で、パナソニックが3000億円以上もかけたと思われる魚津、砺波、妙高の3工場をわずか100億円という金額でイスラエルの企業に売却するという記事があった。魚津工場は世界で最初に45nm生産ラインを立ち上げた最先端の工場だった。もしパナソニックの社長がGSAのメンバーで、海外企業の社長と深い話ができていたら、ここまで買いたたかれることもなく、工場の価値の高い時に売り払うこともできたはずだ。とにかく相手を知らないために、半導体事業が行き詰り、どうにもならなくなって初めて買ってくれ、と声をかけても結果は目に見えている。

 

GSAの年会費がいくらであるのか知らないが、たとえ1000万円や2000万円を払っても100億円が1000億円に化けると全く安いものだ。グローバルな協力関係を築くためにも国内半導体メーカーの社長が顔を出し、世界中の企業と知り合いになりお互いのメリットを見いだせる話ができるようになれば日本の復活にもつながる。GSA会長のJoep van Beurden氏によると、来週米国で社長が150名集まってディナーを開催するそうだ。ものすごい規模の集会であるが、社長同士の話から実りあるビジネスは多いはずだ。世界に疎い日本こそ、この組織に入り世界のことを学び、復活への糸口をつかんでほしいと願う。日本の企業よ、早く井の中の蛙から脱出してほしい。

2013/12/05