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NEWS&CHIPS|国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト、メディアコンサルタント津田建二の事業内容~技術・科学分野の取材・執筆(国際技術ジャーナリスト)

エレクトロニクス業界の最近のブログ記事

メーカーズ・ムーブメントの新潮流

(2016年3月10日 20:21)

最近、米国のハイテク企業からSTEMという言葉をよく聞くようになった。STEMは、Science(サイエンス)、Technology(テクノロジー)、Engineering(生産技術)Mathematics(数学)を並べた言葉である。なぜ、この言葉が重要な意味を持つようになったか。

技術立国日本にとって非常に重要な4つの言葉だからである。モノづくり、IT、エネルギー、ライフサイエンス、ヘルスケア、航空・宇宙、ロボット、ドローンなどの分野に共通で、モノづくりの設計から生産、品質・信頼性など全てに渡って、このSTEMに裏打ちされていなければ、良いものを安くみんなに行き渡らせることができない。

研究・開発ができても、安くみんなが買える価格で作れなければ、独りよがりの製品で誰も買わない・売れないモノになってしまう。かつて、スティーブ・ジョブズがアップルを追われ、ネクストコンピュータを設立して、高性能にこだわったコンピュータが全く売れなかった。価格が百万円以上もしたからだ。その後、アップルに招かれたジョブズが最初に手掛けたiMacは、当時まだ高価だった液晶を使わずに、ブラウン管を用いながらもスケルトンといった革新的なデザインで17万円程度という、一般の人が買える値段で発売した。見事にヒットしたことは誰もが知っている。ネクスト時代の値付けの重要性という失敗を経験したからだ。

開発して試作品を作るまでをテクノロジーとすれば、それを量産するためには、別の技術力、すなわちエンジニアリングが必要となる。もちろん、その前に試作品を作るためには、しっかりした原理に基づく設計図が必要で、原理を確立するためには、しっかりしたサイエンスが必要。数学的な記述は、サイエンスを裏付けたり、テクノロジーを表現したり、さらにはエンジニアリングの設計図を書く場合の表現としても使う。

最近のIoTInternet of Things)システムでは、STEMは欠かせない。システムの全てに使う。IoTデバイスでは、まずセンサによって温度や加速度、振動、回転(ジャイロ)、圧力などを電気信号に変換したら、そのアナログ波形の持つ意味をユーザーエクスペリエンスに合った行動に変換しなければならないが、このアルゴリズムは数学の世界である。デジタルで表現したら、今度はそれをデータとして送信しなければならない。送信するためのデジタル変調にもフーリエ変換やバタフライ演算などの数学的な記述が必要だ。最終的にはクラウドあるいはその手前のゲートウェイまで送る。クラウドではさまざまな多くのデータを解析するのに、また数学を使う。

大学や企業で何かを開発し、それを実用化、量産まで持っていくためには、STEMは欠かせない。最近では、金融の世界(フィンテック)まで偏微分方程式(ブラック-ショールズの式)が入ってきている。もはや理系も文系もない。サイエンス、数学、テクノロジー、エンジニアリング、すなわちSTEMは実際に商品・サービスとして扱う産業には欠かせなくなってきている。

エレクトロニクス/ITの世界では今、何かヒット商品を狙うというよりは社会問題を解決するため、という意識を海外の先端企業は持っている。まだ解決できない、例えばガンを治療するために半導体を利用する、てんかんを半導体チップで治療する、あるいは交通渋滞に対してセンサを利用してアダプティブなシステムで解決する、監視カメラと人工知能を組み合わせて犯罪を防止する。さまざまな社会問題をSTEMで解決するのである。こういった姿勢は、社会的な要求に基づくため、研究開発だけに終わらない。

目の不自由な人が健常者と同じように生活できるように支援することもできる(参考資料1)。社会の役に立つモノやサービスを提供する共通手法がSTEMである。こういった世の中の役に立つ製品やサービスを生み出す姿勢こそが、成功に導くことにつながるのではないかと思う。スティーブ・ジョブズのように世の中を変えてやる、という意識でビジネスを始める姿勢にも通じる。

 アメリカではすでに優秀な学生が金融やサービスではなく、モノづくりを選ぶように学生の意識が変わってきた。その環境が幸いにも揃ってきた。パソコンで動作する3D-CAD20万円程度で買える3Dプリンタ、自分のプログラムを組むための安いマイコン開発ツール、ウェブベースで電子回路を設計できる無料ツール、シミュレーションするための数学的なモデル、などが入手できる。かつてウィリアム・ヒューレットとデビッド・パッカードが自宅のガレージで測定器を作ってヒューレット・パッカード社を起業したように、今でも学生や素人がモノづくり産業を起業できる環境が整ってきた。これをメーカーズ・ムーブメント(Maker's Movement)と呼ぶ。これは新しい動きとなって全米に広がっている。

 

参考資料

1.    障がい者が健常者と同じように生活できる社会を目指す(2015/07/15

                             (2016/03/10

240枚/秒のハイビジョン映像を表示できるIP

(2016年3月 6日 20:47)

野球やテニスのボールを追いかける映像シーンや、F1レースで時速200kmを超す猛スピードのレースの映像シーン、山の上からコースを一気に滑り降りる平均時速100km以上のスキー滑降競技、高速で動くシーンはやはり高速のフレームレートで見ることができると美しさは際立つだろう。これはもはやスマホの世界にやってきた。

 

超高解像度の4Kディスプレイで、従来の2倍高速の60フレーム/秒(1秒間に60枚の絵がパラパラ漫画のように変化する映像)で動かす動画を見ることのできる半導体IPが米国のベンチャー企業、アラサン(Arasan Chip Systems)社からリリースされた。従来の1080pのハイビジョン仕様だと、さらに4倍の240フレーム/秒という超高速動作のシーンを見ることができる。さぞかし、ブレることなく、くっきりときれいな高速シーンを楽しめるだろう。

 

アラサン社が開発したこの半導体IPは、SoC(システムオンチップ)集積回路(IC)に載せる回路ブロックのことである。今やSoCにはCPU(プロセッサ回路)やメモリ、GPU(グラフィックス処理回路)だけではなく、外部のチップと接続するためのインタフェース回路なども集積されている。これらの回路ブロックは、それぞれ独立した知的財産であるためIPIntellectual Property:知財)と呼ばれている。今回、アラサン社が開発したIPはこの高速インタフェース回路である。ディスプレイやカメラと直結でき、わずか3本ないし4本の配線接続でディスプレイやカメラとつなげることができる。

 

今回アラサンがリリースしたIPは、カメラ用のMIPI C-PHY v.1.0とディスプレイ用のMIPI D-PHY v.2.02種類で、これらをSoC半導体に組み込むと、プロセッサとカメラやディスプレイを直結して高速・高解像度の映像を映したり見せたりすることができる。それぞれ、最大17Gbps18Gbpsという高速のデータ速度をサポートしている。これほどの速度なので、4Kディスプレイだと60/秒の映像や、1080pのハイビジョン映像だと240/秒と高速の映像を示すことができる。

 

スマートフォンをはじめとする携帯機器では、MIPIMobile Industry Processor Interface)と呼ばれる高速シリアルインタフェースを使うことが多く、スマホ内部の配線本数を減らし、内部の配線をすっきりさせている。かつてはコンピュータ同士やコンピュータ内部でも配線のお化けでぐちゃぐちゃの塊が多かった。しかし半導体ICが高速になるにつれ、配線本数をできるだけ減らすことができるようになった。従来の数十本のパラレル配線からわずか24本だけのシリアル配線に代えることができるようになったからだ。その分、データの送受信は高速に2本線だけでデータを送るようにしなければならなかったが、ICの高速化でそれが可能になった。

 

スマホの中もコンピュータ(プロセッサ)が入っているから同様なのだが、何せスマホは小さい。だからこそ配線本数を減らしたい。このために高速シリアル配線のインタフェースが必要となったのである。その代表例がMIPIだ。MIPIがあればクアルコムのチップでもメディアテックでもどこのプロセッサでも使える。今回アラサンがIPをライセンスするのはプロセッサとディスプレイやカメラをつなぐMIPI仕様のインタフェースである。IPを使うのは半導体メーカーだけではなく、スマホメーカーやカメラ、ディスプレイメーカーも使える。

 

IPをライセンス供与するビジネスを行っているIPベンダーには、かつてコンピュータやシステムのアーキテクチャに携わってきた人たちが多い。コンピュータ事業がサービスも取り込んだ総合ビジネスへと形態を変えるにつれ、ハードのエンジニアはコンピュータシステムから半導体設計アーキテクト、さらにはIPアーキテクトへとビジネス業態は変わるものの、業務内容は変わっていないエンジニアも多い。IPビジネスは売上こそ大きくないが、ハードウエア技術のキモを握る業種になりつつある。

                                                          (2016/03/06

ワトソン君とペッパー君の最強コンビ

(2016年2月18日 22:52)

218日、日本IBMとソフトバンクとの提携の果実が実った。IBMコグニティブコンピュータシステム「Watson(ワトソン)」を活用する日本語APIApplication Programming Interface)を6種類リリースした。これによって、IBMWatsonコンピュータを日本語で音声認識・合成などに対応できる。

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これまでWatsonを使いたくても英語で話しかけ、英語で答える必要があった。日本IBMとソフトバンクは1年間の共同作業を通じてWatsonAPIを日本語化したため、日本語でコグニティブコンピュータにアクセスできるようになった。日本のユーザーがIBMのコグニティブコンピュータを使える日がやってきたという訳だ。

 IBMWatsonは、米国テレビのクイズ番組「Jeopardy(ジェパディ)!」で人間のクイズ王を打ち負かしたコンピュータとして有名だ。Watsonを人工知能と呼ぶ向きがあるものの、IBMは人工知能とは言わず、コグニティブコンピュータと呼んでいる。コグニティブ(Cognitive)とは、英和辞典を引くと「認知的な」、「知的な」と書かれている。いわば認識できる機能を持つという意味である。人工知能とは、かつては「エキスパートシステム」と呼び、限られた専門用語で動作するシステムはあった。人間の脳神経の仕組みを真似たニューラルネットワークを指すこともあった。定義がはっきりしていないことが多かった。

 そこでIBMは、コグニティブコンピュータを、インターネットを通じて日々生まれてくる膨大なデータを理解し、人間の言葉を理解・推論し、学習するコンピュータシステムと定義している。このシステムを使うと、目的を持った推論をすることで、企業や人がより良い意思決定をできるようになる。

 このWatsonをソフトバンクのロボット、「ペッパー」に適用すると、ペッパーは鉄腕アトムくらい賢くなりそうだ。かといって、巨大な検索エンジンを搭載しているWatsonをそのままペッパーに搭載する訳にはいかない。このためクラウドを利用する。クラウドの向こうにあるWatsonに計算させるのである。クラウドは今やiPhoneの音声認識Siriですっかりおなじみになっている。音声認識コンピュータでリアルタイムに応答させようとすると、巨大なシステムになりとてもスマホの大きさには収まらない。このためSiriでは例えば、「近くのイタリアンレストラン」と言えば、その音声データだけをクラウドコンピュータに送り、クラウド側でその音声を捉え、意味を認識し、その意味に沿った答えを検索し、その結果を地図の起動によって出力する。これと同じことをペッパーに行わせればよい。

 展示会や企業の受付などで、今のペッパーがいると、話しかけてみるとその「知能程度」がわかる。初めての人間にはほとんど応答しない。これはペッパーが決まった言葉だけに反応するからで、実はそれほど賢くはない。誰の言葉で何を言っても人間と同じように反応するためには、コグニティブコンピュータが必要になる。ペッパーに呼びかけた言葉をクラウドのWatsonに入力すれば、たちどころに答えを送ってくれるようになる。いわばペッパーをもっと賢くするためにWatsonを利用するのである。

 ソフトバンクは、IBMとの提携し、一緒にビジネスすることで賢いペッパーをもっと幅広い分野でも使ってもらえることを狙っている。例えば、高齢者の日々の癒しにも対応できるようになる。呼べば答えてくれ、しかもどのような日本語の言葉も理解し、反応し、学習してくれるからだ。従来のロボットは、話せるボキャブラリはとても少なく、全く「会話」にならない。しかし、Watsonペッパーなら、見ず知らずの人にでも応答してくれ、しかも正解を導いてくれる。さまざまな業種・社会で受け入れられるようになる。

 IBMが提供する6種類の日本語APIは、Natural Language Classifier(自然言語分類)、Dialog(対話)、Retrieve and Rank(検索およびランク付け)、Document Conversion(文書変換)Speech to Text(音声認識)、Text to Speech(音声合成)である。この中で自然言語分類は、開発者が意図や意味を理解し異なる方法で質問されてもユーザーが回答を見つけ出す製品やアプリケーションを開発できるようにする。対話は、人間が質問する時の個人的なスタイルに合わせた会話を生み出すことでアプリケーションのより自然なインタラクションを可能にする。検索およびランク付けは、膨大なデータの中から意味のある信号を見つける機械学習を通して検索能力を高める。文書変換は、PDFWordHTMLなど異なるフォーマットのコンテンツをWatsonのサービスで使えるフォーマットに変換する。

 日本IBMは、国立情報学研究所が設立した「コグニティブ・イノベーションセンター」にも出資・支援することを最近発表している。これはIBMWatsonを利用して、新しいイノベーションでビジネスを起こしてほしい、という願いを持つセンターだ。全国の大学と強力なネットワークを持つ、大学共同利用機関法人の情報・システム研究機構の国立情報学研究所は、これまで文部科学省の予算でさまざまな研究センターを展開してきたが、国家予算では途中でテーマを変えることができなかった。しかし、「コグニティブ・イノベーションセンター」には国からの資金はゼロであるため、世の中の動きに応じて途中でテーマを時流に合ったものに変更できる。とりあえずは3年間の予算で計画するが、テーマによっては延長もありうるとしている。

 日本IBMはクラウドベースで、アプリケーションを作成したり、管理・実行したりするためのプラットフォーム「IBM Bluemix」も提供する。クラウドベースで賢いロボットやシステムを動かすためのアプリ開発ができるため、若者のイノベーション意欲に期待する声は大きい。

                             (2016/02/18

ソフトとハードのメーカーがIoTエコシステムを呼びかけ

(2016年2月14日 15:08)

日本マイクロソフトと東京エレクトロンデバイスが業界に呼びかけ、IoTビジネスを推進するためのエコシステム「IoTビジネス共創ラボ」を立ち上げた。東京エレクトロンデバイスが幹事会社、日本マイクロソフトが事務局となり、アクセンチュア、アバナード、テクノスデータサイエンス・マーケティング、電通国際情報サービスなど全10社でスタートした()

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IoTシステムは、センサというべきIoT端末からゲートウェイを通してクラウドに上げ、クラウド上でデータ解析などを行い、ユーザーである工場やオフィスの生産性を上げたり、業務改善をしたりするもの(参考資料1)IoT端末をインターネットにつなげることが目的ではなく、手段にすぎない。このため、データを解析するチーム、顧客が望む目的に応じたコンサルティング、クラウド上でやり取りするための基本プラットフォームの提供などの企業との連携がなくては目的を達成できない。もちろん、IoT端末やゲートウェイデバイスなどのハードウエアだけのビジネスでは全くない。このため、各企業との連携を通じて最終目的を達成することになる。

 

今回日本マイクロソフトは、コンサルティングのアクセンチュア、データ変換のアバナード、データ分析ソリューションのテクノスデータサイエンス・マーケティング、業務用アプリの電通国際情報サービス、業務用ソリューションサービスの日本ユニシス、コンサルティングとデータマイニングのブレインパッド、システムインテグレーションのユニアデックス、そしてIoT端末を提供するハードウエアデバイスの東京エレクトロンデバイスとアライアンスを立ち上げた。

 

IoT端末には東京エレクトロンデバイスの製品を使い、マイクロソフトのクラウドプラットフォームであるMicrosoft AzureをベースにしたIoTソリューションの開発を促進することができるようになる。

 

10社は、五つのワーキンググループを構成する。ビジネスインパクトのあるIoTシナリオを検討する「ビジネスワーキンググループ(WG)」、IoT端末から収集・蓄積した多様なデータを分析・活用する「分析WG」、など「製造WG」、「物流・社会インフラWG」、「ヘルスケアWG」である。

 

東京エレクトロンデバイスは、IntelTexas Instrumentsを始めさまざまな半導体や、ボード設計会社など3000社のメーカーの販社としてのネットワークを持つ。デバイスメーカーは、Microsoft Azureをプラットフォームとして、IoTサービスを利用できる。日本マイクロソフトは、短期間でのIoT導入を支援する「Azure IoT Suite」や、Azureとの接続に関して予めデバイスを認証する「Azure Certified for IoTプログラム」を提供する。「Azure IoT Suite」は、クラウド上でIoTの導入が簡単にできる遠隔監視、予兆保全、資産管理などIoTの汎用シナリオをパッケージ化したもの。「Azure Certified for IoTプログラム」は、IoTデバイスとソリューションバックエンド間をセキュリティで保護された双方向通信ができることを認定するプログラムである。何よりもIoTハードウエアがセキュリティ保証していなくては誰も使わないため、Azure Certified for IoTプログラムを利用して、クラウド準備ができたデバイスを認証することでシステムソリューションを構築できるようになる。認証システムは実用化する上で欠かせない。

 

IoTシステムでは、デバイスとクラウドをつなぎ、データ分析を行い再びデバイスのあるユーザーの元にソリューションを提供する。クラウド上で目的とするソリューションを探るためのツールがMicrosoft Azureである。

 

五つのワーキンググループを作ったのは、まず応用が見えている遠隔監視や予兆保全、資産管理といった分野から、最小限の機能から始めていく。実際に始めてから不足している機能や応用を見つければ、それらを追加していき、全ての業務に対応できるような本格導入へとつなげていく。Azure IoT Suiteでは、Windowsだけではなく、Android iOSなども使えるようにマルチデバイスに対応する。

 

今後ウェブや座学などのセミナーを通して1年間に1万人のIoT技術者を育成していくつもりだという。このエコシステムの会員は無料で入会できる。IoTビジネス共創ラボは現在の10社から1年以内の100社まで広げたいとしている。

 

参考資料

1.    IoTを正しく認識しよう(2015/11/01

                                             (2016/02/14)

会社更生法適用を避けてきたシャープ

(2016年2月 7日 20:47)

シャープに台湾の鴻海精密工業が資金を提供する再建案が浮上し、急転直下の様相を呈してきた。これまでのシャープの行動を見る限り、経営陣は何も決められない。自己資本比率が10%を切ってもなぜか、銀行が2000億円モノ資金を投入してくれたため、会社更生法を地裁に適用しなくて済んだ。しかし投入してくれた資金は、社員の給料支払いや日常の運営などで消えていくだけだった。無駄に時間が過ぎ、結局再び自己資本比率が一桁台に落ちようとしていた矢先に、鴻海の郭台銘CEOがシャープにきた。今年になってから数回に及ぶ訪問で7000億円を提示したと言われている。

 

シャープが会社更生法を申請すると、銀行が出したお金は紙屑になってしまう恐れがある。会社更生法適用を申請するくらいなら、との思いで銀行は融資した。しかし、本質的に誤解している点は、液晶ディスプレイをハイテクと勘違いしている点ではなかろうか。液晶ディスプレイは今や、韓国のサムスンやLGでさえも縮小し、中国勢に任せようとしている。それをわざわざ日本の企業が作るべき製品なのだろうか。中国の液晶ディスプレイメーカーは、ひたすら生産し続け、今や在庫の山を築いているといわれるほどだ。

 

ただ、ここまでぐずぐずと会社更生法を適用せず、過ごしてきたからには、もはや鴻海提案を受けざるを得ないだろう。会社を鴻海に改革してもらうしか手はないだろう。台湾は低コスト技術を持っている。残念ながらシャープには、性能の良いものを高く作る技術はあるが、コスト競争力を高める製品作りの技術はない。IGZOの基本特許でさえ、シャープだけのモノではない。

 

しかも今さら、産業革新機構が日本勢だけでチームを組んでみても、うまくいくとは思っている業界人はいるだろうか?ここに大赤字を出した東芝の家電チームが加わり、IoTやビッグデータ解析、クラウドなどの技術で世界と勝てるような戦略を打ち立てるような話もあるようだが、勝つためには何が必要なのか革新機構はわかっているのだろうか?

 

ダメな企業に決定的に不足しているのは、グローバルな考えや実行能力、戦略を立てる力、ビッグなピクチャーを描ける能力、それを元に自社のロードマップを描く力などである。いわば自社のミッションを社員が共有し、ビジョンをイメージしているか。社員の心を一つの方向に向かわせているか。

 

少なくとも、鴻海と合弁で運営している堺ディスプレイプロダクツは、合弁前の赤字垂れ流しを立て直すことができた。26日の日経によると、少なくとも好調だという。シャープの経営陣がぐずぐずといつまでも決めるべきことを決めなかったために多くのエンジニアが退社し、シャープそのものの技術力も失われた。もはや待ったなしではなかろうか。

 

ただし、鴻海の郭CEOは超ワンマンの経営者で、台湾での評判はあまり良くないと言われている。今回は一応、社員も経営陣も温存すると譲歩したようだが、これはあくまでも買収するまでのこと。買収した後、シャープに技術が残っていなかったと判断されると、どうなるかわからない。

 

台湾のメディアが鴻海に対して批判的な記事を書くと、訴訟を起こされると言われており、台湾の記者はビビッて鴻海の記事を書きたくないという声も聞く。もちろん事実に基づいた記事を書けば問題ないはずだが、台湾の司法の仕組みが筆者にはわからないため、判断のしようがない。ただ、超ワンマンの経営者であることは間違いなさそうだ。だとしても、いつ地裁に会社更生法適用を申請しても不思議ではないほど、追い詰められたシャープには、もはや選択肢は残っていない。

                            (2016/02/07)

ソリューション提案の時代に

(2016年2月 2日 23:41)

計測器メーカーのテクトロニクスが創立70周年を迎えた、と本日、記者発表会を開催した。この記念日に合わせ、会社のロゴを刷新し、右肩上がりの成長を期待して文字に斜めの切れ目を入れたデザインとなっている。

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ロゴの変更と共に、新戦略や新しい行動規範なども発表した。大きく変わるところは、これまでの製品中心のハードウエア会社から、アプリケーションにフォーカスしたテクノロジー会社へ、である。

 

ここ数年の動きだが、「製品を開発しました」はもはやニュース価値がなくなったと最近は思う。その製品で何ができるのか、その製品でユーザーはどのような価値が与えられるのか、に焦点が移っている。国内半導体メーカーのルネサスエレクトロニクスも、製品仕様を売りにしなくなった。これまでなら、例えばマイコンやプロセッサを発表する場合に周波数何MHzで動作するとか、何MBのメモリ容量を集積しているとか、何段のパイプライン構造を採っているとか、性能を競う技術の話ばかりだった。今は違う。このチップで何ができるか、ユーザーにどのような価値を提供できるか、を競っている。まさにユーザーエクスペリエンスの時代でもあるからだ。

 

実は、こういったソリューション提案を売りにすることを最初に聞いたのは10年前、日本IBMの半導体部門マイクロエレクトロニクスを取材した時だ。当時の責任者はこう話した。「かつてのIBMはメインフレームコンピュータやソフトウエア、プリンタなどそれぞれを製造している事業部がそれぞれ単体で同じ客に提供していた。客からすると、それぞれのハードウエアとソフトウエアで自分の欲しいシステムを組んでほしかったのだ。このことに気が付いて、IBMはサービスを提供することに価値を見出した。自ら持っているハードウエアとソフトウエアを活かして、サービスを提供した。同じように半導体部門も、これまで培ったハードウエア技術(設計と製造)とチップに焼き付けるソフトウエア技術を使い、顧客の求めるシステムを提供することに決めた」。

 

いわゆるソフトの時代ではない。もちろんハードの時代でもない。自ら持つ得意な資産を活かしてサービスを提供するのである。かつて、IBMがサービスの時代と言った時に、もうハード部門はいらないから縮小してしまえ、と半導体部門を大きく縮小した大手電機ITメーカーがあった。結局、経営者がIBMのサービスの時代の本質を理解していなかったために会社が大きな損失を被ってしまった。

 

今、世界の勝ち組を見ていると、顧客にどのような価値を提供するか、そのために客の求めるシステムを理解、先回りして提案する。こういった戦略を持つ企業が多い。ルネサスはこのままの戦略を続ければ、必ずや勝ち組に戻るだろう。

 

今日は歴史ある計測器メーカーもアプリケーション提案を標榜するようになったことに驚いた。計測器メーカーでも比較的歴史の新しいナショナルインスツルメンツ(NI)は、顧客にどのような価値を与えるか、価値創造の時代に入った、と数年前から標榜していた。NIはモジュールベースの計測器メーカーで、例えばオシロスコープ用の回路モジュール、スペクトルアナライザ用の回路モジュールなどをベースに演算や表示はパソコンでやらせよう、という発想をしてきた。このため進取の気性が強い。

 

テクトロニクスは40年前にカーブトレーサやオシロスコープなどを使っていたエンジニアには使い勝手の良い計測器だった。オレゴン州のポートランドに拠点を置き、一度訪ねたこともある。計測器は最先端のデバイスを測るため、それ以上に最先端性能を持つ半導体チップを使わなければ検出できないことがある。このため最先端半導体ユーザーには必ず計測器メーカーが含まれている。この古い歴史のある企業でさえ、新しいソリューション時代を標榜するからには、生き残る企業に必ずなるだろうと思う。

                             (2016/02/02

 

アリババまでが半導体に言及

(2016年1月26日 00:05)

中国のショッピングサイト、アリババが持つクラウドAlicloudに、ファブレス半導体メーカーnVidia(エヌビデア)の汎用グラフィックスプロセッサ(GPGPU)を使うことを発表した。つい2週間ほど前、アマゾンが半導体に参入することが発表されたばかりだ。アマゾンやアリババ、グーグルなどのOTTOver-the top)が自社のサーバーを高速化するのに半導体まで乗り出しているという訳だ。

 

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片や、東芝は半導体部門をどこか買ってくれるところに売り出そうとしている。全く対照的だ。OTTNTTドコモやKDDI、ソフトバンクなどの携帯通信事業者のネットワークを利用してサービスを展開する業者のことを言う。いわば通信業者→携帯電話メーカー→半導体など部品メーカー、という昔の上下関係から見ると、アマゾンやフェイスブックなどは一番上の通信業者のさらに上を行くサービス業者だから、トップの上という意味でOTTと呼ばれている。

 

そのようなOTTが一番下の半導体になぜ近づいてきたか。システムの性能・機能を左右するカギが半導体だからである。半導体メーカーがOTTのサービスを始め、システムの仕組みをしっかり理解していれば、実は半導体こそが彼らの生命線であることがわかる。ところが、肝心かなめの半導体メーカーが半導体の良さに気づいていないために工場の売却を今頃になって進めているのが現状である。だから筆者は2010年に「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」という本を日刊工業新聞社から出した(参考資料1)。残念ながらあまり売れなかったが、これから述べる二つの大きなトレンドを紹介した。

 

半導体産業には昔から今でも続いている大きなトレンドが二つある。一つは半導体を使う産業がかつては電子産業の中にとどまっていたが、今ではITやソフトウエア、サービスだけではなく、交通・航空・医療・ヘルスケア・自動車・電力・エネルギー・建設・建築・土木・食品・流通など、ありとあらゆる世界に広がっていることである。もう一つは、半導体産業が水平分業を突き詰めている産業だということ。かつては、半導体の材料から製造装置、設計ツール、設計者、工場全て一つの企業が持っていたが、80年代頃から設計専門会社やファブレス、製造専門のファウンドリ、製造装置専門企業、回路の一部であるIPだけを扱う企業など分業化が進んできた。にもかかわらず、つい数年前まで日本の半導体メーカーは、やはり1企業が設計から製造まで全てを行うIDM(垂直統合メーカー)がやっぱり良い、と豪語していた。

 

結果的に、メモリ以外のメーカーではIDMは成立しなくなり、ファブレスとファウンドリに分かれるようになった。工場を持つIDMは工場の意味や価値を問いかけ、必要最小限の差別化できる製品にのみ持つようにとどめている。これに対し、日本の多くのメーカーは工場に価値があると錯覚し、持ち続けたため、利益が出なくなった。

 

やはり半導体は、システムを差別化できる部品である。OTTが人工知能あるいは機械学習を利用して、膨大なビッグデータから自動的にデータの意味を速く見出すためにコンピュータを必要としているのである。コンピュータのカギを握るのが半導体である。ただし、半導体を設計するだけでよい。製造は台湾のTSMCUMC、米国のグローバルファウンドリ社が引き受けてくれるからだ。

 

アリババが使うことを表明した、nVidiaGPGPUであるTesla K40というスーパーコンピュータモジュールは、2880個のGPUコアを持ち、2880個同時に並列計算を一斉に始めるという半導体チップを搭載している。アリババの機械学習(マシンラーニング)システムに使えば、従来数週間かかる非常に高度な演算が数日で終わるという。学習する人工知能は、人間の話す自然言語を理解し、関係する言葉や画像・映像などを検索してくれる。もちろん画像や映像を認識し、セキュリティなどにも使える。ビッグデータの解析に使えば、どのようなネットユーザーがどのような買い物をするから、アリババはどのような商品を推薦できるかが簡単にわかるようになる。今まで気が付かなかったアイテムや天候などの状況にも気が付き、次に打つ手を自動的に教えてくれる。当然、売上げアップにつながる。これが狙いだ。

2016/01/25

 

参考資料

1.    津田建二著「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、日刊工業新聞社刊、20104

食品偽装・犯罪はテクノロジーで防げ

(2016年1月24日 15:28)

カレーライスのレストラン「CoCo壱番屋」が廃棄を依頼した産廃業者が冷凍カツを横流しした事件は、まだ奥が深そうだ。カツを購入した製麺業者から、廃棄処分された食品はカツだけではなかった。マグロ切り身を含む108品目が見つかったと報道された。消費者からは見えにくい所で、だますような行為をしていた訳だが、こういった偽装やだまし、ウソなどの食品が出回るようでは、消費者は安心して食べ物を買うことができなくなる。

 

どのようにしてこういった詐欺行為を防ぐか。しかもコストをかけずに、第3者の目を通すようにするためには、どうするべきか。ここにテクノロジーを使って安く、しかも不正ができないようにする方法を開発すべきであろう。廃棄物の種類、重量、袋の数等細かいデータを全てラベルに記録するのではなく、ラベルにはデータのありかを示す少ないデータを記録しておき、たくさんのデータはクラウド上に記録しておくという技術が使えるようになる。

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図 QRコードにRFIDタグを内蔵し外国まで日本酒を配送 IBMがクラウドを使い、蔵元と共同で無事タイまで間違いなく届けるシステムを開発 途中で中身を入れ替えできないようにしている

RFIDのような半導体チップを使うとコスト的に許容できないのなら、2次元・1次元のバーコードでも代用できる。しかも最近のスマートフォンは2次元コード(QRコード)を読み取ることができる。廃棄物の処分場では、送られてきた廃棄物のコードを読み取り、クラウド上のデータと照合することを義務付けるとか、手元で管理するのではなくクラウド上で管理するような仕組みを導入し、必ず公的機関が廃棄物を管理し、廃棄を依頼した業者に知らせるというような仕組みを作れば、途中で横流しすると重量の差が出る。もし中身がすり替えられるような場合は、中身も管理する仕組みを作る。もし、廃棄されるべき中身が廃棄されなかった場合、廃棄処理装置を通過しないことを証明するコードを作成しておく、などテクノロジーを開発する。

 

今は昔と違い、テクノロジーがたくさん出てきている。クラウド、スマートフォン、バーコード、QRコード、RFIDチップなども出てきている。なるべく安いツールを使い、データを管理する業者も加わり、相互に管理しておけば、簡単にごまかせなくなる。廃棄処理装置は認定したもの以外は使わせない。認定は通過したことを読み取り必ずクラウドに上げるという操作を必須にする。要はクラウドを通して、廃棄したい企業から廃棄業者、廃棄処理装置、処理結果のレポート等全て、テクノロジーで抑え、みんなの眼を光らせておくのである。流通経路には監視カメラも張り巡らせることもありだ。可能な限り防犯に現代のテクノロジーを使う。

 

犯罪防止にもテクノロジーをふんだんに使うべきだろう。例えば、満員電車に防犯カメラを設置しておけば、痴漢防止にもその逆の冤罪防止にも役立つ。米国サンフランシスコの地下鉄BARTは、日本のゆりかもめと同様、無人列車だが、1車両にカメラが3~4台付いていて、常に作動しているため犯罪防止に一役買っている。国内の電車でも、特に満員電車の痴漢防止、あるいは人が少なくなる夜中などでの犯罪防止にも使えるだろう。そして記録するにもテープやディスクのスタンドアローンの記録装置だけではなく、クラウドも選択肢に入る。すなわち安く管理できるようになってきた。

 

監視カメラはCMOS/CCDなどの半導体イメージセンサが安く手に入るようになり、性能も上がり、解像度も上がっている。つまり、くっきりはっきり見えるようになると同時に素早く動く犯人を高速に捉えることも、暗い場所を明るく再生することも昔のカメラよりは性能・機能は間違いなく向上している。しかも半導体だから大量に作れば安い。

 

テクノロジーの進化のおかげで、かつては防げなかったことが防げるようになる。高くて手に入らなかった製品が手に入るようになる。クラウドを利用し、スマホにアプリを入れれば、スマホで記録をチェックできる。もっともっとIT、ソフトウエア、エレクトロニクス、半導体を利用すれば、安心・安全が得られるようになる。テクノロジーを防犯にもっと積極的に使おうではないか。

                                                         (2016/01/24

「外資に買われてハッピー」

(2016年1月15日 15:45)

自分の勤める会社が外資に買われたらどうなる?少なくとも昔は、とにかく嫌がる人が多かった。「何をされるかわからない」、「業績悪ければすぐにクビ」、「またどこかの企業に売り飛ばされるかもしれない」、など頭から否定する向きが強かった。昔は事実だったが、今は偏見に変わった。

 

1980年代のシリコンバレーは、文字通り半導体ビジネスが盛んで、起業が多い一方で、不況になるとレイオフというクビ切りが横行した。不況になると、エンジニアは仕事どころではなくなり、求人登録(Job apply)に奔走した。そうなると企業の業績はますます落ちる。中核となる社員が100%仕事に集中しなくなるからだ。

 

米国の半導体企業が変わってきたのは、不況時に簡単に人のクビを切ると好況時に簡単に採用できないことがわかってきたからだ。リチャード・ギアとジュリア・ロバーツが演じる映画「プリティ・ウーマン」が興行されたのは、そのような時期に当たる1990年ごろだった。この映画の中で、企業を買収して持っておき、高く買ってくれるところが見つかると高く売りさばく、という文字通り「ハゲタカファンド」の優秀なセールスマンをリチャード・ギアが演じていた。売春婦を演じたジュリア・ロバーツがリチャード・ギアに対して次のような台詞を言う箇所がある。「仕事はサービス業なの?どんなサービス?私もサービス業だから同じよねえ」。

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1 ハリウッド映画「プリティ・ウーマン」のDVDカバー 音楽は1960年代のロイ・オービソンのヒット曲を再利用した 最近、ブルース・スプリングスティーンもこの歌をカバーしている 

 

主人公は、企業を運営する人を人とも思わず単なる商品の一つとして見ていたハゲタカファンドのマネージャーだった。しかし、売春婦と付き合ううちに人間としての魅力を感じるようになり、企業を人が運営する団体と見るように変わっていった。最後には、買ったものづくり企業を簡単に手放すことをせず、軌道に載せて成長させることに関心が変わってくる。企業は人なりを実感したからだ。米国企業が簡単にクビを切ることをやめ始めたのはこの頃からだ。

 

そして今は、早期退職制度を利用して簡単にクビを切る日本企業が横行し、働く社員のモチベーションを下げる社長が着実に増えている。「経営者の心得」(総合法令出版社刊、201512月発行)を表した、元ジョンソン・エンド・ジョンソンや日本コカコーラなど外資系企業の社長を経験した新将命氏は、社長は単なる役職の一つだが、経営者はビジョン・ミッションを掲げ企業を動かして行く人だと言う。だから経営者は、社員のやる気を引き出し、心を一つにまとめてビジョンを一緒に遂行していくことが重要な任務である。

 

米国のアナログICメーカー、リニアテクノロジー社のボブ・スワンソン会長は、数年前来日した時に「リーマンショックの時は売り上げが20%以上も落ちて苦しかったが、一人もクビを切らずにしのいだよ」と胸を張って自慢していた。その裏には、優秀なアナログエンジニアを雇うことが極めて難しくなってきたことがある。またエンジニアは手厚く待遇するのがリニア流だ。

 

三洋電機、富士通など半導体部門を手放すところが増え、外資が日本企業を買っていく。買われた社員はどうなっているか。富士通を買収したスパンションは、もともと米国のAMDと富士通との合弁企業から出発したせいか、日本人エンジニアは富士通時代とさほど変わらず仕事していた。しかし、エンジニアとしては、買われた方が良かった。富士通時代は、40nmという微細な先端技術は開発するな、と言われ、スパンションに買われてからは40nm、さらには28nmと先端技術をどんどん開発してくれ、と言われた。エンジニアとしてはハッピーだった。

 

スパンションは昨年、同じ米国でも高速SRAMやアナログ回路搭載のマイコンチップを扱うサイプレス社に買収された。スパンションが買収した富士通の半導体部門はマイコンとアナログであったから、サイプレス社の製品ポートフォリオが拡大し、顧客はワンストップショッピングできるようになった。旧富士通のあるエンジニアリングマネージャーによると、米国ではサイプレス社の方が知名度は高いため、(旧富士通の)マイコンを売りやすくなったと述べている。旧富士通のマイコンとアナログ部隊は外国にはほとんど売っていなかった。

 

三洋電機の半導体部門はオン・セミコンダクターに買収された。三洋半導体は新潟に半導体工場を持っていたが、オンセミに買収される前は工場を売却あるいは閉鎖する予定だった。買収後、工場は復活する。オンセミは、使っていた米国の工場を処分し、新潟工場を製造のハブ拠点とするように変わったのである。オンセミはさらに成長することを優先したからだ。三洋電機で働いていたエンジニアは好きな仕事を継続でき、三洋時代よりもハッピーに感じているようだ。

 

企業買収のような事態を否応なしにエンジニアは経験することがあろう。単に運命に任せず、自ら外資の企業に就職する人もいるだろう。最も良いのは、日本企業と外国企業の両方を経験してみることではないだろうか。一方で、国内の経営者はもっといろいろな国の企業の経営者を勉強すべきだろう。

誰でもワイヤレス設計を可能に

(2016年1月13日 22:14)

IoTInternet of Things)時代は言うまでもなく、さまざまなデバイスやシステム、ガジェットまでもがインターネットとつながるようになる。ネットとつなぐためには無線通信技術が不可欠。有線通信は光ファイバや、非常にハイエンドのネットワークシステムに限られるようになってきたため、IoTシステムはほぼ100%近くがワイヤレス通信でつながることになろう。

 

その無線通信技術、すなわちワイヤレス技術はさまざまな領域で使われるようになってきている。身近なNFCNear-Field Communication)やBluetoothWi-Fiから通信基地局、宇宙航空無線、RF測定器などハイエンドの通信技術まで広がっている。インターネットとつながるデバイスではワイヤレスの基本となるRF(高周波)技術を使う。モバイルの世界はほぼ100%RF技術が使われていると言っても言い過ぎではない。

 

ところが、ワイヤレス通信技術は、一般的なデジタルやアナログ技術とは全く異なる。要はマクスウェルの電磁界方程式で表現される電磁波の世界である。デジタルだと10だけで機能やデータを表現し、アナログは入出力の連続的な信号を表現する。しかしRF技術は電磁波を扱うため、スミスチャートを使って、波の反射と透過、吸収などを「sパラメータ」として表現する。まるで違う。

 

例えば1本の配線はデジタルやアナログ回路では、電気信号をつなぐ役割しかしない。しかし、直径が1mm程度の配線に電流を流すと、線の周囲に磁力線(磁界)が発生するため、1本の線は電波を飛ばすアンテナにもなる。電波を飛ばさないためには平べったい金属配線を使うなり、起電力の元となるインダクタンス成分をできる限り小さくする、という設計が必要。また、配線が途中で途切れていれば、直流的には電流は流れないが、RFだと流れて電波として飛んでいく。またそこで反射が起きる。

 

高周波のチューニングは結構面倒くさい。インダクタンス(L)とキャパシタンス(C)で共振させてチューニングさせてもすぐにずれてしまう。だから、高周波回路設計はできれば扱いたくない。

 

もし、アンテナからデジタル回路まで直結で調整しなくてすむなら、IoTデバイスの設計者はデジタルに集中できる。米国ボストン郊外を拠点とするアナログICメーカーの大手、アナログ・デバイセズ社は、「アンテナからビットまで」を標榜する戦略を採り始めた。アナデバは、A-D/D-Aコンバータを得意とする半導体企業である。だから、「あれっ?」と思う向きがあろう。なぜRF回路も手掛けることができるようになったのか。

 

アナデバは実は2014年にRF半導体・システムに強いヒッタイトマイクロウェーブ(Hittite Microwave)社を買収して手に入れた。ヒッタイトは、古代、帝国をトルコの近くに構築していたヒッタイト族と同じネーミングだ。ヒッタイト社は24GHz~110GHzと言ったミリ波(波長が1mm前後)技術も持つ。

 

アナデバは、アンテナからRF回路、ベースバンド回路を経てデジタル信号を出力するデバイスやモジュールを開発している。ベースバンド回路でデジタル変調された信号を復調してデジタル信号を取り出し、デジタルインターフェースで信号を出力してくれれば、後はデジタル設計者の出番である。いわゆる組み込みシステム設計者がデバイスやガジェットを作るのである。ワイヤレス通信のことは知らなくてもよい。子供のおもちゃ「レゴブロック」のようにガチャッとはめ込めばトランシーバ機能が使えるのだ。

 

昨年暮れのマイクロ波展でアナデバは24GHzのレーダーシステムや、70GHz5Gモバイル通信向けのシステムなどを展示していた。24GHzのレーダーは、クルマの衝突防止に使うシステムで、特にクルマの周囲のクルマを検知するのに向く。速度を緩めると人も検知できる。携帯電話は今や4GLTE時代まっ盛りだが、次の5Gはデータレートが最大10Gbpsと言われており、2020年の東京オリンピックでの一部実用化を目指して開発が進んでいる。10Gbpsとなると、非常に高速になるが、電波の到達範囲を広げることは難しくなる。

 

元々、電磁波の周波数が高くなり、ミリ波ともなると、直線性が増す。レーダーはこの性質を使い、発射した対象物からの電波の反射を検出するシステムであるから、通信に使うとなると限られた方向にしか電波を飛ばせない。このため5Gシステムにはミリ波だけではなく、LTEシステムとの組み合わせや、ビームを空間的にスキャンする方法などが考えられている。

 

ミリ波ほどの高周波ではなくとも1GHz前後の周波数帯でIoTデバイスを設計するエンジニアにとっては、アナデバの「アンテナからビットまで」戦略は非常にありがたいものとなる。

                                                                                                     (2016/01/13)