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NEWS&CHIPS|国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト、メディアコンサルタント津田建二の事業内容~技術・科学分野の取材・執筆(国際技術ジャーナリスト)

 

スマートホームは本当に賢いの?
2017年3月23日 23:03

スマートグリッドやスマートホームって本当に賢い(smart)のだろうか。こんな疑問を持ったのは、スマートホームが家庭の電力の見える化を行い、それによって無駄を人間が意識し、人間が使っていない電気製品を止めるだけにすぎないからだ。センサで電流を測り、それを見える化しているだけ。それが本当に賢いのか。賢いのは人間であって家ではない。電力網(パワーグリッド)でさえまだ賢い制御を行っていない。

ただ、電力網全体を賢くすることはそう簡単ではない。電圧と位相を同時にしかも精密にピッタリ同期をとって制御できていないからだ。ある程度までは既存の技術で可能にしてきた。しかし、賢くはない(smartではない)。

とはいえ、家庭や企業の小さな単位ではもっと賢く制御できる。こんな技術が英国の通信やエンターテインメント、航空機などで優れた技術を持つ企業が集まる街、ブリストル(ロンドンから190km西)からやってきた。

ブリストルブルーグリーン(Bristol Blue GreenBBG)社は、デスクトップPC程度の大きさの機器BlueGreenを開発(1)、家庭の交流電圧をぴたりと100Vに制御する。実は、家庭の交流電圧は常に100Vにはなっていない。時には95Vだったり105Vだったりする。電化製品は100Vで正常な動作を行うように設計されている。それが本来の電圧を供給できないのであれば、余計な電力を消費することになり、長期間使っていれば製品の寿命を短くしてしまう。

 

Fig1.JPG

1 BlueGreenは電源電圧をピタリと揃える 大きさはPC程度

 

BlueGreenは、100Vピッタリの電圧を供給するので、電化製品をスペック通りに維持してくれる。消費電力の無駄もない。実際には家庭やオフィスの分電盤の近くに置き、外からの商用電源ラインにつなぎ、家庭内あるいはオフィス内の電力を完全な100Vで供給する。このため、これまで人間が気づかなかった無駄な消費電力を自動的に排除してくれる。この装置は、入力の電圧を測定し、それを不足分あるいは余剰分を計算しそれを補うというテクノロジーを使っている。

これまで英国内で220V240Vの電源向けにBlueGreenを開発してきたが、日本でも100V電源向けの装置を開発している。BBG社は2013年に設立されたベンチャーで、資金はあまりない。このため、技術をライセンスして日本企業に生産してもらおうと考えている。このビジネスモデルは、ソフトバンクが3兆円以上で買収した半導体IP設計のアーム社と同じ。イノベーティブな技術を開発し、それをラインセンスすることで売り上げを立てる。生産に入るとロイヤルティをいただくというビジネスモデルだ。これもアームと全く同じ。英国には、頭脳で稼ぐビジネスモデルのベンチャー企業が増えている。

設計だけ、ライセンスだけと言っても実際にモノは製作してみる。図1BBG社が日本向けに試作した製品だ。ノートパソコン並みの大きさだとわかる。持ってみると、重量もそれほど重くはない。

このBBG社のアンソニー・パーカー会長(2)と昨年10月に会い、今年になっても2月にディスカッションした。BlueGreen製品は実は電気を細かく制御して消費電力を減らすだけではない。製品内に蓄えられたデータを利用するのである。IoT時代は文字通りデータこそが価値を生む。電気の使用状況を細かくデータを取りクラウドに上げると、どのような時期、時間帯に、どのような温度や湿度の時に、どれだけの電力を使い制御されているか、といった使用状況を正確につかむことができる。これらをディープラーニングなどのAI(人工知能)で分析すると、電力需要のより正確な予測ができるようになり、データが「情報」に変換され価値を生むことになる。

Fig 2 Anthony.png

2 アンソニー・パーカー氏はBBG会長であるが、投資会社ビーグルパートナーズのパートナーでもある 

 

こういった電力の稼働状況ビッグデータからさまざまなデータパターンが生まれてくる。電力の使用状況パターンだ。「まだ誰もこういったパターンを知らない」(パーカー会長)からこそ、価値がある。これをマネタイズすることで、ビジネスが広がる、というのだ。彼は、「名前はまだ言えないが(と断りながら)、すでに動き出している大企業がいる」と述べ、電気製品を単に売るだけではない、ビジネスへの広がりに期待している。

英国中にデジタルカタパルトのプロジェクトが動き出していることはすでに「デジタル経済への転換で成長を図る英国」で述べた(参考資料12)。このプロジェクトに加え、ブリストルにはエンジンシェド(Engine Shed)プロジェクトも動き出したとパーカー会長は語る。

ブリストルには、ブリストル大学とバース大学、英国南部のサザンプトン大学、サリー大学を結ぶ地域でSETsquare(三角定規の意味)と呼ぶベンチャー育成のインキュベーションセンターがあり、ブリストルはその中心にあった。ICT産業が盛んなブリストルはこれに飽き足らず、ブリストルだけのハイテクのインキュベーションセンターを作った。これがエンジンシェドだ。パーカー会長によると、すでに40~50社のベンチャーが集まっている。

 

参考資料

1.    デジタル経済への転換で成長を図る英国(前編)(2017/01/13

2.    デジタル経済への転換で成長を図る英国(後編)(2017/01/14

3.    津田建二著「欧州ファブレス半導体産業の真実」、日刊工業新聞社刊(2010/11