「デジタル化」の本質は、アナログ技術
2017年1月26日 19:31

デジタル社会、経済のデジタル化、デジタル取引など世の中で使われている「デジタル」という言葉の本質は、実はアナログ技術である。米国のアナログ・デバイセズ社のフェローであるRobert Adams氏の講演(図1)を昨日聴いて、デジタル化という言葉の中身はアナログ技術だと思うようになった。

 

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1 ADIのフェローであるボブ・アダムズ氏 講演会場にて

これまで、テクノロジーとしてのデジタルとアナログという観点から、デジタル社会とかオフィスや工場のデジタル化などの言葉に違和感をずっと抱いていた。というのは、テクノロジーを動かす基本的な要素がアナログ回路技術であり半導体チップであるが、その半導体チップはデジタルよりもアナログの方が数量は伸び続けてきているからだ(図2)。

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2 アナログ半導体の方が数量は、増え続けている 赤色がアナログ半導体、青色がデジタル半導体 出典:IC Insights

E-コマースやインターネット、通信、ウェブビジネス、最近ではIoTや人工知能(AI)、VR/AR(仮想現実/拡張現実)などさまざまなエレクトロニクス技術が身近になってきたが、これらをエレクトロニクスという言葉で言わなくなった。それに代わる言葉が「デジタル」なのである。だから、世の中で使われている「デジタル」という言葉はITや最新コンピュータ、インターネット、モバイルなどを表す「代名詞」であり、「デジタル化の波」という表現とアナログ半導体の方が伸び続けている、という事実にガテンがいく。

つまり「デジタル」という言葉の中に潜むテクノロジーには、純粋なデジタル技術があることは言うまでもないが、それに加えてアナログ技術も、アルゴリズムを表現するソフトウエア技術も、エレクトロニクス技術で使っている全ての技術を含んでいるのである。

Adams氏は、かつてはアナログ技術の塊だったオーディオ技術に係わり、最近では、オーディオの音をさらに人間の耳に近づけるためのDSP(デジタル信号処理プロセッサ)やノイズキャンセルのアルゴリズムをはじめとするソフトウエア技術にも係わっている。高周波のワイヤレス回路ではSDR(ソフトウエア無線)技術を実現する超広帯域アンプとプログラム可能なフィルタ回路にも係わっている。つまりテクノロジーの観点から言えば、デジタル技術もアナログ技術もともに使ってより良い製品を実現しようとしている。

テクノロジー的に言えば、デジタル技術でさえ、アナログ技術を知らなければ高速のプロセッサやメモリなどデジタルICの設計はできない。10だけの世界は、低周波だとオンとオフのパルスに見えるが、高速に動作させるとオンとオフの境界がなくなってくるからだ。オンとオフの境界は連続的でありアナログ的になる。だから、高速デジタル設計にさえアナログ技術が欠かせないのだ。

例えばインテル社のように純粋にデジタルのマイクロプロセッサを設計してきた半導体メーカーでさえ、アナログ技術者がどっさりいる。しかも、高速のアナログ回路やワイヤレス技術に欠かせない高周波回路のエンジニアも少なくない。もちろん、インテル社だけでない。いまは、性能よりもユーザーエクスペリエンス(UX)の時代だ、とAMDのエンジニアは述べている。人間とのインターフェースはアナログ技術で表現しなければならないため、UX時代にはますますアナログ技術が必要となる。

ただし誤解を避けるために補足するが、アナログ技術だけで回路を組む時代はとっくに終わった。アナログ技術とデジタル技術の両方を使い、さらにソフトウエアも必要とされる。この流れは、「コンピュータ技術(CPU+メモリ+インターフェース+周辺回路))がコンピュータだけではなくあらゆる電子製品に入ってきたことと深く関係している。コンピュータではない電気釜や洗濯機、エアコン、スマートフォン、携帯電話などにも「コンピュータ技術」が使われるようになってきているのである。

「コンピュータ技術」は、ソフトウエアさえ変えればなんにでも使える便利な技術である。ハードウエアを変えなくてもソフトウエアの変更だけで機能を変えたり追加できたりする。スマホは、アプリをダウンロードさえすれば、ゲームにもラジオにも変貌する。これが「コンピュータ技術」である。これにアナログ回路はさらに機能をしっかりと追加し、もっと便利に使えるようにするテクノロジーだ。だからこそ、コンピュータ時代にアナログが重要になる。

 スマホなどの製品を使うユーザーにとって楽しく感じさせることのできる製品がウケる時代だ。その楽しさを実現するのに必要な技術は人間の気持ちを代弁する表現法であることが望ましい。その技術こそ、やはりアナログ技術に他ならない。

                                   (2017/01/26