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NEWS&CHIPS|国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト、メディアコンサルタント津田建二の事業内容~技術・科学分野の取材・執筆(国際技術ジャーナリスト)

 

医療、ITともデジタルヘルスへ集結
2016年12月12日 13:29

 デジタルヘルス、デジタル医療という言葉がバズワードのように急速に聞かれるようになってきた。医療機器や健康管理機器(ヘルスケア)にデジタル技術(正確にはエレクトロニクス・半導体技術)を持ち込み、これまでできなかった診断や治療を実現しようというもの。ほんの5~6年前、日本でもこういったプロジェクトを始めるべきだと、ヘルスケア用半導体チップ開発の話を持ち込んでも、霞が関の人たちも政府系ファンドの人たちも全く聞く耳を持たなかった。最近になってようやくIT、エレクトロニクス、半導体などの国内企業が開発し始めている。

  インテルをはじめとする海外の半導体メーカーは、高齢化社会・医療費高騰などの社会問題を半導体技術で解決しようと2006~2007年ごろから言い始めた。2008年に訪問した英国ファブレス半導体メーカーの1社であるトゥーマズ社(Toumaz)では、「バンドエイド」(これは商品名)のような絆創膏に半導体チップやセンサを貼り付け、そのデータを携帯電話などに送りさらに病院に送るというシステムを目指しているという話を聴いた(参考資料1)。同社はその後、2011年ごろ米国のFDA(日本の厚生労働省に相当)の認可を取得、2012年から1年間米国カリフォルニア州サンタモニカの病院で実証実験を始めた。その結果を、2013年にセミコンポータルで紹介した(参考資料2)

  実験では入院患者にIoT(インターネットオブシングス)端末を取り付け、患者の心拍数や体温などの生体情報を24時間連続して測定し、院内のサーバーにデータを送り込む。24時間連続モニターしているため、医者や看護師が患者を4時間あるいは6時間ごと回診する必要がなく、労働負担が減っただけではなく、異常があればリアルタイムで検出できる。即座に集中治療室に移し措置を行えるため、早期発見早期治療が可能になった。この結果、一人当たりの平均入院日数が6日間減少し、入院費が平均9000ドル削減した。

  最近、ヘルスケア・医療に関する発表会が立て続けにあった。一つは、インテルが東京女子医科大学と組んで、医師が行うべき手術などの治療を今よりも確実に行えるように支援するUI(ユーザーインタフェース)のRealSenseカメラシステムの例を紹介したこと。もう一つは、医薬品メーカーのバイエル薬品がヘルスケア分野に向けたハイテクベンチャー企業を支援するためのGrants4Appsと、過去1年間新規上場した企業の中から革新的な技術やアイデアで暮らしの質向上に貢献した企業を表彰するライフイノベーションアワード(LIA)の表彰イベントであった。LIA2015年に設立された賞である。

  インテルのような半導体企業は本来、半導体が使われる将来を予測しながら提案するビジネスである。インテルは愚直にそれを実行し、未来のあるべき姿を半導体チップに落としていく、という作業を創業以来続けてきた。だからハイテク企業であり続けている。もう10年間近くにもなるが、インテルは医療とヘルスケアビジネスで得意とするプロセッサの新市場創出に努力してきた。医療機器のインテリジェント化、ハイエンドコンピュータ、高解像度の画像データを記録できるタブレット、ハンドヘルドの機器、ウェアラブル端末などインテルが提供できるプロセッサを使った電子機器を提案してきた。意思の遠隔医療、患者の遠隔サービスなどもタブレット端末を利用して医療に生かす応用がこれから可能になる、とIntel Health and Life Sciences部門のGeneral Managerであるジェニファー・エスポジート(Jennifer Esposito)氏(1)はいう。ゲノム解析、病院での作業効率の向上や患者のトラッキング、調剤の自動化など、半導体メーカーが貢献できる分野は山のようにある。

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1 インテル社ヘルス&ライフサイエンス部門のジェネラルマネジャーであるジェニファー・エスポジート氏

 

 今回、東京女子医大と組んで、RealSenseカメラ技術を医師の手術を支援するためのツールに使う実験を見せた。このカメラは、映像そのものを撮る1080p(プログレッシブ方式で走査線が1080本の映像を出力)ビデオ、人体など発熱体を認識する赤外線カメラ、赤外線レーザー測距計プロジェクタの3つのセンサを持っている。IRレーザーは顔の凹凸など3次元的な距離を測るために使う。この3つのセンサがあればジェスチャー操作を認識し、その動きに追従してスクリーン上のアバターと全く同じ動きをリアルタイムで行うことができる。

  病院の手術中には、モニターを使ってリアルな画像だけではなく、がんや病巣などをグラフィックスなどで表現し、手術で切り取るべきがんを正確に精度よく捕まえる必要がある。手術している手でコンピュータのキーボードやマウスを触るわけにはいかない。RealSenseカメラを使えばジェスチャーでコンピュータを操作でき、しかも遠隔地からも手をジェスチャーで動かしながら、手術室内のロボットに意図通りに手術させることができるようになる。平面的なジェスチャーだと手の3次元の動きを表現できないが、RealSenseは深さ方向の情報も加味しているためだ。

  インテルと2年前から一緒に実験してきた東京女子医大先端生命科学研究所の村垣善浩教授(図2)は、「手術中はモニターに表示させたい情報が多く、以前撮影した画像をアーカイブから自分で読み出したいのに、それができなくてほかの人などに依頼するためストレスがたまることが多かった」と述懐する。RealSenseでのコンピュータ操作は触らなくても同じことができるため、医師にとってはありがたいツールだとしている。

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2 東京女子医大先端生命科学研究所の村垣善浩教授

 

デジタルヘルスケア・医療技術は、これまでIT・エレクトロニクス側からのアプローチが盛んだったが、医薬業界からもアプローチしてきたのが今回初めてバイエル薬品が日本で開催した、ITベンチャー表彰プログラムGrants4Appsである(3)2016年度は、20166月創業のナノティス社が100万円の賞金を獲得した。これは、インフルエンザウィルスを簡単に無痛で調べるための装置の開発である。唾液や鼻かみ液などの体液を乗せたチップ(小片)をスマートフォンで撮影し、チップの画像パターンから解析・判定するというもの。チップはMEMS技術でマイクロ流路を形成している。スマホで撮影した画像を、開発したアルゴリズムで解析する。831日には米国に特許を出願したという。

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3 バイエル薬品がデジタルライフビジネスを支援 受賞者たちとバイエル関係者

 

もう一つの表彰ライフイノベーションアワードは、カナミックネットワーク社が受賞した。これは、医療・介護・健康情報を法人や職種の垣根を越えてリアルタイムに情報を共有し連携と相互コミュニケーションできるITプラットフォームを提供するというプロジェクトである。バイエル薬品オープンイノベーションセンター長の高橋俊一氏は、「デジタル技術はヘルスケア・医療の課題を解決する。これからも他の業界・企業と共に新しいアイデアを提供していきたい」と述べている。

 

参考資料

1.    欧州ファブレス半導体産業の真実、津田建二著、日刊工業新聞刊、201011月刊

2.    Toumazのヘルスケア半導体チップ、米国の病院で効果を実証、セミコンポータル、(2013/06/05)

                               (2016/12/12