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NEWS&CHIPS|国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト、メディアコンサルタント津田建二の事業内容~技術・科学分野の取材・執筆(国際技術ジャーナリスト)

 

バッテリ管理は十分だったか、ノート7
2016年10月19日 22:50

原因不明のまま、サムスンのファブレット「ギャラクシーノート7」は生産打ち止めになった。この事件は、2006年ごろ、ソニーのリチウムイオン電池を使ったノートパソコンから発火した事件を思い出す。この時も真相解明しないまま、ソニーはリチウムイオン電池の生産から撤退した。

 今回の事件では、サムスンの「ギャラクシー ノート7」機種では2カ所からバッテリを調達していた。80%をサムスンの子会社であるサムスン機電から、残りは香港のアンペレックス社(TDKの子会社になった)から調達していた。リコールする前に発火したのはサムスン機電のバッテリ。リコールしてバッテリを全てアンペレックス製に交換した。しかし、再び発火事故が起きた。

 ここへきて、リチウムイオンバッテリの発火事故は、バッテリではなく電子回路ではないか、という疑いがもたれた。1012日の日本経済新聞によると、電池そのものの、例えばセパレータ(アノード(陰極)とカソード(陽極)間のショートを防ぐためのポーラスな膜)ではないことをメーカーは他のバッテリで発火事故を起きた例はないことを上げ、セパレータは問題なしとした。電池ではアノードは陽極ではなく陰極である。カソードもその逆だ。

 充電できるリチウムイオン電池は、電荷容量が高い反面、過充電=発火の危険、という図式が働く。このため、絶対に過充電は許されない。電池の動作上、アノード電極に含まれるリチウムイオンがアノードから飛び出し、カソード電極に到達することで電子が外部回路に流れ電流となる。充電する場合にはリチウムイオンは元のサヤに収めなければならないが、少しでもリチウムイオンが過剰になると、イオンに相当する外部回路に電流が余分に流れ、発熱することになる。

 一方で、充電する場合には早く充電を終わらせたい。そこで、バッテリの充電では、最初は急速に80%程度までは大電流で充電しても問題ないが、その後は充電→電荷測定→判定というサイクルを繰り返し、少しずつ電荷を注入していく。バッテリマネジメントのある専門家は、「1升瓶に水をこぼさずに早く入れる技術に似ている」という。リチウムイオン電池では、満充電を絶対に超えてはならないためだ。

 そこで、電子回路上では、100%の満充電は極めて危険なため、電子回路ではマージンを取って95%とか90%を満充電と定義する。このマージンの取り方で使える電池の時間が決まる。バッテリマネジメントの定義と、安全なマージンを取るためのアルゴリズムも重要な技術のカギとなる。精度よく電荷状態を測定できる技術を持っていればこのマージンを狭めて、長期間使えるようにできるが、この電荷を精度よく測定するアルゴリズムにノウハウがあり、バッテリの良し悪しにも大きく影響する。だからこそ、バッテリマネジメントは重要な技術だ。

 バッテリ構造側からすると、リチウムイオンバッテリは、アノード電極材料のリチウム(Li)イオンがカソード側へ移動することで外部に電流を流すという原理である。充電はその逆の過程で、カソード側に寄っているLiイオンをアノード電極に戻す作業。両者のショートを防ぐ役割がセパレータで、Liイオンだけを通すポーラスな膜である。これがなければショートする恐れがある。アノード電極には結晶格子にLi原子が元のさやに収まらなければならない。きれいな結晶構造であれば、元に戻りやすいが、そうでなければLiイオンが収まるべき結晶構造における格子サイトが失われ、Liイオンは行き場を失う。電極の持つ電圧は下がり、アノード電極はLi原子が不足してしまう。このため完全に近い結晶構造を保つための製造技術が電池メーカーには求められる。

 充電している最後の段階では、ちびりちびり電荷をバッテリに注入するが、この状態でもし大きなノイズやサージ電圧が入り、過電流が流れ電荷が溢れると危険な状態になる。このままバッテリを持っていると、動作させていなくても非常に危険な状態になる。そこで、リチウムイオンバッテリを使う電子回路では、バッテリの電流、電圧、発熱を測定し、一瞬でも許容値を超えるようになると充電を遮断する役割の保護回路ICも取り付けることが多い。満充電の定義を95%程度にしてマージンをとり、さらにバッテリマネジメントIC回路で精度よく充電を管理し、さらにバッテリ保護回路も搭載することが望ましい。

 ノート7では、ここまでやっていたか?満充電の定義の十分なマージン、適切なバッテリマネジメントIC、十分なバッテリ保護回路ICという3段階のリチウムイオンバッテリ管理を行っていただろうか?保護回路ICを搭載していなかったという声を聞いたことがあるが、それが事実なら設計ミスもありうる。サムスンは今のところ何も原因について述べていないが、原因究明を怠ると同じ事故が再発する恐れがある。

                               (2016/10/19)