パソコン統合白紙撤回の意味
2016年4月15日 22:08

東芝と富士通、そしてVAIOの株式の9割を持つファンド、日本産業パートナーズの3者は、合併交渉を白紙に戻すことになった、と415日の日本経済新聞が伝えた。この統合話に対して最初から疑問符を持ったのは筆者だけではないだろう。今後、成長が期待されない分野で3つもの会社が統合することに対して未来を全く感じないからだ。

 

パソコンビジネスは、もはや成長産業から脱落した。これは世界のIT産業では常識である。パソコン事業から脱却が遅れた企業は業績が悪く、いち早くハイエンドのサーバあるいはモバイルに事業をシフトしたところは業績が良い。典型的な例が中国のレノボだ。同社が中国市場でパソコンが伸び盛りの時期にIBMから事業を買い、飽和が始まってからもNECからも購入、事業を拡大した。パソコンがその飽和状態から下降状態に移り始めた3年前には、パソコン事業からスマートフォン事業へと軸足を移した。

 

国内の東芝、富士通、VAIO3社はいつまでもぐずぐずと各社のパソコン事業を引きずってきたツケが回ってきた。これから統合しようという訳である。シャープの役員たちが経営していなかったことが暴露したと同じように、これらの企業も実は決断できずに、経営などしてこなかったといえる。決断が遅く、ただいたずらに時間を伸ばしてきただけにすぎないからだ。きちんと「経営」していれば、落ち目のビジネスであることをいち早く理解し、さっさと見切りを付けるなり、閉鎖するなりするなり決断していたはずだ。もはや、残された道はない。

 

発展途上国でさえ、もうパソコンビジネスはいらない。途上国は、パソコン時代を経ずにいきなりモバイルビジネスへと行っているからだ。電話回線を引かずにいきなり携帯電話に入ったことと同じである。現実にソフトウエアやサービスビジネスは、パソコンからモバイルへシフトしている。このブログでさえ、パソコンよりスマホで記事を読む読者の方が多くなっている。インターネット広告はパソコンからモバイル広告へと売上はシフトしている。全てがパソコンからモバイルへシフトしているのである。最近の学生は、パソコンを打てなくてもスマホは自在に使える。パソコンにこだわる限り、これらの企業に未来は見えない。

 

売却しない道はあるのか。あるとすれば、他の道へシフトすることだろう。パソコン事業をやってきた以上、CPUやメモリを中心とするコンピュータ事業が最も近道だろうが、よほどのハイエンドや、特長を出さない限り成功しないだろう。パソコンの組み立てだけなら、中国やEMS(製造専門の請負サービス業者)にかなわないからだ。

 

例えば、ハイエンドのサーバでは、これまでIntelx86アーキテクチャを使ったIAサーバが伸びてきたが、最近のハイエンドではCPUコアを複数集積するSoC(システムLSI)で性能を上げる手法が使われ始めている。つまりCPUコアの並列処理とメモリ内蔵の1チップ化であり、拡張可能なIO構成を採用するという動きである。1チップの性能を上げると共に、さらに性能を上げたい場合には、チップを並列につなぐだけで済むような拡張性を持たせることが重要になる。

 

1チップ化では、ARMMIPSCPUコアを使うビジネスになる。スーパーコンピュータのアーキテクチャも従来のCPU並列から、メモリを大量に搭載したSoC並列へとシフトしつつある。処理速度のボトルネックがメモリとCPUGPUとのアクセスであることが多いからだ。だから1チップでメモリとCPUコアを集積するのである。こういった市場はベンチャーでさえ参入している。

 

ハイエンドサーバにいかなければ、モバイルだろう。スマホは実はもっと画面の大きな5~7インチのファブレット(Phablet)が強く望まれているという調査報告が最近、エリクソンがから出ている(参考資料1)7インチは通話できる最大の画面だが、通話を嫌うなら、Bluetoothのヘッドセットで通話すればよい。モバイルは今後も間違いなく伸びる。

 

どの分野に行くにせよ、社長は速く決断しなければならない。さもなければシャープの二の舞になる。つまり、売り時を逸して、買いたたかれ、結局、大損する。東芝、富士通とも決断を速くすることが売り買いのタイミングを支配することになる。本当に「経営」できるかが、各社の社長に問われている。

 

参考資料

1.    Ericsson Mobility Report, 20156

                                                             (2016/04/15