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NEWS&CHIPS|国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト、メディアコンサルタント津田建二の事業内容~技術・科学分野の取材・執筆(国際技術ジャーナリスト)

 

「外資に買われてハッピー」
2016年1月15日 15:45

自分の勤める会社が外資に買われたらどうなる?少なくとも昔は、とにかく嫌がる人が多かった。「何をされるかわからない」、「業績悪ければすぐにクビ」、「またどこかの企業に売り飛ばされるかもしれない」、など頭から否定する向きが強かった。昔は事実だったが、今は偏見に変わった。

 

1980年代のシリコンバレーは、文字通り半導体ビジネスが盛んで、起業が多い一方で、不況になるとレイオフというクビ切りが横行した。不況になると、エンジニアは仕事どころではなくなり、求人登録(Job apply)に奔走した。そうなると企業の業績はますます落ちる。中核となる社員が100%仕事に集中しなくなるからだ。

 

米国の半導体企業が変わってきたのは、不況時に簡単に人のクビを切ると好況時に簡単に採用できないことがわかってきたからだ。リチャード・ギアとジュリア・ロバーツが演じる映画「プリティ・ウーマン」が興行されたのは、そのような時期に当たる1990年ごろだった。この映画の中で、企業を買収して持っておき、高く買ってくれるところが見つかると高く売りさばく、という文字通り「ハゲタカファンド」の優秀なセールスマンをリチャード・ギアが演じていた。売春婦を演じたジュリア・ロバーツがリチャード・ギアに対して次のような台詞を言う箇所がある。「仕事はサービス業なの?どんなサービス?私もサービス業だから同じよねえ」。

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1 ハリウッド映画「プリティ・ウーマン」のDVDカバー 音楽は1960年代のロイ・オービソンのヒット曲を再利用した 最近、ブルース・スプリングスティーンもこの歌をカバーしている 

 

主人公は、企業を運営する人を人とも思わず単なる商品の一つとして見ていたハゲタカファンドのマネージャーだった。しかし、売春婦と付き合ううちに人間としての魅力を感じるようになり、企業を人が運営する団体と見るように変わっていった。最後には、買ったものづくり企業を簡単に手放すことをせず、軌道に載せて成長させることに関心が変わってくる。企業は人なりを実感したからだ。米国企業が簡単にクビを切ることをやめ始めたのはこの頃からだ。

 

そして今は、早期退職制度を利用して簡単にクビを切る日本企業が横行し、働く社員のモチベーションを下げる社長が着実に増えている。「経営者の心得」(総合法令出版社刊、201512月発行)を表した、元ジョンソン・エンド・ジョンソンや日本コカコーラなど外資系企業の社長を経験した新将命氏は、社長は単なる役職の一つだが、経営者はビジョン・ミッションを掲げ企業を動かして行く人だと言う。だから経営者は、社員のやる気を引き出し、心を一つにまとめてビジョンを一緒に遂行していくことが重要な任務である。

 

米国のアナログICメーカー、リニアテクノロジー社のボブ・スワンソン会長は、数年前来日した時に「リーマンショックの時は売り上げが20%以上も落ちて苦しかったが、一人もクビを切らずにしのいだよ」と胸を張って自慢していた。その裏には、優秀なアナログエンジニアを雇うことが極めて難しくなってきたことがある。またエンジニアは手厚く待遇するのがリニア流だ。

 

三洋電機、富士通など半導体部門を手放すところが増え、外資が日本企業を買っていく。買われた社員はどうなっているか。富士通を買収したスパンションは、もともと米国のAMDと富士通との合弁企業から出発したせいか、日本人エンジニアは富士通時代とさほど変わらず仕事していた。しかし、エンジニアとしては、買われた方が良かった。富士通時代は、40nmという微細な先端技術は開発するな、と言われ、スパンションに買われてからは40nm、さらには28nmと先端技術をどんどん開発してくれ、と言われた。エンジニアとしてはハッピーだった。

 

スパンションは昨年、同じ米国でも高速SRAMやアナログ回路搭載のマイコンチップを扱うサイプレス社に買収された。スパンションが買収した富士通の半導体部門はマイコンとアナログであったから、サイプレス社の製品ポートフォリオが拡大し、顧客はワンストップショッピングできるようになった。旧富士通のあるエンジニアリングマネージャーによると、米国ではサイプレス社の方が知名度は高いため、(旧富士通の)マイコンを売りやすくなったと述べている。旧富士通のマイコンとアナログ部隊は外国にはほとんど売っていなかった。

 

三洋電機の半導体部門はオン・セミコンダクターに買収された。三洋半導体は新潟に半導体工場を持っていたが、オンセミに買収される前は工場を売却あるいは閉鎖する予定だった。買収後、工場は復活する。オンセミは、使っていた米国の工場を処分し、新潟工場を製造のハブ拠点とするように変わったのである。オンセミはさらに成長することを優先したからだ。三洋電機で働いていたエンジニアは好きな仕事を継続でき、三洋時代よりもハッピーに感じているようだ。

 

企業買収のような事態を否応なしにエンジニアは経験することがあろう。単に運命に任せず、自ら外資の企業に就職する人もいるだろう。最も良いのは、日本企業と外国企業の両方を経験してみることではないだろうか。一方で、国内の経営者はもっといろいろな国の企業の経営者を勉強すべきだろう。