[速報]クアルコムが600人をレイオフ
2014年12月12日 21:31

ファブレス半導体のトップメーカーであり、世界第3位の半導体メーカーでもある米クアルコム(Qualcomm)が600名のレイオフに踏み切るというニュースが流れた。米国で300名弱、海外で300名をレイオフするという。

 

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クアルコムは2014年の売り上げが11%増の191億ドル(2兆円強)を見込まれる優良企業である。世界の半導体産業全体が9%の伸びを示しそうだから、クアルコムの業績が決して悪い訳ではない。そのクアルコムがなぜレイオフに踏み切るのか?同社のスポークスパーソンは多くを語りたがらない。「定期的に自社ビジネスを見直しており、効率の良さを求め優先順位を付けている。社内のスキルやサイズを調整して、プロジェクトを辞めたり新規プロジェクトを開始あるいは伸ばしたりしている」と語るのにとどまっている。

 

しかし、これまでのクアルコムの動向を見ていると、理解できない訳ではない。クアルコムは3G通信のデジタル変調方式であるCDMAの基本特許を持っていた。3G通信は、ノキアやNTTドコモなどが使ってきたWCDMAと、クアルコム自身が使っていたCDMA 2000 1xという主として2方式が使われた。KDDIが採用していたCDMA2000は、クアルコムのチップを買うことで使えたが、WCDMA方式の携帯電話を作るとその特許料を携帯電話メーカーあるいは半導体メーカーが支払ってきた。クアルコムにとって3Gビジネスはどちらの方式でもお金が入る仕組みになっていた。

 

ただし、唯一の例外がメディアテック(MediaTek)だった。台湾のメディアテックは自社のチップが中国で偽物携帯電話機に流れてしまったことへの反省から、流通経路を見直し、偽物機メーカーが入手できないようなルートを確保することをクアルコムに約束し、ライセンス料を無料にしてもらったらしい。このため、メディアテックは、WCDMAモデムのライセンス料を支払わない分安く提供できた。これによって急成長を遂げた。

 

3Gモデムチップは、実はLTEになっても音声データのモデムに使われてきた。このためクアルコムはLTE時代でも繁栄できた。もちろん、クアルコムは、LTEに関する特許を持っている。しかし、同社以外の多くのモデムメーカーもLTE技術の特許を持ってはいる。このため、クアルコムにとって、LTEは基本特許ではないため、必ずIPRで稼げるという訳ではなくなった。しかもLTEでは、音声データもLTEネットワークを使うVoLTEVoice over LTE:ボルテと発音)技術が普及するようになれば、音声用の3Gモデムチップは要らなくなる。

 

さらにクアルコムにとって、メディアテックという存在が大きくなりすぎた、という不運も重なってきた。メディアテックは売り上げがルネサスエレクトロニクスとほぼ並ぶ、第11位の企業に成長した。コスト競争力では、クアルコムはメディアテックにかなわない。中国市場ではメディアテックの方が強い。

 

LTE時代はクアルコムにとってマイナスの材料が並ぶ時代になってきたのである。だからこそ、スマホの急速充電規格である、Quick Charge 2.0や、クルマのワイヤレス給電技術に力を入れ、Wi-FiIEEE802.11ac技術のアセロスと802.11adのウィロシティを買収した。11月にはBluetoothの老舗CSR社を買収提案するなど、ワイヤレス技術の全てを取ろうと必死である。

                                                                                   (2014/12/12)