ノーベル賞受賞の青色LEDの真骨頂はスマート照明
2014年10月 8日 01:34

1990年代に発明された青色LED(発光ダイオード)の発明者たち(赤崎勇名城大学終身教授と天野浩名古屋大学教授、中村修二カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授)にノーベル物理学賞が決まった。彼らと同じ半導体産業に係わってきたものにとっては非常にうれしいニュースだ。

 

赤崎氏が名古屋大学教授であった時代に天野氏と共に、光が見える程度の青色LEDを発明した。その後、徳島の日亜化学工業にいた中村修二氏が効率を上げ実用的なレベルに引き上げた。日亜化学は蛍光塗料の会社から、一躍LEDの先端企業となった。応用物理学会をよく取材していた1980年代は、温和な顔立ちの赤崎先生のGaN講演をときどき見ていた。

 

青色LEDのインパクトは、照明に使えるレベルまで明るくなったことであり、また半導体ゆえに明るさや電流を瞬時に制御できる点だ。照明に使う光は白色(透明)だから、R(赤)、G(緑)、B(青)の3原色を混ぜることが基本だが、実際には青色のLEDに黄色い蛍光塗料を塗っている。これは定性的には、RGを混ぜると黄色になるから、それに青を加えたものと考えると理解しやすい。

 

青色LEDに緑の蛍光塗料を被せた白色LEDランプの消費電力は白熱灯の1/10、蛍光灯と比べても数分の一と小さく、省エネの決め手となる。明かりを全てLEDに変えたら、原子力発電所が何基分も不要になると言われるくらい、省エネ効果はある。

 

さらにこれまでの蛍光灯と比べて大きく違う点は、瞬時に照度を制御できるという点だ。蛍光灯は放電を利用しているため、一度点灯すればコンデンサなどでその電圧を維持し続けなければならないため明るさを調整できないという欠点があった。LEDは電圧を下げれば暗くなり瞬時に変化させることができる。現在の白色LED照明は、この調光機能をまだ十分に利用していない。

 

この調光機能を利用して、これからはスマート照明(Smart Lighting)がさまざまな所に活かされる時代になる。どのような応用があるか、紹介する。これはセンサを利用して明るさを調整できるのが最大の特長だ。例えば、大学の建物などで、人が建物に入ると照明がつくシステムを用いているところがある。しかし、暗い部屋へ足を踏み出すことに躊躇することがある。蛍光灯だと点灯するまでに1~2秒かかる。これに対して、スマート照明は部屋に入る前に明かりを灯してくれる。安心の度合いが全く違う。

 

さらにスマート照明は、安全性を高める効果もある。例えば、クルマを走らせていてトンネルに入る時に一瞬暗くて全く何も見えなくなることがある。もしそこに何か物体があれば間違いなく衝突してしまう。このような事故を防ぐため、トンネル側のセンサがクルマを検出したら、トンネル内を予め明るくしておくのだ。クルマから良く見えるようにしておくことができる。クルマがトンネルに入ったら照度を下げてもよい。

 

スマート照明は電力コストを今以上に下げることもできる。例えば、一つの部屋でも窓側と奥側では明るさが違う。外光が差し込む窓側のLEDの照度を下げ、奥側を明るくすると、省エネになる。明るさに応じてLEDの照度を変えるのである。この場合は照度センサをいくつか配置しておく必要がある。こういった応用では電力線通信(PLC)が役に立つ。もちろん、レストランやバー、ホテルなどでは食べ物のおいしさを表現する明かりや、ムードを出す光、落ち着いて話ができる明かり、など様々なシーンに応じて照度、色温度などを変えることができる。

 

かつて、固体照明のセミナーでLED照明は2015年をピークに2016年あたりから有機EL照明に代わる、という調査会社の予測グラフを見たが、残念ながらその通りにはまずならない。有機EL照明の生産技術はLEDのそれにまだ追いついていないからだ。白色LED技術は、6インチという大型のSiウェーハ上にGaNを結晶成長させることで更なる低コスト化が見えている。Si上に作るから8インチ化さえ可能である。もっと低価格にできるという意味だ。

 

スタンレー電気などが開発しているが、LED照明はクルマのヘッドランプにも使われる。クルマのヘッドランプには、通常は0.3mm×0.3mmの大きさしかないLEDチップを1mm×1mm角に大きくすると大電流を流せて明るくすることができる。クルマのヘッドランプにはこの大きなチップを使う。チップが大きければ、1枚のウェーハから採れるLEDチップの数は少ない。このため、ウェーハを大きくする意味がある。

 

このLEDランプをスマート照明技術と組み合わせると、ハイビームとロービームを自動的に切り替えることもできる。暗い田舎道をハイビームで走り、対向車線に車が見えるとロービームに変えるが、この操作を自動的に行う。たまにハイビームにしたままのクルマを見かけるが、眩しくて仕方がない。事故の元にもなる。これを自動化すると切り替えを忘れない。

 

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クルマのヘッドランプはLEDから、さらにレーザー照明にも使われ始めている。先日ドイツのミュンヘンにあるBMW博物館を訪れた時、最新の電気自動車「i3」への搭載を検討していると関係者は語った。LEDだとハイビームで400mまで明かりが到達するが、レーザー照明だと600m先まで見えるという。

 

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LEDの進歩はこの先もまだまだ続き、センサと組み合わせたスマート照明の時代はこれから始まる。半導体メーカーは、照度センサとLEDドライバ、周辺回路、マイコンなどで忙しくなる。LEDからレーザースキャニング照明も開発が進むだろう。LED、レーザー、いずれもGaNスマート照明時代はこれからが本番を迎える。

                                                                      (2014/10/08