NIWeekで受けた刺激は未来志向
2014年8月 8日 14:13

オースチンで開催されているNIWeek 2014では、やはり大きな刺激を受けた。NIWeekとは、ソフトウエアベースの測定器メーカーであるNational Instruments社が主催する3日間のイベントのこと。ここでは、測定器メーカーが単なる計測とセンサ、高精度アンプなどのアナログ技術を駆使する技術の総集大成を見せるのではなく、これからの将来に向けたITエレクトロニクスのトレンドを見せ、それに沿っていかに同社が成長していくかを示す場である。

 

宣伝臭さは少ない。自社がどのような製品を持ち、新製品を開発しているか、というような話は少なく、むしろ大きなメガトレンドを示している。まるで、IntelTIの開発者会議を超えたような新しい技術をわかりやすく、ビジュアルに見せ、ユーザー事例が豊富にある。

 

元々NIは、専用の測定器を作ってこなかったメーカーである。測定器は基本的に、検出や計測処理だけではなく、測定データを収集・デジタル処理・記録・表示する。この内、データの収集までを行うハードウエア部分をモジュール化し、残りのデジタル処理にパソコンを使ってデータを見せよう、という考えでオシロスコープをはじめとする計測器を作った。モジュールを差し込む筐体(シャーシ)を備え、モジュールのサイズやコネクタを標準化し、オシロスコープのモジュール、スペクトルアナライザのモジュール、任意波形発生器のモジュール、電源モジュールなどを揃えておけば、1台のパソコンが測定器に早変わりする。1990年前後の当初、こういった測定器を同社はVirtual Instrumentsと呼んだ。

 

このコンセプトを発展させて、設計ツールには使いやすいGUIを駆使したグラフィカルシステム設計ができるようなLabVIEW(ラボビュー)と呼ばれる設計ツールを発明した。シャーシのサイズを標準化し、PCI Expressバスを基本とするPXIシステムや、コンパクトサイズを特長とするCompact RIOシステムなどの基本プラットフォームを用意している。これらのシャーシに組み込むモジュールをアップグレードすれば、測定器そのものをアップグレードできる。つまり、拡張性が高く、フレキシビリティも高い。

 

こういった概念を推し進めてきた。今の時代がむしろ、NIの考えに合ってきた。やたらと「Software-Defined ほにゃらら」が叫ばれる時代である(ホテルカリフォルニアを引用したゲルシンガー氏の講演」を参照)7月に東京でSoftbankが主催した「Softbank World 2014」において、講演したVMwareCEOのパトリック・ゲルシンガー氏は講演の中で、「Software-Defined Layer」、「Software-Defined Enterprise」、「Software-Defined Datacenter」、「Software-Defined Future」、「Software-Defined System」など、「Software-Definedほにゃらら」を連発した。パットは元々インテルのCTOを務めた半導体男だ。

 

実は、何でもかんでもハードウエアでシステムを実現しようとする時代は終わりつつある。共通になるハードウエアを作り、その上に載せるソフトウエアを変えるだけで機能を追加したり、性能をアップグレードしたりするシステムに移りつつある。この方が、良いものを安く早く提供できるからだ。現実には、Software-Defined Radioはワイヤレス無線機のモデムでは実用化している。ネットワーク機器をもっとフレキシブルに安く運用するためにSoftware-Defined Networkも実現されつつある。

 

NIが推進してきたソフトウエアベースの測定器は、まさにSoftware-Defined Instrumentsなのだ。しかし、現実味のない「Software-Definedほにゃらら」概念だけでとどまりたくないため、実装するという意味を込めて同社は「Software-Designed Instruments」と呼んでいる。NIの持つ測定器は全て、このコンセプトを基本とする。

 

同社のシャーシはFPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)を使って測定の仕様をプログラムで変えられるようになっている。データ収集系のハードウエアをユーザーが自由に変えられるフレキシブルな測定器だ。加えて、ビジュアル化(可視化)も重要な要素に加えている。LabVIEWは視覚に訴えるGUIでシステムを設計できるツールであるが、ビジュアル化をさらに進めていく。

 

NIが今後注目するのは、やはりIoTInternet of Things:全てのモノがインターネットにつながるという概念、またはつながったモノ)。刺激を受けたのは、IoTを民生用IoTと工業用IoTに分けたこと。民生用は、スマートフォンをハブとするウエアラブルやPAN/BAN(パーソナル/ボディ・エリアネットワーク)、ヘルスケアなど民生で利用するIoTと、工業向けに利用するワイヤレスセンサネットワークや、M2M(マシンツーマシン)、Industrial InternetSmarter Planetなど巨大なシステムに応用するIoTに分けた。工業用IoTは高信頼性、高セキュリティ、高品質などが要求されるため、民生用IoTとは別物と考えるべきだ、とNIのフェローであり製品マーケティング担当バイスプレジデントのMichael SantoriDSCN7082.JPGは筆者に語ってくれた。センサやシステムの大きさで区分け定義していた私は、IoTがもう実装される時期に来ていることを実感した。

 

IoTを実装したシステムを設計・検査する仕事を支援するのがこれからのNIのビジネス機会となる。常に成長を考えながら戦略を練る、と最後に語ったSantori氏の言葉は印象的だった。日本の企業が学ぶべき戦略の立て方がここにある。

2014/08/08