ルネサスにファウンドリ事業参入のチャンス
2013年5月21日 23:43

今日、EIDECEUVL基盤開発センター)シンポジウムに出席して、夜のパーティで何人かと議論した。製造が得意な日本において、半導体製造を請け負うビジネス、ファウンドリ企業が1社もないことは産業構造としていびつではないかと。

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 EIDECシンポジウムで挨拶を述べる渡辺久恒社長

日本には、ファウンドリ事業を行うのに必要なインフラストラクチャーが揃っている。2012年の世界の半導体市場の売り上げは前年度比2.9%減とマイナス成長だったが、ファウンドリビジネスは何と同20%増のプラス成長している。この成長市場を日本はみすみす逃しているのだ。

 

半導体の製造を請け負うといっても、製造プロセス技術者や営業担当者だけでできるものではない。ファウンドリ事業では、設計の知識やツール、IPコア(半導体回路上の一部の価値ある回路)も揃えていなければならない。営業担当者は半導体設計の知識が欠かせない。ファブレス顧客の要求レベルを理解しなければならないからである。

 

半導体LSIの設計は、一言でいえば、RTLregister transfer level)と呼ばれる論理設計を行い、そのプログラミングの検証やタイミングの検証を行った後、論理合成、ネットリストという回路段階での論理の接続情報を決める。その検証も済ませたら、回路のレイアウトと配置配線を行い、LSIの回路パターンを作成する。そのLSIがタイミング通りに動くかどうかの検証を行い、仕様を満たさなければ時には最初のRTLまで変えなければならないことになる。最終的にOKになって初めてGDS-IIというフォーマットにすると回路パターンのマスクに変換することができる。

 

ファブレスの顧客からいただく設計情報は、どの段階でも受けられるようにしておく必要がある。半導体設計独特の言語であるHDLでプログラミングまでできる顧客、GDS-IIのマスクデータをくれる顧客、あるいはネットリストまでもらう顧客など、どのような顧客にも対応しなければビジネスチャンスを失う。だから設計の専門家や設計ツールが営業に必要なのである。

 

幸い、日本の半導体メーカーはIDM(統合型半導体デバイスメーカー)と呼ばれ、設計から製造まで手掛けてきた。半導体設計という特殊な言語でのプログラミングや論理合成など独特の世界でのスキルは高いが、どのような半導体を設計すべきか、という企画力が米国企業に比べると弱い。

 

ところが、多くの半導体メーカーはファブライトと称して製造を縮小している。多くの半導体メーカーがファブライトにシフトするのは製造に投資資金がかかることを嫌っているためだ。日本は得意な製造を縮小し、半導体設計という特殊な「デザインハウス」のスキルはあるものの、世界のファブレスと競合できる企画力はない。世界のファブレスはシステムのアルゴリズム開発や、ソフトウエアの開発にお金も人間も強化している。ファブレスやファブライトでは世界と戦って勝てないのである。しかもデザインハウスの能力だけならインドの設計能力、スキルの方がコスト・パフォーマンスで上である。

 

では日本が勝てる道は何か。それがファウンドリビジネスである。優秀なプロセスエンジニアがおり、優秀なデザインスキルを持ったエンジニアがいる。例えばルネサスエレクトロニクスには、最先端の工場が二つある。茨城県の那珂工場と、山形県の鶴岡工場だ。しかし、IDMとしてビジネスを行い、月産100万個以上の注文ではないと受けない、というような体質だからラインは埋まらない。製造だけを請け負ってラインを埋めればよいのである。このうちの鶴岡工場を外国企業に売却しようとしているが、虎の子の工場を売ってしまったら、ルネサスは何で稼げるのか?その道筋は描けていない。

 

他社から注文を採ってラインを埋めようとなぜ考えないのだろうか。世界では、同じIDMのインテルとサムスンが、巨大工場を作ったもののラインが今後埋まらなくなることに対して、ファウンドリビジネスを始めている。工場資産を生かしラインを埋め、利益を出そうとしている。ルネサスも今からでも遅くはない。ファウンドリビジネスも事業の柱の一つとしてやっていけば、世界と再び競合できる。ルネサスにはデザインスキルを持ったエンジニアが大勢いる。

 

要は最先端ラインに巨額の投資をしたくないと逃げているためにいつまでも成長戦略が描けなかった。投資先の資金調達に頭を下げて回り、投資資金を確保すればよい。このためには世界中から資金を調達するくらいのバイタリティが経営者には欲しい。可能性は、アラブ系オイルマネーもあるし、ファンドも利用する。顧客からも調達する。専用ラインを作って資金を前金としていただく。ありとあらゆる資金調達に努力を惜しまずにやっていけばよいのである。幸い、日立、NEC、三菱の出資比率が低下したことから親会社も口出しにくくなっただろう。さらに資金を強化し強い財政基盤を作れば、独自の経営ができる。

 

顧客開拓の設計エンジニアは、世界中のIPコアに目を光らせ、ルネサスにとって有効なIP企業からライセンスを買取ったり、ベンチャー企業そのものを買収したり、ルネサスの成長に貢献できる。これまでのマイナス志向からプラス志向へと積極的に打って出れば世界攻略さえできる。

 

成功した暁には、産業革新機構から株を買い戻し、一般市場に放出すれば、資金調達はさらに容易になる。

2013/05/21