ここがヘンだよ、日本のITエレ業界!(2)
2012年12月 7日 10:24

このシリーズの第2回目は、日本の中央集権的支配について語ろう。ここでは企業の話をするが、これだけではなく、霞が関官僚組織や内閣、政治の両院、大学などにも当てはまることである。今の日本が閉塞感あふれ、突破口が見えないのは何も半導体産業だけではなく、日本の企業、国家、役所、全てである。その組織が世界といかに大きくかけ離れているのかを、中央集権的や体質で見てみる。

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図 国会議事堂

日本の企業は、新規事業に参入し成功すると子会社にすることが多い。ポストを増やし管理職を与えることでインセンティブを高めようとしてきた。しかし、親会社は常に子会社の経営に目を光らせ口をはさむことも多い。このことは、霞が関本省でポストを増やして出向させるケースと全く同じである。霞が関は税金投入する外郭団体が手一杯になると今度は第3セクターという形の組織を作り出す。いわば天下り先だ。民間企業も親会社から分離した子会社をさらに大きくなると孫会社を作る。このようにして連結対象は拡大していく。

 

大企業も霞が関も親会社、子会社、孫会社とすそ野を広げ、天下り先を作るのはいいが、全てを管理していることに問題がある。経営のディシジョンが遅い原因の一つはここにある。組織を切り離すだけではなく資本も切り離すことをしなくては、親会社はいつまでも親であり、子会社はいつまでも親の資本に頼る子である。市場経済は厳しいといえ、国内だけで勝負ができた時代はこれでもよかった。多くの親会社の製品納入先は公共事業であることが多かったからである。霞が関改革も同じで、税金ではなく自助努力で稼ぐ仕組みを作れば天下りしても問題はない。

 

かつて日本の銀行が護送船団方式と言われた時、実は銀行だけではない。財閥系が一つのグループを構成し、その中での取引も多かった。三井財閥は三井銀行、東芝が強く結ばれていた。同様に住友財閥は住友銀行、NEC、芙蓉(旧安田)財閥は富士銀行、日立製作所というグループ内で取引が行われていた。銀行はメーカーに「お金を借りてください」と頼み、メーカーはそのお金を使うため利益よりも売り上げ重視、市場シェア重視、という戦略をとってきた。

 

護送船団は大蔵省が守ってくれるから、独自の営業活動は要らなかった。まさに「みんなで渡れば怖くない」方式だ。だからこそ長い間、横並び方式でお互いの顔色をうかがい、歩調を合わせてきた。こういった商習慣は実はごく最近にも見られる。日立製作所と三菱電機の集積回路部門の合体、そうしてできたルネサステクノロジとNECエレクトロニクスとの合体、などがまさにみんなで一緒に進む仲良しクラブ組織となった。これで世界と戦って勝てるはずがないことは子供でもわかる。しかし、旧態依然とした霞が関と公共事業型の親会社がこれを推進した。

 

今は、いわば世界企業との競争である。半導体産業が真っ先に、世界競争の舞台に立ち、旧態依然とした組織で負け続けていた。それが電機産業全体にも広がってきた。テレビは韓国のサムスン、LGに負け、パソコンは台湾に負け、それがデジカメやスマートフォンにも広がってきた。

 

さらに親会社、子会社、孫会社といった縦のつながりでは、子会社のトップは親会社の顔色をうかがい、孫会社のトップは子会社の顔色をうかがう。だから特長のある経営はできない。独自の経営をすれば子会社の社長の首が飛ばされたこともある。親会社は支配欲が強く、子会社から資本を引き揚げようとは決してしない。これでは独立した経営とは言えない。世界との競争で重要なことは、いかに早く経営決断をするかである。遅いから負ける。

 

5~6年前にオランダのフィリップスからスピンオフしたNXPセミコンダクタは最初からフィリップスの株式は10%程度しかなかった。数年間、株式を持ち続けていたが、昨年フィルップスはNXPの株式を売却し、晴れて完全独立することになった。この間、NXPは自社の得意な所だけをまとめてそこに集中し、不得意な分野(売り上げの上がらない分野)を切り離した。自らの意志と経営判断で、得意分野を絞り込み、そこでの売り上げを伸ばしてきた。今年の世界半導体全体売り上げがマイナス2~3%なのに対して同社はプラス6.9%成長と伸ばした。

 

10年以上前に、台湾エイサーのトップのスタン・シー会長に聞いたことがある。エイサーも従業員1万以上の規模の大企業になったのに、なぜ経営判断が速いのですかと。答えは単純だった。子会社に分割し、全ての権限と責任を与えたからだという。会長は経営には口出しを決してしない、と言った。だから分割された子会社のトップは自分の責任と権限で経営判断できる。

 

日本の事業部制では、これがない。事業部のトップに与える予算権限はわずか1000万円程度と少なく、投資すらできない。すべて大企業トップに伺いを立てる。ところがトップはトップで判断せず、経営会議にかけて決める。あーでもない、こーでもないとなかなか決まらない。だから経営判断が遅い。パナソニックが三洋電機を合併したことでますます経営判断は遅くなった。その結果は惨敗だった。

 

しかし、世界の企業はどんどん分割し、経営判断を子会社に任せるようになっている。権限と責任を委譲する。子会社の自由にさせている。フィリップスから分かれたばかりのNXPを取材した時もそうだし、アジレント(ヒューレット・パッカードの計測器など産業用部門)から半導体部門がアバゴとして、スピンオフした直後に訪問した時も、経営者だけではなくスタッフもエンジニアもみんな自由に進めるという思いと喜びで興奮していた。

 

グリーやDeNAなど小さなIT企業が活力を持って会社を大きくしていくケースが多いが、これは企業の活力という点で、自分の意志と責任で自由に経営しているからに他ならない。世界の半導体企業や国内のIT企業から見ると旧態依然とした国内半導体大手企業は経営ということからほど遠い。

2012/12/07