日本の若者も起業したい気持ちは強い
2012年11月 4日 18:15

今の若者は起業する意欲が少ない、と何かの記事で読んだことがある。実際に20~30代の若者に聞いてみたら、とんでもない間違いだった。記者か取材先の相手が勝手にそう思いこんでいるだけではないか。彼らは若者の本音を聞いたことがあるのだろうか。取材先の相手はたいていの場合、部長以上の年齢の人たちだが、彼らが上から目線で見下すような質問をしても若者の本音は引き出せない。同じ目線で同じ人間という意識で質問したことがあるだろうか。若者の本音を引き出せる問い方を企業の管理職は本気で考えたことがあるか。

 

私のようなジャーナリストは、聞くことが商売である。しかも真実はどこにあるのかを知ることが本質的な作業である。もちろん、このためにあの手この手を使うが、最終目的は真実を知ることである。自分が勝手に思い込んだストーリーに合わせるような「ねつ造」などは問題外である。なぜ真実が大切か。真実に届かなければ、この世の中がどう動いているのか全くつかめないからだ。つかめなければ適切な判断はできない。

 

取材する場合も同じ。仮説は立てるが、仮説はあくまでも仮説であり、聞いた声が仮説と違う場合はいつでも仮説を修正する。マスコミやメディアの中には記者が思いこんだまま記事を書いているように思える場合もあるが、ある意味でこれは「ねつ造」に匹敵する。ジャーナリストの役割は真実の声を反映させることであり、自分の考えを押しつけることではない。

 

ある記者に、インタビュー記事は最初から8割がた物語りができているもので、なにもない状態から相手の意のままに言われて記事を作るのは宣伝の片棒を担ぐことになる、と言われたことがある。しかし、これは一見もっともらしく聞こえるが、真実を追求するという姿勢からはほど遠い。宣伝の片棒を担ぐかどうかは、記者が判断して宣伝だと思う部分はカットすればよいだけのことだ。仮にインタビュー相手の意のままのことを書いたとしても、それを読む読者は宣伝ばかりする人だな、と思うだけであり、それも真実には違いない。

 

最近のルネサス報道のひどさは海外にも伝わっている。海外の人は、まるでひどいスポーツ新聞のような感覚で報道を受け止めている。事実を見極めるように注意して日本の報道を読んでいるようだ。真実はルネサス社員やルネサスの顧客がよく知っている。ルネサスは、ようやく製品戦略、ビジネス戦略が固まり、未来に向けたモノづくりに向かっている。このことをまともに報道したメディアが少ない。ただ、キャッシュが足りなくなり自己資本比率が低下したために資本を強化しようというのが正しい姿だ。自己資本比率が10%を割りながらも未来に向けてどう立て直すのかまだ全く見えないシャープや、倒産したエルピーダと同列に議論する企業ではない。

 

今何が起きているのかを短い言葉で世の中に伝えようとすれば、できる限り真実に迫らなければいえない。自分の仮説を無理やり相手に言わせるという強引な手法は決して真実を表していない。

 

取材するときだけではない。講演会などで司会やモデレートする時も、大枠(これが取材の仮説に相当)は決めておくが詳細は決めない。参加者の声、それも正直な声を聞くためだ。その時々の議論に応じて、話を変えていく。そうやって大きなテーマからははずれずにいけば、新しい発見が次々と現れる。これが最も楽しい。

 

若者の言葉が真実だと確信したのは、ワークショップを開催して、誰でも発言できる雰囲気を作ることに成功したからだ。多少アルコールも入れたが、最初はシニア世代が発言し、自由にモノ申した後、若者に振ると、では私にも僕にも言わせてほしい、ということになった。若者は決して気取ったり、心にもないことを言ったりはしない。シニアの前では遠慮するのが普通だからだ。

 

彼らは、企業で働きながら今すぐ何かを立ち上げようということではなく、いつかは起業してみたいと思っている。ということは、日本を元気にするためには若者が起業できる環境を作ってやることがシニアのやるべき仕事ではないだろうか。エンジェルや本当の意味のベンチャーキャピタルの育成、若者の提案を正しく評価する仕組み作り、ベンチャーを成功させるために起業した仕事内容を定期的にチェックし、適切なアドバイスをし成功へと導くことのできる人材のソース作りなど、起業するためのさまざまな仕組み作りを始めるべきだろう。

2012/11/04