当分解消しない半導体不足、日本の出番がきた

(2021年4月25日 09:25)

半導体不足はいつまで続くのか。TSMCは今年いっぱいと言うものの、2022年まで続くという声もある。自動車用半導体不足から始まり、二重、三重の発注を経て供給不足を加速しているため、当分避けられそうにない。不足解消に向けて動きだしたのはインテルと台湾の南亜科技。

インテルの新社長(CEO)、パット・ゲルシンガー氏が2月に就任した後、3月に早々打ち出したIDM2.0では(図1)、ファウンドリビジネスを強化するが、これは半導体供給不足を解決する策になりうる。今週発表したインテルの2021年第1四半期の決算レポートの中で、ゲルシンガー氏は現時点でファウンドリの潜在顧客は50社いると述べた。もちろん、潜在顧客とは顧客になりうる可能性のある企業という意味で、まだ顧客になっている訳ではない。

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 1 インテルの新CEOのパット・ゲルシンガー氏 出典:IntelIDM2.0での発表時のスクリーンショットから

 

しかし、潜在顧客の内訳についてもゲルシンガー氏は触れており、特にクラウドカスタマは熱狂的(enthusiastic)という表現を何度も用いている。続いて通信インフラの企業、そして自動車メーカーだとしている。なぜクラウドカスタマは熱狂的なのか。

インテルのファウンドリビジネスの特長を見ているとそれがわかる。インテルはゲルシンガー氏が言うようにIDM2.0とは、単なる設計から製造までの垂直統合企業から一歩踏み出して、シリコン設計・製造だけではなく、ソフトウエア、先端パッケージングもできる全て完結できる企業を指す。ファウンドリは製造専門の請負企業のことであるが、ファウンドリビジネストップの台湾TSMCは、製造から先端パッケージまで請け負うようになりつつある。しかし、設計、ソフトウエアは外部が作成したものを実装する。インテルは全てを完結するため、秘密保持には顧客は安心する。最近、国防総省やエネルギー省(実質的に国防関係の研究を行っている)からの依頼による半導体ICをインテルは請け負っており、秘密厳守の手本となっている。クラウドプロバイダーにとってもセキュリティの確保は絶対条件であるため、顧客は安心できる。

インテルは、米国以外に欧州アイルランドにも300mmの最先端工場を持つ。ゲルシンガー氏が米国と欧州にファウンドリ工場を建てると述べたとたんに、アイルランド政府はインテルの工場拡張計画を歓迎するというニュースリリースを流した。

1989年にインテルが150億ドルを投資したアイルランド最初の工場は、実は日本にとって因縁のある工場だ。1990年代の終わりころ、インテルは日本にも本気で製造工場を作ることを検討した時期があった。しかし、電力代の高い日本で工場を新たに持つ場合でさえ、何のインセンティブももらえないことがわかった。このため日本は選択肢から消え、インテルはアイルランド工場を増強した。経済産業省は、研究開発などの税制優遇は財務省マターだからノータッチしかなかった。しかも当時の経産省は、「1社のために支援はできない」とよく言っていた。コンソーシアムだと支援できるとしたのは、その裏に天下り先を確保できるというメリットを享受できていたという事情もあった。

今頃になって、経産省がTSMCやインテルを誘致する場合でも、せいぜい初期投資の援助しかできない。しかし工場を運営する側にとっては、電力コストの高い日本で運営するのに毎月のインセンティブの方がよほどありがたい。財務上は1回きりの支援より毎月の支援の方が健全にしやすいからだ。結局、TSMCに前工場も先端パッケージ工場も振られたうえに、3D-IC研究所の設立はTSMCが自前の予算で設立することになった。

さて、DRAMは今やサムスン、ハイニクス、マイクロンの3社だけで市場の95%前後を握るようになっている。201718年のメモリバブルの時は、メモリの供給不足に対してもほとんど増産しなかったこれらの3社寡占状態では健全なビジネスとは言えない状態になっていた。「濡れ手に粟」状態だったため、サムスンDRAM部門の営業利益率は70%を超えた。ここに新たなプレイヤーが参入し市場をもっと健全にすることが望まれるが、ここにマイナーなDRAMメーカーである南亜科技が台北の北の街に300mmウェーハの月産能力45,000/月という大きな工場を新設する。

この工場の起工式は2021年の終わりころで2023年建設が完了し、2024年に生産開始する予定になっている。投資計画は今後7年間に渡り3期ずつ行われ、総投資額は約3000台湾元(11000億円強)。

なぜDRAMか。DRAMの需要が2017年ごろからバブルだけではなく、実経済でも一段と高まったからだ(図2)。その原因は二つある。一つは64ビットシステムの定着であり、もう一つはAIの新規需要が生まれたことによる。64ビットシステムになって、4GBよりも大きなメモリをアドレッシングできるようになった。32ビットシステムでは、4GBが最大でこれ以上のメモリをアドレスできなかったため、メモリをこれ以上増やす意味がなかった。

 

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2 メモリは2017年以来、成長曲線が上寄りになった 出典:WSTS(世界半導体市場統計)の発表した数字を筆者がグラフ化

 

もう一つのAI需要は言うまでもなく、さまざまな分野で機械学習やディープラーニングで自然言語認識や自動運転に欠かせない物体認識(人やクルマ、自転車等を見分ける能力)などのパターン認識で解析できる能力が手にはいるようになった。医療分野でもガンの見分け方や創薬開発、新型コロナウイルスの解析やワクチン開発などにAIを活かせる上に、ちょっとした研究の分析にも機械学習は使えるようになった。ニューラルネットワークをベースにした機械学習では、複数のニューロンを同時に演算し次のレイヤーのニューロン群へと次々と、演算・記憶・演算・記憶を繰り返していくデータフロー型コンピューティングであるため、メモリ(DRAM)は欠かせない。

今は新規に半導体工場を作る絶好の機会である。日本はこの大事な成長の機会を、今回も見逃し三振に終わるのか。覚悟が問われている。

   

日本の半導体ICの市場シェアがついに6%になった

(2021年4月17日 11:26)

 日本の半導体IC市場のシェアが6%まで低下した、と米市場調査会社のIC Insightsが発表した(1)。ここでのシェアの定義は、半導体を設計ないし製造して販売する企業の本社がある地域である。ルネサスや、キオクシア、ソニーが日本における上位3社である。また、Micron TechnologyON SemiconductorTexas Instrumentsなどは、日本に工場を持つが、米国籍の企業である。


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1 日本半導体ICメーカーのシェア6%が現実に 出典:IC Insights

 

 日本のシェアが6%まで低下したのは、テクノロジーのけん引役が総合電機ではなく、ITになったことに気が付いていなかったからだ。かつて日本で半導体を大量に消費していた総合電機は今や半導体を消費する企業ではない。半導体購入額のトップ10社が全て、パソコンやサーバーなどコンピュータメーカーと、スマートフォンメーカーになってしまっている。

  かつて日本の半導体をけん引した総合電機企業である、NECや日立製作所、東芝、三菱電機、富士通、沖電気工業、松下電子工業、ソニーなどには大きな特徴がある。NECと富士通、沖電気は全て日本電信電話公社(NTT)傘下のティア1企業、日立、東芝、三菱は電力会社に主力機器を納入するティア1企業、松下とソニーは民生家電企業、である。NTTや電力会社は公共事業を中心とするインフラ企業。松下とソニーはアナログ技術で一世を風靡した企業、である。

  しかも多くは大蔵省(現財務省)の護送船団方式に乗ってきた旧財閥系が多い。NECは住友系、日立は芙蓉グループ、東芝は三井系、三菱はそのまま三菱系、富士通は古河系など、銀行とも密接に関係していた。ITや半導体の経営スピードが全く違う業種であり、経営陣の多くは、公共事業の事業部門から輩出しており、ITや半導体のような経営スピードが要求される経験者は少数派であった。このため、多くの経営者はITも半導体も理解していなかった。それでも半導体を支配していた。民生系の松下とソニーはITの動きを捉えることができていなかった。これら全ての企業はITの大きな流れを捉えてこなかったために、ITの重要な要素である半導体ビジネスを理解できなかった。

  マクロ経済的な大きな流れ(メガトレンド)の一つは、やはりITの進展が続くことである。IT3大要素の一つが半導体であり、他の2つはコンピュータと通信である。つまり、コンピュータと通信と半導体の三位一体がこれからも進展することが重要なのである。どれか一つでも抜けたらITは発展しない。最近のスマート化、つまりスマートシティ、スマートファクトリ、スマートビル、スマートホーム、スマートインフラなどは、これまで既存の仕組みをもっと賢く(smart)して、人間が介在しなくても自律的に改善する方向に持っていくとする技術である。少子高齢化や働き手の減少、少ない人数でこれまでよりももっと社会を良くしていこうとするためのテクノロジーがスマート化である。

  具体的にスマート化を実現しようとすると、IT3大要素の進展が欠かせない。実際、半導体はもはや産業のコメではない。半導体=社会の頭脳、である。半導体がないから日本の進展はこの30年間止まり、思考も停止するようになったのではないだろうか。何度も見せて恐縮だが、半導体市場は世界中で成長しているのに、日本だけが成長どころか、停止している(図2)。


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2 世界は半導体を使っているのに日本だけが使わないできた 出典:WSTSの発表した数字を筆者がグラフ化

 

 個人的なことで申し訳ないが、2010年に「半導体、この成長産業を手放すな」という本を出した(参考資料1)。全く売れなかった。誰も耳を貸してくれなかった。しかし、図2で示すように出版した2010年時点でさえ、すでに「世界が成長しているのに日本だけが成長していない」状態だった。もっと世界を見てほしい。

  かつて日本よりも保守的だった欧州でさえ、ITが未来の進展に重要な技術であることを認識するように変わった。ギルド制が定着して強かった欧州では、コンピュータは仕事を奪うマシンだ、という認識が長かったが、1990年くらいからコンピュータはむしろ仕事を増やしてくれる、という認識に変わったからだ。ベルギーではIMECという世界の半導体研究所が活躍し、英国ではArmという使用数世界一のCPU IP企業が進展を続けている。

  これに対して日本は未だに政府などは信じられないくらいIT化が遅れている。新型コロナの対処の仕方を見てファックスという前近代的なマシンを未だに主要な通信として使っていることに国民は衝撃を受けた。デジタル庁が創設されるが、ITはコンピュータだけではない、ことを本当に理解しているだろうか。通信と半導体がなければコンピュータは単なるローカルな機械にすぎないのである。全ての情報は世界同時に流れている。同時に捉えなければ、デジタル庁といえども日本だけ孤立した鎖国状態になる。コンピュータも通信も半導体がなければモノとして製造できない。このためサービスも提供できない。GoogleAmazonFacebookAppleMicrosoftたちが自前で半導体を作っている現状を直視していただきたい。

 

参考資料

1.       津田建二著「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、日刊工業新聞社刊、20104

   

日本の半導体産業が弱体化しても製造装置産業はなぜ強さを維持できたのか

(2021年4月 3日 10:23)

最近になってやっと新聞紙上でも、半導体が日本で重要だという見方がでてきた。しかし、日本は半導体といっても半導体製造装置や材料が強いのであって(図1)、半導体チップが強い訳ではない。かつて、霞が関と総合電機が一緒になって、半導体はDRAMをやめシステムLSIをやれと大号令をかけてきたが、全て失敗した。日本のDRAMは、韓国やマイクロンに負け、パソコン需要を狙った安価なDRAMを作れなかったためだ。しかし、その後も低コストの設計技術、製造技術を軽視してきた。

 

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1 2020年の世界の半導体製造装置・検査装置メーカー上位10社 この内東京エレクトロン(TEL)、アドバンテスト、SCREEN、日立ハイテクの4社が日本企業 出典:VLSI Research


 今残った国内大手3社、キオクシアとソニーセミコンダクタソリューションズ、そしてルネサスエレクトロニクスの内、キオクシアとソニーは昔ながらの大量生産品であるメモリと、CMOSイメージセンサで稼いでおり、システムLSIではない。ルネサスだけがシステムLSISoCともいう)をやっているが、一度潰れて再生したようなもの。

霞が関と総合電機の言うことを聞いて失敗し、「システムLSIに舵を切るが、念のため、ウチにはフラッシュメモリがあるから残しておこう」と考えた東芝はフラッシュメモリで大成功した。以前、東芝半導体部門の幹部に取材した時は、「たまたまフラッシュメモリがあったから期待していなかったが、結果的には良かった」と述べている。

システムLSIに切り替えた半導体メーカーは、残念ながらシステムをきちんと理解していなかった。2000年ごろのシステムは、コンピュータと同じようにCPUとメモリ、周辺回路、インタフェースからなる組み込みシステムになっていた。つまりシステムLSIとは、コンピュータのようにハードウエアとソフトウエアからなるチップであることを理解していない経営者が多かった。ディスプレイドライバICをシステムLSIと呼んでいた経営者もいたくらい無知だった。

このためDRAMという大量生産製品と同様に製造工場に大きな投資を行い、工場の生産能力だけが上がった。300mmウェーハに積極的に投資を行い、300mm化を世界に先駆けて工場を作った。しかし、システムLSIは顧客に合わせてソフトウエアで差別化するICであり、月産2000万個も製造したDRAMとは違い、月産数十万個で十分な製品である。システムLSIは、工場に投資するのではなく、人とソフトウエアに投資する製品であることに経営者は気が付いていなかった。

さらに、ここでの本題である製造装置メーカーが生き残れた理由を説明しよう。日本の半導体製造装置メーカーは、DRAM時代から半導体メーカーと緊密に共同でプロセス開発をしており、生産ラインの立ち上げを一緒に行ってきた。本来なら、一緒に共同で開発してきたのだから、半導体がこけたら製造装置もこけるはずだった。

ところが、実態は徐々に日本の半導体メーカーから離れていったのである。なぜか。ある製造装置メーカーによると、半導体メーカーのプロセスエンジニアは装置メーカーを見下す態度だった、という。「われわれ(装置メーカー)が製造装置を納めてもすぐには費用を支払ってくれない。検収と称して生産ラインが立ち上がって順調に動き始めてからではないと費用をいただけない。このため1年後、時には2年後もあった」と述べている。

製造装置の価格は当時(2000年前後)でさえ11億円程度もする装置が多かった。しかし、日本の製造装置メーカーは昔から、お客様は神様です、と教えられていたため、涙を呑んで半導体メーカーと取引を続けていた。しかし、この半導体メーカーの商習慣に反発したのは外資系の中堅製造装置メーカーだった。「台湾のTSMCや韓国のサムスンは、製造装置を納入すると即金で価格の8割を支払ってくれ、残りの2割は検収後に払ってくれている。日本も世界のルールでやってほしい」。

この話を聞いて、実態を調べてみるとこの通りだった。製造装置業界では「日本の半導体メーカーは金払いが悪い」ことはほぼ常識だった。しかし、この話はどの雑誌やメディアにも登場していない。当時、「業界ナンバーワンと言われたある雑誌の編集長にも話したのだが、にこにこして話を聞いてもらったのに全く記事には書かれなかった」、と外資系の中堅製造装置メーカーの方がこぼしていた。その雑誌は、半導体メーカーのエンジニアが主要な読者であったために忖度して書かなかったようだ。これではメディアとして言論の自由は叫べない。

2004年に私が創刊に携わった「Semiconductor International日本版」において、この話を半導体産業、製造装置産業、両方の視点を見つけて、このような悪い商習慣は半導体メーカーにとって自分で自分の首を絞めることになる、と書いた。製造装置メーカーからすると金払いの良い客を優先することは明白だからである。製造装置メーカーは、今後日本の半導体を避け、金払いの良い韓国や台湾の半導体メーカーを優先するだろう、と述べた。一つの半導体生産ラインに1台ではなく数台使われるため、その製造装置の売り上げがすぐに見込めなければキャッシュフローが大問題になる。

一方の半導体メーカーにとっても、1~2年後の支払いとなるとキャッシュフローがさっぱりわからなくなる。財務の健全性からもまずいため、結局将来への投資も見込めなくなる。こういった点で、半導体メーカー、製造装置メーカー双方にとって悪い商習慣を改めるべきだ、と記事では結んだ。

国内製造装置メーカーは半導体メーカーに遠慮しながら、海外売上の比率を上げていった。例えば、半導体テスター業界最大手のアドバンテストは、今や海外売上比率は常に92%前後と極めて高い。東京エレクトロンも85%が海外売上だ。そしてこれら大手の半導体製造装置の共通項は、どこの総合電機メーカーからも独立していることだ。親会社が総合電機ではないため、自分で海外売上を伸ばしていけた。日立系の日立ハイテクは残念ながら海外売上比率は60%程度と低い。この製造装置業界でさえ、総合電機の陰が付きまとっている。

 

   

「半導体は未来を創る、本当は儲かるビジネス」、京大小野寺教授最終講義

(2021年4月 1日 10:30)

長年、LSI設計技術を教えてきた京都大学の小野寺秀俊教授(図1)が3月末に停年で退官されたが、このほど最終講義をリモートで聴くことができた。小野寺教授は、人を育てることがうまい、という教育でもよく知られている。最終講義は確かに面白く、ユーモアを交えた講義だった。前半では半導体集積回路の産業的なすごさ、すばらしさを伝え、後半では自身の個人的な歩みを伝えた。

 

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1 京都大学電子電気工学科教授 小野寺秀俊氏

 

「半導体は未来を創るもの」、「半導体は、本当は儲かる産業」と捉えており、学生の心をくすぐっている。もちろん、この二つの言葉に偽りはない。日本の総合電機の経営者が半導体を理解していなかったために、世界の半導体産業が成長を続けているのにもかかわらず、日本だけが成長どころか低下し続けている、という結果をもたらしたのである。

日本しか知らなければ、実はこの結論は出なかった。海外の半導体企業を知れば知るほど、日本だけが低下していった原因がよくわかる。40年以上、世界と日本の半導体産業を見てくると、いかに日本の半導体産業が間違って迷走してきたかもよくわかる。あまりにも「世界レベルの半導体経営」ができないように総合電機の経営者が縛り付けてきたのである。

米国では、総合電機から始めた半導体企業は早々に消えた。RCAGEWestern Electricなどは半導体からすぐに撤退し、1950年代~60年代にFairchildIntersilHarrisTexas InstrumentsAnalog DevicesMotorolaSiliconixなどの半導体専業メーカーが活躍し、ブレーンストーミングのレベルにまで落として自らの戦略を立て直した企業が生き残った。そして新しいスタートアップとしてIntelQualcommXilinxLinear TechnologyCypressなどが1970年代、80年代に生まれた。

これに対して日本では初めからNEC、日立製作所、東芝、三菱電機、松下電器産業、富士通、沖電気工業、ソニー、シャープなど総合電機や通信機器メーカーが半導体を手掛け続けた。半導体部門を分割・独立させても子会社として人事権を握り支配し続けた。こういった電力や通信、民生といった動きの遅い電機会社が支配し続ける限り、半導体の牽引が電機からITサービスに移ったことに気が付かなかった。

役所は、半導体部門を支配している総合電機の経営トップとしか話をしなかったために、半導体産業の本質を理解できなかった。性能さえ上げればよい、という考えは今でも残っているが、第5世代コンピュータは、性能を追求したマシンではなく、結局、パソコンだったことにコンピュータ業界も半導体業界も気が付かなかった。ダウンサイジングというパラダイムシフトに気が付かない経営者が半導体を支配したために、日本は惨敗したのである。経産省ももっと半導体関係者やIT部門の声を聴くということをしなかったために「トンチンカン」なプロジェクトを推進し続け失敗した。

総合電機が半導体を支配していた欧州では、全く違う対応をした。Siemensから独立したInfineon TechnologiesPhilipsから独立したNXP SemiconductorASMLは半導体専業メーカーあるいはリソグラフィ専業メーカーになったものの、親会社の影響力を排除するため(というよりも親会社はそれどころではなかったためという声もある)、株式は最初でさえ10%程度しか持たなかった。もちろん今はゼロである。

今、世界の半導体は、小野寺教授の言われる通り、未来をデザインするツールとなっている。これまでのプロセッサの性能よりもとにかく消費電力を下げることに集中してきたArmは、全てのスマートフォンを動かす頭脳となった。拡散スペクトラム方式の一つCDMA技術で盗聴しづらい携帯電話のモデムを設計したQualcommは、携帯電話の通信の頭脳をデザインした。

そして、Analog DevicesTIIntelなどのように営業利益率3割~4割の利益を常に稼ぎ出し、次への投資に利かす企業が世界には多い一方、日本企業の営業利益率は儲かった年でさえ1割台がやっと、という儲からないビジネス構造になっている。これも小野寺教授の言われる通りの「半導体は本当は儲かる」を、米国企業は実践しているのである。

公共事業にどっぷりつかってきたかつての総合電機から早く離れた企業が、日本でも活躍し始めている。一方で、総合電機の半導体から外資に買収されて良かった、という社員の声を半導体の世界ではよく聞く。エンジニアのモチベーションを上げ、やる気を出させる経営を外資はよく知っている。こういった声は、小野寺教授は人を育てるのが上手、という声とも通じる。

小野寺教授に人の能力をどうやって伸ばすのか、という質問をぶつけてみると、その人の何かを引き出すことにインセンティブを与えるという。本来、教育(Education)とは教えること(Instruction)ではなく、Educe(引き出す)ことである。小野寺教授は、学生・院生の能力を引き出すことに長けているのだ。「例えば、レベル3しかできない人には、レベル10を目標とするのではなく、レベル4か5を目標にして、やる気を出すように導いている」と語っている。

 TIにせよ、Analog Devicesにせよ、かつてインタビューしたCEOなど経営陣は、エンジニアのやる気を引き出すことにずいぶんと腐心していた。日本の半導体メーカーのトップには、社員のモチベーションを上げるための努力をしている社長は極めて少ない。企業業績を上げるには、社員のモチベーションを上げ、自律的に業務が回るように仕向けるトップの努力が必要だ。このためにはまず、企業文化を変えることに集中することだろう。「倍返しだ」など社内派閥抗争をしたり、喜んだりしているようでは、業績向上はとうてい望めない。経営層も好き嫌いで人選するようでは、未来はない。ましてや忖度(そんたく)は業務を停滞させるガンである。日本の企業風土をすっかり変える気持ちがなければ、世界からますます置いていかれてしまう。

   

火災事故対応で見るルネサスの大きな変貌

(2021年3月22日 16:09)

 ルネサスエレクトロニクスの那珂工場(図1)で、319日(金)に午前247分頃、火災が発生した。同日午前812分頃、消防により鎮火を確認した。ルネサスはこの火災状況を同日の23時にプレスリリースでメディアに流した。第1報のプレスリリースには翌20日(土)午前9時から警察と消防の立会いの下で現場検証する予定と書かれてあった。

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1 ルネサスエレクとトンクスの那珂工場 出典:記者説明会からのスクリーンショット

 

 現場検証は9時から13時まで行われた。現場検証の結果、人や建屋の被害はなかったが、純水供給装置や空調装置など一部用役設備および一部製造装置に被害が出たという。そして、警察および消防による現場検証が終了し、出火元がN3棟(300㎜ライン)の一部工程である、メッキ装置であるということが特定された。同装置の筐体およびメッキ槽は熱への強度が相対的に低く、過電流が発生したことにより発火に至ったものだと断定された。

  なお、焼損面積は、約600平方メートルで、N3棟(300㎜ライン)1Fのクリーンルーム面積(12,000㎡)の内、約5%に相当し、焼損した製造装置は、11台でN3棟(300㎜ライン)の全製造装置の約2%に相当するという。ただ、焼損面積が小さいからと言って、生産工程に支障が少ないということでは決してない。半導体前工程の工場は、リソグラフィ、エッチング、成膜という一連の工程を何度も繰り返すことによって、薄膜のパターンを描いていくからだ。自動車工場とは違い、流れ作業ができないという性格の工場である。

  現に、火災現場の1階のクリーンルームの上にある2階のクリーンルームは正常に稼働しているが、出火元がBEOL(半導体前工程の中の後半の配線工程)であり、FEOL(半導体前工程の中の前半のCMOSトランジスタを形成する前半の工程)は正常に稼働している模様。半導体ICは一般に、シリコン結晶ウェーハを投入してから、CMOSトランジスタを形成し、その後に配線層を形成する。FEOLとはCMOSトランジスタを形成するまでのプロセスを指す。その後で配線層を形成する訳だが、ロジックICでは56層配線は当たり前。10層に及ぶような複雑なICもある。

 

多層配線でのメッキ工程


 この多層配線工程では、特に複雑なロジックICでは、昔のAl(アルミニウム)配線ではなく、Cu(銅)配線が主流である。Al配線は蒸着工程が使えたが、Cu配線では使えない。このため、デュアルダマシンと呼ばれる特殊なプロセスを使って形成する。実はCuはシリコン中に入ると、電子をトラップするディープレベルと呼ばれる不純物準位を作るため、Cuがシリコンに直接入らないようにしなければならない。このため、Cuの侵入を抑え、なおかつシリコンに入っていかないような金属でシリコン表面を覆う。このような金属はバリアメタルと呼ばれる。そこでシリコンの上にCuを配線する場合には、必ずバリアメタルをスパッタリングなどの手法で薄く形成し、その後、種結晶としてCuを薄く形成する。ただし、電気抵抗を下げるためにCuは分厚くしかも短時間で付けたい。そこでメッキを使う。

  メッキ液には硫酸銅に青酸カリを混ぜたものを一般にはよく使う。メッキ液の中にアノードからカソードに電流を流すと、Cuイオンがカソード側に流れて、カソード電極に取り付けたシリコンウェーハ上にCuメッキされるという訳だ(図2)。


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図2 メッキ装置 出典:記者説明会からのスクリーンショット

 

 

 今回の火災では、メッキ槽の中にあるアノード電極から続いている上側の配線の一部に電流集中が起き、そこで電線が切れてしまい、その火花によって発火したらしい。電線が切れて電流が停止したのであるが、すでに近くにある樹脂材料に火が飛び移ってしまった。作業員が遠くからその様子を見つけ発火を確認し、非常停止ボタンを押したが、火はすでに手の付けられない状態になっていたために消防へ連絡したという。

 過電流が発生した原因や発火に至った経緯については調査中とのことであるが、疑問として回路ブレーカーが作動する前になぜ過電流検出保護回路をアノード配線近くに入れていなかったのだろうか。また発火した火花が樹脂に飛び移ったというが、難燃性樹脂を採用していなかったのだろうか。こういった疑問を含めてルネサスはメッキ装置メーカーに問い合わせている最中だとしている。


隠さない説明は好感

 

 記者会見では、ルネサスが会見で見せた焼けただれたメッキ装置、クリーンルーム内の近くの延焼した製造装置(図3)、やや離れたクリーンルーム内のすすに汚れた天井などの写真までも公開した。これらの写真を見て、なぜわずか1カ月で生産を戻せるのかという質問が集中した。これに対して、CEOの柴田英利氏は、クリーンルームのフィルタや部材の手配、代替すべき11台の装置の手配、さらに焼けただれたクリーンルームで手作業での片付けの応援部隊の手配などはすでに終わっているとして、最短で1カ月で再開する、と固い決意を崩さなかった。

 

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3 焼けただれたメッキ装置 出典:記者説明会からのスクリーンショット

 

 これは2011年の3.11東日本大震災の時に自動車メーカーやティア1サプライヤーなどの応援部隊の手伝いであっという間に片付いたという経験が同氏にはある。人海戦術しかない片付けにはとにかく人が必要だ。すでに5社以上の企業から手伝いの人を出すという申し出を受けているとしている。 

 今回の事故で改めて感心したことは、メディアに火災事故の最初から21日日曜日にウェブ記者会見を開くまでのスピード感と透明性である。事故を起こしたことはまずいが、それを隠さず、スピード感を持って対応したことは評価できる。事故が起きた19日午前2時から同日23時にプレスリリース第一報、翌20日の9時から13時までの現場検証とそのデータ整理、発表準備を済ませた21時には第2報が入り、その直後に21日(日)14時に開催するウェブ記者会見のお知らせが入った。21日の会見で現在の全容がほぼわかった。

  ところで、ルネサスエレクトロニクスの時価総額は、いつの間にか21200億円程度になっている。1年前の時価総額の3倍である。その最大の要因は、ルネサス自身が大きく変わったことにありそうだ。柴田CEOが就任する前までのルネサスのトップは、大きな借金を背負ってまでもほとんど相乗効果のないIDTを買収した。20196月に柴田英利氏が就任した当初は、また金融系の人がトップか、と落胆したが(参考資料1)、彼はまだ40歳代と若い。海外留学の経験もある。スピード感があり、ITがけん引する半導体企業のトップとしては海外企業並みであることが徐々にわかってきた(参考資料2)。これまでのスピード感、ITメガトレンドへの対応、シリコンバレーのIDT経営陣をルネサス経営陣に加えたこと、などこれまでの古臭いNEC、日立、三菱といった典型的な旧体質の企業体から訣別したことが、今回の火災事故の対応からもはっきりわかった。

 

参考資料

1.   ルネサスの社長交代劇だが、また金融系の人(2019/6/25

2.   ルネサスがグローバル企業に変身中(2020/8/8

 

   

生活習慣病を即座に見出すウェアラブル端末を目指して

(2021年3月 7日 10:46)

ウェアラブル機器は健康管理ツールとして変わりつつある。すでにアップルウォッチは医療機器である。米国の厚労省に相当するFDA(食品医薬品局)の認可を取得し、シリーズ4以降のアップルウォッチは立派な医療機器として認められており、心拍数や心電波形を示す心電図としても認められるようになった。不整脈の検出に活かせるようになっている。強みは何と言っても常時、測定できることだ。

テクノロジーが進化したおかげで、ウェアラブルデバイスで手軽に病気の診断をできるようになるが、今後はさらに病気診断の範囲が広がることになる。その一つとして可能性を秘めているのが、眼底検査だ。

人間の眼底を流れる血管からさまざまな生体情報がわかると言われている。光学的に血糖値(グルコース)を測定する、血管の太さから血圧を測定する、はたまたIR(赤外線)LEDを照射しスペクトルから中性脂肪の濃度を測定する、など、生活習慣病を眼底血管から見つけることができそうだという(図1)。

 

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1 眼底検査は多くの生活習慣病がわかる 出典:ナノルクス

 

しかし、これまでの眼底検査は可視光で見ているため、患者はまぶしくて目を開けていられない。しかもまぶしいため、瞳は小さくなる。せいぜい静止画の写真を撮るくらいしかできない。

そこで、まぶしくない赤外光を使えば長時間撮影できだけではなく、動画もとれるようになる。しかし赤外線だと白黒撮影しかできない。そこで、赤外線画像をカラー化する技術を追求するスタートアップのナノルクスは、奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学領域 光機能素子科学研究室の太田淳教授グループと共同で、医療用の眼底カメラを開発した。このほど大阪大学大学院医学系研究科眼科学(教授:西田幸二)および同大学医学部附属病院AI医療センター(特任教授(常勤):川崎良)は、このカメラを用いて同大学医学部附属病院での検証を開始した。

カメラは試作品に近いモノだから、今のところ大きいが、単板式のCMOSセンサにカラーフィルタを組み合わせたカメラであるため、技術的にはスマートフォンに搭載できるほどの小型化はできそうだ。そうなると、スマホが医療機器となる可能性がある。画像診断なら、AI(機械学習やディープラーニング)も使える。AIは病気かそうではないか、あるいはその中間かなどの診断が得意中の得意である。学習を積み重ね、画像データを蓄積していれば、スマホやアップルウォッチなどの端末で推論できるため、ウェアラブル程度の大きさで、診断できるようになる。現実的な話である。

ナノルクスはNews &Chipsでも取り上げたように(参考資料12)、赤外線の波長領域の中から可視光のRGBに相当する波長域を見つけ、赤外線写真をカラー化できるようにしたベンチャー企業だ。今すぐにスマホに載せても、赤外線画像にふさわしい用途が少ない。このため、まず医療機器で臨床実験を行い、データをたっぷりとることから始めようという訳だ。

エレクトロニクス・半導体テクノロジーの進歩は、医療機器をモバイルデバイスに変えるようになりそうだ。これまでは歩数計や歩いた距離など単なる活動量計という位置づけでしかなかった。歩数計の歴史は古く、加速度センサで歩数を数えるiPhoneの時代からも歩数計は搭載されていた。しかし、これらは医療機器としては認められず、単なる活動量計としてFitbitなどから長く販売されていた。

しかし、テクノロジーの進歩によってアップルウォッチのようなウェアラブルデバイス程度でも、立派な医療機器と認定されるようになった。血管を流れる血液中のヘモグロビンが入射光を吸収する性質があるため、光パルスでほぼ連続的に血管に光を照射してその反射を検出すれば、ほぼ連続的な脈の波形をとることができる。心臓から送り出される血液は血管を太くするため、細い血管と太い血管の反射光を連続的に計測することによって脈波図を描くことができる。

従来の心電図は昔から使われてきたが、これは人体を流れる微弱な電流を検出しており、心臓から血液が送り出されるときに微小な電流を測っているだけであり、精度が高いのかどうか実は疑わしい。だったら、光パルスの反射を検出するウェアラブル機器だって精度的には似たようなものかもしれない。

医療機器として認められた、アップルウォッチのシリーズ4を発表した後の20191月、アップルストアで、CEOTim Cook氏はCNBCテレビのインタビューで次のように答えている。「将来、何年かたってからAppleは人類にどう貢献してきたのか、を振り返るように質問されれば、ヘルス(健康)だと答えます。なぜなら、アップルは人々の生活を豊かにすることが使命だからです。ヘルスケアの中でも健康(Wellbeing)にすることが私のメインターゲットです。医療が病院だけに支配されているのではなく、個人個人が健康に注意できるように、医療の民主化を図っていきたいのです」(参考資料3)。

 

参考資料

1.     真っ暗闇でカラーの赤外線画像・映像を撮る (2020/2/21

2.     赤外線画像がカラーで見られる! (2018/7/6

3.     Apple CEO Tim Cook On China, Wall Street and Innovation (2019/1/9


   

Intelの社長交代にみるハイテク企業経営者の日米の違い

(2021年1月14日 19:19)

 Intelの新CEOPat Gelsinger氏(図1)に決まった。同氏は元々Intel30年以上在籍しCTO(最高技術責任者)を務めていた。半導体業界においてプロセス技術に熟知したテクノロジーの最高責任者であり、創業者のRobert Noyceやムーアの法則で有名なGordon Moore氏、ビジネス書籍「パラノイアだけが生き残る」を記したAndy Grove氏などから、技術と経営を学んでいた。Intel退社後EMC、そしてVMwareに入社、2012年からその仮想化ソフトウエア会社のCEOを務めていた。これまでIntelCEOだったBob Swan氏は215日に退任する。

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1 Intelの新CEOに決まったPat Gelsinger

 

 2020年のIntelは、第2四半期までは比較的順調に成長していたが、第3四半期は前年同期比10%減という残念な結果に終わった。Intelの株価は少しずつだが落ちて行き、2020年の4~5月ごろからAMDに大きく引き離される結果になった。すでにその兆候が少しずつ表れていた。その前の第2四半期の決算発表で、7nmプロセスの立上りの延期を発表した。TSMC7nmプロセスサービスですでに大きな利益を手にしていたことと対照的だった。第3四半期の決算報告では、IntelCPUの製造を自社工場ではなく、他のファウンドリに依頼することも選択肢にあると述べた。もはやIntelには未来がないとまでも言われた。

  Intelは、7nmプロセスの遅れに対してプロセス開発のマネージャーをガラリと変えた。しかし、Intelの株価低迷は止まらず、CEOBob Swan氏に対する風当たりはますます強くなった。シリコンバレーの論客で、元Cypress Semiconductorの創業者兼CEOだったT. J. Rogers氏は、米国のニュース番組専門チャンネルのCNBC放送の1231日におけるインタビューで、IntelCEOを代えなければIntelは危ないと警告していた(参考資料1)。同氏は、Intelのようなハイテク企業では、Ph.Dなどの資格を持つ、もっとテクノロジーを熟知した人間をCEOにすべきだ、と主張していた。現に差を付けられたAMDCEOPh.D(博士)を持つLisa Sue氏(参考資料2)であり、彼女はIEEE Robert Noyce賞も2020年に受賞している。

  このほど退任するBob Swan氏は、その前のCEOであったBrian Krzanich氏が社内の従業員と関係を持った、ということが社内規定に触れるとして退任した20186月に、CEOとなった元CFO(最高財務責任者)であった。Intelに入社する前もずっと財務畑を歩んできた人間である。テクノロジーには詳しくないため、ワンポイントリリーフだと見られていた。ところが2年余りCEOの地位にいたものの、テクノロジーに疎いため将来の絵を自分で描くことができなかった。

  Intelのプロセスは、TSMCSamsungよりも微細なプロセスを使っていたと言われてきた。例えば、Intel16nmプロセスはTSMC10nmプロセスと同程度といわれており、TSMC7nmIntel10nmプロセスよりも少し小さい程度だった。しかし、一般投資家やアナリストにはそういった技術の詳細は通用しない。容赦なくIntelのプロセスは遅れている、と言われていた。

  だが、TSMCの微細化のスピードは極めて速い。114日に発表したTSMCの第4四半期決算報告会では、第4四半期の売上額の20%7nmプロセスの一つ先の5nmプロセスをすでに占めていた(図2)。第3四半期では10%程度しかなかったのにもかかわらずだ。第2四半期には5nmプロセスは影も形もなかった。Intelがプロセス技術でもたついている間に、TSMCはあっという間にその先を走り、大きく差を広げていたのである。

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2 TSMCの売上額はすでに5nmプロセスが20%も占める 出典:TSMC

 

 Intelでは、テクノロジーに付いていけない経営トップはもはや用済みなのだ。米国のソフトウエアベースの計測器メーカーでありLabVIEWで有名なNational Instruments社でも、2017年からCEOとなった財務出身のAlex Davern氏は、20202月にアプリケーションエンジニアから戦略立案のリーダーを務めていたEric Starloff氏に代わった。Davern氏がCEOに任命される前は、創業者のJames Truchard博士が1976年以来、201612月まで40年間、CEOを務めていた。

  日本ではハイテク企業であってもテクノロジーに疎い人間がトップを務める例が実に多いが、これこそが、日本が遅れている要因の一つかもしれない。半導体やITのようなスピードが求められる産業では、常にテクノロジートレンドに気を配っていなければハイテク世界から置いていかれる。こういったテクノロジートレンドを先読みできない経営トップがいる限り、日本の成長は遅れるであろう。

 

参考資料

1.    米国ニュス専門チャネルCNBC2020/12/30

2.    CES2021AMD CEOの基調講演;コロナで大きく変わったことは何か?(20201/13

   

コロナ禍でオンライン取材が当たり前になった

(2020年12月25日 22:11)

2020年はついに一度も海外に出張しなかった。20年ぶりかもしれない。新型コロナの感染力がけた違いに強いことがわかり、呼吸困難に陥る重症化にもなりやすいという厄介なウイルスの感染拡大したせいだ。世界各地で入国制限やロックダウンをしている。人から人へと唾液感染だから移りやすい。

 3月下旬あたりからテレワーク(WFH: Work from Home)になり、オフィスまで電車に乗って出かける必要がなくなった。それでも筆者のようなジャーナリストや編集者は、ITエンジニアと並んでWFHで活動しやすい立場にはある。図1のように在宅勤務導入率では上位にある職種だ。

 

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図1 在宅勤務しやすい職種 出典:経済産業研究所(権 赫旭氏、萩島駿氏)

 

 テレワークと言っても職種によっては在宅勤務できない仕事も多い。特に、資材や購買、受付・秘書といった職種は在宅勤務の導入率は低い。製造業のエンジニアや実験を行う工学のエンジニアは設備のある工場や実験室に通わなければ設備を使えない。このため、在宅勤務はしづらい。しかし、論文を書いたり読んだりする時はオフィスに行く必要はない。

昔、原稿用紙に向かって長い記事(特集や解説)を書く時は、自宅で執筆していたことがよくあった。まさにテレワークだった。米国のように編集者やジャーナリストは昔から自宅をオフィスにしていたケースが多い。ジャーナリストは、東海岸、中央、西海岸に分かれてそれぞれがオフィスを持ち、自分の守備範囲をカバーしていた。1980年代くらいまでは電話取材が多く、パソコン通信、インターネット取材へと進化してきた。ファックスで取材していた期間は短かった。

そして今はZoomWebExON24Teamsなど会議ツールを使った取材へと変わった。今年、急激にこういったインターネットツールを使った取材インタビューや記者会見が増えた。記者会見、企業のセミナー、国際会議、展示会など、多くのイベントがオンラインに代わった。逆にこうなると、今まではめったに行けなかった海外での展示会や国際会議も簡単に参加できるようになる。もちろん出張費は要らない。悩みは時差だけだ。それも北米以外の取材なら、時差はそれほど苦ではない。欧州の朝はこちらの夕方であり、真夜中にはならないことが多い。

オンライン会議が今年ほど普及していない昨年までは、国際電話取材もそれなりにあったが、時差を考慮してくれていた。しかしオンラインのリアルタイムでは、特に米国取材は時差が厄介だ。米国の朝はこちらの真夜中になる。夜遅いと眠くて起きていられない。

それでもオンラインツールの便利なことは、後になってオンデマンドで視聴できることだ。リアルタイムで視聴できなくても(その場合は質問できないが)、後でゆっくり視聴できることは、内容を理解しやすいことにつながる。

結局、大抵のことはオンラインツールで取材できてしまうのである。資料のないインタビューも時間を配慮してもらえば、記事を生むことはできる。今年、一度も海外出張はしなかったが、海外取材はむしろ増えた。

 

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2 2012年に参加したラスベガスでのCES会場

 

毎年1月の始め、米国ネバダ州ラスベガスで開かれる民生用IT関係のCES(図2)は、完全オンラインになる。取材したければ、アポイントメントもオンライン上で取れる仕組みを導入している。実際に出向いてさまざまなエンジニアやジャーナリストとディスカッションできるような臨場感と情報量と比べると確かにオンラインは落ちるが、出張予算もないジャーナリストやエンジニアは低コストで参加できるというメリットは大きい。

また国内での学会や業界活動での講演は全てオンラインに代わったが、ここでもメリットがないわけではない。東京で開催しても地方にいる人は出張費がかからないから参加しやすい。またリアルの場だと気後れして質問が出にくいが、オンラインでしかも事前に講演資料を配布していれば、多数質問が出て活発な議論ができるようになる。

ただし、デメリットとして、参加者同士の議論がまだしにくいという点がある。参加者と講師との間のディスカッションやQ&Aに限られる。これもツールの改良で、参加者同士のディスカッションもいずれできるようになるようだ。オンライン会議は意外と使え、情報量は多い。

   

米国で生まれた新興ファンドリ企業SkyWater、日本でも立ち上げるべき

(2020年12月24日 10:59)

米国で生まれたファウンドリ企業が政府の信頼を得て、ビジネスを拡張し始めている。ミネソタ州ブルーミントンに拠点を置くSkyWater Technologyという会社がそれである(参考資料1)。それも90nmというそれほど微細でもない製造プロセスから本格的にファンドリビジネスを始めている。すでにグーグルとパートナーシップを組んで半導体チップ製造を進めている上に(参考資料2)、国防総省からも受注を勝ち取っている。それも最先端の300mウェーハではなく200mmウェーハを使う。

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1 SkyWater200mmファブ 出典: 同社ホームページより(参考資料1


残念ながら製造が得意な日本では、製造を請け負うファンドリはビジネスにならなかった。ファンドリビジネスを理解できる人間がいなかった上に、半導体製造ラインさえあればできると、たかをくくっていたからだ。日本でこれまでファンドリビジネスと称していたサービスは実はファンドリサービスとはほど遠い。設計から製造までをこなすIDM(垂直統合型半導体メーカー)の日本の半導体メーカーは、実は全くの中途半端であることさえ気づかなかった。メモリのように大量生産製品ならIDMは適しているのだが、世の中がシステムLSISoCともいう)の少量多品種の製品になったのにもかかわらず、IDMにこだわりファンドリとしてやってこなかった。たくさんのIDMが自らファンドリと称している事業部門は、自社の生産ラインが余っていたら他のIDMにも貸してあげる、というスタンスの事業だった。これでは営業していないのと同じこと。想定顧客はやはりIDMであった。ファブレスを顧客として取り込むことができていなかったのである。

ファブレスを顧客に取り込むためには、ファンドリがシステム設計から論理設計、論理合成、レイアウト、マスク出力までのLSI設計工程全てを熟知していなくては営業できない。ファブレス半導体の中には論理設計でのRTL出力までプログラムできる所があっても、その後の検証やレイアウトはできない所もある。またレイアウト出力までやっていける所もある。さまざまな段階で、しかも自社のプロセスに合うようにMOSトランジスタレベルでの設計ルールをPDK(プロセス開発キット)という形で提供していなければならない。こういったファンドリビジネスの基本ができていなかった。

 かつて日立やNEC、富士通、東芝などは全て「ラインが空いていたら使わせてあげる」という態度だった。これでは客は誰も来ない。PDKを用意している日本のファンドリは、パナソニックが放棄した工場を利用するタワーパートナーズセミコンダクタ―社だけである。親会社のタワーセミコンダクタは、かつてNational Semiconductor社のイスラエル工場を買収しビジネスを始めた。その後、米国のジャズセミコンダクター(旧ロックウェル)を買収、さらに日本のパナソニックの工場も合弁で手に入れた。パナソニックが台湾の半導体メーカーに売却したことで、現在の形になった。

米国で生まれたファンドリ会社のSkyWaterも、2017年にミネソタ州ブルーミントンにあったサイプレス社(現在はインフィニオン)の工場を買ってファンドリ事業を始めた。しかも130nmから始め、今年90nmPDKを提供することで本格的なファンドリビジネスを展開する。

日本では今さら初めても微細化でTSMCには勝てないからファンドリをやっても無駄、という声が根強いが、何もTSMCをライバルにしなくても市場はたくさんある。そのTSMCでさえ、最先端の7nm5nmといったビジネスは売上額の50%近くに達しているが、残りのプロセスルールでも50%の売り上げを誇っている。先ほどのタワーセミコンは最先端でも65nmプロセスであり、市場は十分にあるのだ。アナログやパワー半導体なら微細化は要らない。むしろ7nmまで微細化すると性能がむしろ落ちるデバイスもあるという。ただし、半導体は微細化するほど性能は上がるという性質があるため、徐々に微細化していけばよい。

市場を見極めることができないのであれば、作り手主導でも設計のわかる営業やPDKを揃えるといった、必要最小限のサービスリソースを提供すれば、客はやって来やすい。これからの5Gやクラウド、データーセンター、AIIoT(デジタルトランスフォーメーション)といった未来の市場でも欠かせない、例えば電源用ICDC-DCコンバータやAC-DCコンバータ)などは0.7µm700nm)などのPMICが必要だ。また5Gなどのマイクロ波回路向けの半導体なども最先端CMOSほどの微細化は要らない。パワー半導体となればなおさら不要だ。

しかも半導体製造のコスト分析レポートによると、原価に占める人件費の比率はわずか5~8%しかない。つまり半導体製造は人件費の高い国で十分競争できる製造業なのだ。つまり日本に向く。だから米国でも新規参入ができたのである。

日本では、半導体と言えば製造のことばかりを話題にするほど、今でも製造が得意な国だ。にもかかわらず、製造を捨てた。このことを悔やむ人たちが実に多い。

前にも述べたが、半導体工場はコロナを受け付けないほどの清浄度が要求され、ビジネスとしてもコロナ対策のソリューションとなる(参考資料3)。新型コロナで失職した人たちを救う手立てにもなり、しかも将来性があるから長く続くビジネスになる。政府はもっと本格的にファンドリビジネスを日本で始める人たちや企業を支援してはいかがだろうか。

 

参考資料

1.       SkyWater社のホームページ

2       Googleがカスタム半導体の民主化・自由化を推進(2020/11/14

3.       コロナ禍で半導体産業が絶好調な理由(2020/12/13


 

   

コロナ禍で半導体産業が絶好調な理由

(2020年12月13日 10:39)

12月第1週における世界半導体販売額は前年同週比で10%を超える伸びを見せ、100億ドル(1400億円)を記録した。世界の半導体産業はコロナ禍においても活況を見せている。新型コロナは、感染力が強いため、潜在保菌者とは触れないことが大前提になっているが、人と触れない技術や、感染ルートを見つける技術、モノにも触れずにマシンを動かすHMI(ヒューマンマシンインターフェイス)、さらにはテレワークによるコンピュータ需要など、全て半導体で解決できるからだ。もちろん、触ることが前提のスマートフォンや、消費者向けの自動車用の半導体チップは今年前半、低迷を続けてきたが、後半になりようやく回復してきたからだ。アップルの新しいiPhone 12などの需要が立ち上がってきている。

こういった需要だけではない。半導体産業は、ほこりやチリを入れないクリーン度が要求されるビジネスである。半導体工場は、手術のような医療現場以上に清浄度が要求され、工場内ではコロナウイルスさえ入る余地はない。新型コロナよりも微細なものを問題にしているからだ。クリーンルーム内は周囲よりも常に気圧が高く設定されており、たとえコロナがクリーンルーム内に無理やり入ろうとしても空気で押し返される構造になっている。

もちろん、クリーンルーム以外のオフィス環境は一般の働く人と同じレベルの環境ではあるが、クリーンルームにはほこりやチリなど汚染物(Contamination:通常、コンタミという)を入れないという習慣が根付いており、半導体工場のオフィス棟では、靴を履き替えることが常識となっている。

 

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1 廊下を赤チーム用、青チーム用に分けた 出典:Micron Technology

 

今回の新型コロナでも広島県東広島にある米マイクロンテクノロジー社の工場では、在宅勤務ができない作業者・技術者を赤チームと青チームに分け、廊下の真ん中に簡易な壁を作り完全に二手に分けた(図1)。異なる作業をする部門同士をそれぞれ赤チーム、青チームとし触れ合わないようにした。同じ作業をする従業員には作業時間、食事時間をシフトさせ互いに触れ合わないようにする、食堂はアクリル板の仕切りを徹底する(2)など、今では常識となっている対策を5月に発表しており、社内ではその前から実行されていた。各チームを管理するためにリモートコントロールセンターを設け、コックピットのように、全ての業務を可視化できるようにしている。マスクの着用や体温管理、手洗い、消毒などは言うまでもない。

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2 社員食堂 出典:Micron Technology


この広島工場は元日本のエルピーダメモリ(日立とNECの合弁会社で出発したが、2~3年で倒産寸前となり、坂本幸雄氏が立て直し、10年間続けたがリーマンショックで銀行が1円も貸さなくなり会社更生法の適用を申請した)であった。今回のコロナ対策は従業員が自ら提案したもので、マイクロンの経営陣はここの従業員を高く評価している。さらに生産しているDRAMメモリを緊急病院に納入したり、顧客と共にクラウド業者への納入を優先してワクチン開発を支援したりするなど、コロナを撲滅するための支援にも従業員たちは知恵を絞っていた、とMicronの経営陣の一人は語っていた。

半導体の作り手だけではなく、半導体を使う応用も広がってきている。これまでの民生用・産業用から社会問題を解決するために使われることが多くなってきた。例えばDX(デジタルトランスフォーメーション)。センサを使って取得したデータをクラウドに上げ解析、可視化することでセンサのある現場にフィードバックし、顧客の生産性を上げたり売上増のアイデアに変換したりする。センサもデータを処理する物理的なモノは半導体である。エッジで処理したデータをクラウドに上げるための通信手段も半導体の塊であり、クラウド上で、データを収集、管理、紐づけ、保存、解析、可視化する直接のツールがソフトウエアであっても実際にソフトウエア通りに動かしてくれるモノは半導体である。可視化してくれるスマホやパソコン、タブレットなどの端末はもちろん半導体がなければ動かない。

実は、ソフトウエアもハードウエア(半導体)も今や一体となっているのである。ソフトだけ、半導体だけ、ということは今やほとんど意味がない。ソフトウエア技術者を大量に採用する半導体メーカーは実は極めて多いのである。

1週間で1兆円ものビジネスを売り上げる半導体を発表したのは、米市場調査会社のVLSI Researchで、同社はプロセッサや専用回路のようなロジック半導体もメモリ半導体も、アナログもパワー半導体も全て上向きになってきたと述べている。

2020/12/13