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NEWS&CHIPS|国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト、メディアコンサルタント津田建二の事業内容~技術・科学分野の取材・執筆(国際技術ジャーナリスト)
   

スマホの次は、やはりスマホ

(2018年2月15日 11:16)

相変わらず、ポストスマホという言葉がメディアに載っている。スマホートフォンの次のデバイスを期待しようとしている。しかし、少なくとも今後5年くらいは、スマホの次はスマホである。なぜか。スマホは、いつでもどこでも座らなくても使えるコンピュータだからだ。コンピュータはマシンが同じでもソフトウエアを変えるだけでいろいろなマシンに変身できるというもの。これからのIoT時代では、IoTからクラウドに吸い上げたデータを可視化して、スマホやタブレッド、ファブレット(5~7インチのスマホ)でみることから始まる。IoTのその次は、解析したデータを完全自動でIoTへフィードバックし、スマホやタブレット確認しなくても自律的に改良する。これは5~10年先の話だ。


スマホはリモコンに

  当分はスマホで確認する。先日、日立製作所の家電事業会社、日立アプライアンス社は、ロボット掃除機など家電製品をスマホで操作できるようにしていくと発表した。もはや専用リモコンは要らなくなる。リモコンの代わりにスマホで操作するようになる。家電メーカーはリモコンを作らなくて済むが、その代わりスマホで家電を操作するためのアプリを開発する。

  スマホはそう簡単にはなくならない。これこそ、ユビキタスなコンピュータだからである。10数年も前にいつでもどこでもインターネットを経由して世界中を結ぶことができるユビキタス時代が来ると言われながら、どこかへ行っちゃった、と思っていることだろう。実は、スマホがユビキタスなデバイスだ。パソコンだと、いつでもどこでもつながっても椅子に座らなければ操作できなかった。スマホは、立ったままでも歩きながらでも操作できる。歩きスマホが迷惑問題になる時代だ。これがユビキタスである。

  スマホは世界中とつながり、YouTubeを使えば自分の好きな時代の音楽や映画をいつでもどこでも楽しめる。ポール・マッカートニーやイーグルズ、ビージーズのライブを見ることができる。ABBAの音楽と「マンマ・ミーア」を同時に楽しめる。ノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランの「ミスター・タンバリンマン」や「時代は変わる」、といった音楽も聴ける。ベトナム戦争時に真昼の空から大量に落ちてくる爆弾を雨に例えて表現したと言われたCCRCredence Clearwater Revival )の「Have you ever seen the rain?(雨を見たかい?)」は、悲惨なベトナム戦争のフィルムを背景にした音楽が流れ、胸が詰まる。CCRのボーカルでリードギターを務めたジョン・フォガティが、ブルース・スプリングスティーンとの共演ライブで「Oh! Pretty Woman」をハモると、悲惨な時代を乗り越えて生きてきたと感じる


昨年はメモリの高騰でスマホも高騰しただけ 

 話は横道にズレたが、1月に開かれたCESの主催者CTAが発表した2018年の主要デバイスの成長率を見ると、ウェアラブルデバイスはもはや1%の伸びしか期待できない。GartnerTrendForceなどの市場調査会社は2018年のスマートフォンを5~6%成長すると予測する。2017年のスマホはほとんど成長せず横ばいだったが、これは2017年にメモリ価格が高すぎたためにデバイスも高くなりすぎて、スマホは売れなくなったからだ。18年はメモリ価格が正常に戻れば、スマホも適正価格に戻り再び成長曲線に乗る。

  スマホは、これから家電のリモコンになり、外出先からスマホを通して家のエアコンのスイッチを入れ、玄関のドアの鍵を確認できるようにもなる。その分、セキュリティがしっかりすることは言うまでもない。スマホが玄関の鍵となることさえありうる。アプリさえインストールすれば、使えるようにできるからだ。非接触カードのNFCは、スマホを入れてセキュリティも確保すると、決済機能を入れられる。フリーマーケットなどでクレジットカードの決済もできるようになり高価なカードリーダーは要らなくなる。スマホの応用はとどまるところを知らない。

  スマホはまさに超汎用コンピュータであり、アプリケーションソフトを入れ替えれば何にでも化ける。ロボットやVR/ARもスマホと連動して動く。当然AIが入り込むし、クラウドを使ったAIはすでにSiriとして機能している。クルマとの連動も時間の問題だ。今や、通話機能は「ついで」になったケータイであるからこそ、スマホの次はなかなか登場しにくい。

(2018/02/15)

   

シリコンバレーはイノベーションバレーに

(2018年2月12日 10:34)

 このところ、シリコンバレーで起業する半導体メーカーが極めて少なくなった。日本では半導体産業が落ち目の産業と言われ続けて何年も経つ。米国でも同じだよ、という声を昨年2月に日本人から聞いた。だが、一方で、グーグルやアマゾン、アップル、ヒューレット-パッカードなど半導体とは無縁のシリコンバレー企業が半導体チップを作り始めた。この状況をどう読むか。

  実はこの1年、シリコンバレーの様子を伝えようとして、取材したものの日本人のVC(ベンチャーキャピタリスト)は半導体に対して否定的だった。一方でスタンフォード大学のRichard Dasher教授は、時代の変遷によって半導体の役割が変わってきただけであり、重要な産業であることは間違いない、と肯定的だった。シリコンバレーにはもはや半導体の起業が少なくなってきており、もはやシリコンバレーという名は適切ではないという意見が多かった。ではこの状況をどう読むか。Dasher教授とのディスカッションの中で、「シリコンバレーではなく、イノベーションバレーと呼ぶべきではないか」と仮説をぶつけてみると、まさにその通りだと答えた。

ProfDasher.JPG

図1 Professor  Richard Dasher, Director, US-Asia Technology Management Center, Stanford University 

 それでもなお、自信がなく、この状況を見ていたが、アップルの半導体への本格参入(注)やヒューレット-パッカード・エンタープライズ(HPE)社の自社製半導体チップなどを見ているうちに、半導体はイノベーションのインフラだと確信を持てるようになった。

  これまでは半導体は、シリコンチップであることが「価値」を持っていた。10nmプロセスを使った最先端のチップに価値があった。シリコンチップに電子回路だけではなくソフトウエアも組み込めるようになった。これからは、半導体はイノベーションのためのインフラに代わってきた、といえるのではないだろうか。チップがなければイノベーションを起こせない。しかしチップそのものに価値はもはやない。チップが生み出すデータや情報に価値が移ってきたからだ。

  Dasher教授は半導体の専門家ではない。言語学でPh.Dを取り、科学的言語と企業のダイナミズムやイノベーションマネージメントを研究する専門家だ。イノベーションのある分野を常にウォッチしており、半導体での最新の技術であるWLPや新メモリ、3D-IC、ヘテロプロセッサデザインなどもよく知っている。

  「今はグーグルやアップル、フェイスブックなどが巨大になった。スタートアップを生み出し成長させる仕組みができ、分野は問わなくなった。シリコンバレーには企業を成功させるためのテクニックがある。常に次の新しいチャンスを探している」と語っている。もはや半導体シリコンに価値はなく、世の中を変える新しい何か(イノベーション)に価値が移り、それを生み出す場所がシリコンバレーだという訳だ。

  2018212日の日本経済新聞の1面には、グーグルやアマゾン、フェイスブックなど大手IT企業がベンチャーを買収するようになっている状況は、ベンチャーが育ちにくい面であるというトーンの記事が載っている。しかし、ベンチャーはこれからも生まれていることは確かである。ベンチャーにVCが資金を出すというよりも、面白いベンチャーがいれば、大手ITが買収してしまうのである。この状況は起業側の意識も変えてきた。ベンチャーも、自分の技術を発展させるためには、資金のある大手に買収されたいと思っている。ここが日本とは違う。日本には「鶏口となるも牛後となるなかれ」ということわざがあるように、大企業で使われるよりもお山の大将になるべきだ、という考えは根強い。

  ただ、シリコンバレーのようなイノベーションの強い社会では、中小も大企業も関係なく水平分業がしっかり根付いており、日本の典型的な親会社(大企業)→子会社(中企業)→孫会社(小企業)→外注請負、といった垂直構造とは無縁だ。シリコンバレーは、お互いに尊敬しあい、人々の差別意識は全くないビジネス環境で、優秀ならば誰でも受け入れる、という世界である(参考資料1)。逆にシリコンバレーで事務所を設け、ビジネスをやっていきたいと願う日本の大企業は、まずその垂直構造の意識を変えなければ絶対に成功しない。起業したばかりのベンチャーや、サプライチェーンの中にある企業を、上から目線で見るようでは失敗することは目に見えている。

  シリコンバレーにオフィスを構え情報収集している大企業もある。そこに社長が日本からIT大手を表敬訪問したいと言えば、空港までのお出迎えから始まり、相手の企業へのアポイントメントの取り付け、企業訪問のアテンドなど経営陣の面倒を見ている企業が圧倒的に多いが、このような企業の意識だとシリコンバレーでは成功しない。米国では表敬訪問は無意味だと解釈する企業が多いからだ。何かのテーマを一緒にディスカッションしないのであれば無駄な時間と言われるのがオチである。社長が一人で勝手にふらっと来るとか、一人で極秘に相手の企業に行くとか、夕方や朝、現地法人を訪れて食事をとりながら状況を把握する、といったトップのいる社長がシリコンバレーでは当たり前。シリコンバレーの企業とビジネスを始めるなら、この程度の一人行動ができるように経営陣が意識を変えるべきだろう。

  米国のベンチャー企業は、優れた技術やビジネスモデルを持っていれば、大企業でさえ尊敬の目で見る。日本とは違う。シリコンバレーの意識は中身が問題なのだ。

  イノベーションは、2000年までの半導体、今までのソフトウエアから、これからはシステムの時代を迎えている。つまり、半導体というハードウエアとソフトウエアの両方をテクノロジーとして持ち、さらにそれらを使ってサービスやビジネスモデルと一緒にシステムを構築していく方向に向かっている。今や半導体やソフトウエアはイノベーションのインフラとなった。ここから、医療、教育、製造業、農業、公共事業、運輸・交通、小売り・問屋、流通などありとあらゆる社会でイノベーションを起こすことができる時代になった。これを人はデジタル変革、デジタル化と呼ぶ。シリコンバレーは世界に先駆けるイノベーションバレーと変わった。


 注)AppleiPhone開発時からアプリケーションプロセッサ(CPUGPUや画像処理プロセッサなど異なるプロセッサを集積した半導体)は自前で開発してきた。CPUコア部分はARMからライセンス供与を受けたが、動作速度が不十分だったためIntrinsity社を買収しドミノロジック回路を導入、少ないトランジスタ数でCPUを動作させることでGHz動作を可能にした。その後、iPhone7で導入したセンサフュージョンのマイコンの外部購入を止めAPU内部への集積に変え、2017年になってGPUコアであるImagination TechnologiesPowerVRのライセンスを断り自社開発に変えた。電源用ICともいうべきPMPower ManagementICDialog Semiconductorを切り、自社開発に持ち込んだ。昨年暮れには量子フィルムを使うイメージセンサを設計するファブレス半導体メーカーのInVisage Technologies社を買収した。Appleはこれまでソニー製イメージセンサを使ってきたが、Appleがこの技術をうまく使いこなせれば、ソニーを切る可能性もある。


参考資料

1.    シリコンバレーは世界一差別のない所(2015/03/01

2018/02/12

   

グーグル、アップル、みんな半導体を持ちたい

(2018年2月 2日 23:25)

 1年前の常識で半導体産業を見ていたら、周回遅れになってしまう。そのくらい世界の半導体産業はめまぐるしく動いている。昨日まで半導体を買っていた企業が、今日は半導体を自分で作るようになった。

  昨年暮れに、グーグルやアマゾンに続き、テスラも自前の半導体チップを開発している様子を伝えた(参考資料1)。これまで半導体メーカーではなかった企業がどんどん半導体産業に進出してきている。グーグルやアマゾンだけではない。アップルは半導体を強化している。さらにHPC(高性能コンピューティング)やサーバ、パソコンのHPE(ヒューレット-パッカード・エンタープライズ)までが自社の独自チップを持つようになった(1)

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1 HPEが開発した半導体チップ

 

 グーグルはこれまでTPU(テンソルプロセッシングユニット)と呼ぶ、ディープラーニングを行うニューラルネットワーク向けのチップを開発してきた(2)。ところがグーグルは2017年あたりからアップルからアプリケーションプロセッサの開発者を連れてきていた。グーグルの半導体はもはやTPUだけにとどまらなくなってきた。

Fig2a.png

 

2 グーグルの設計したTPU実装ボード 出典:Google

 

 なぜ半導体をこれまで作ってこなかった企業がこんなに半導体チップを持つようになったのか。半導体チップこそ、システムを差別化できるツールだからである。そして、半導体産業は、設計と製造だけではなく、もっと細かく役割分担するような水平分業が進み、工場を持たなくても、そしてLSI設計言語を知らなくても、自分だけの半導体チップを持てるように変わってきた。

  これまで日本の半導体産業は先ず初めに工場がなければ始まらない、という考えでずっと垂直統合を標榜してきた。世界は1980年代後半からファブレス(設計のみ)とファウンドリ(製造だけを請け負うサービス業者)に分かれてきたが、日本はこの流れにずっと抗してきた。結果、日本だけが没落した。その結果、ファウンドリはおろか、ファブレスの中身さえも知らずに半導体は斜陽産業という認識でやってきた。

  一口にファブレスと言っても、半導体の設計はHDLVerilogといった半導体特有の言語で論理機能を記述する。ほとんどプログラミングの仕事と同じであるが、特殊な言語でプログラムを書くのである。だからデバッグ作業や検証、シミュレーションなどの作業が必要だ。プログラムを確認し問題なければ、回路配線図を描く。そのあともデジタルのタイミングで機能通りを実現できるかを検証したら、回路ブロックの配置や回路ブロック間やブロック内の配線を行い、タイミング検証を確認したのち、マスクデータを作成する。この最後のマスクデータをファウンドリに渡すのである。

  こういった一連の流れを知らなくても自分だけの半導体を手に入れることはできる。HDLVerilogで論理機能を記述するプログラマの人たちがいるデザインハウスに自分の欲しい半導体チップの機能や仕様を伝えるだけでよいからだ。自分でプログラムしなくてもプログラムを書いてくれるデザインハウスに依頼すればよい。グーグルやアマゾンは、半導体チップの設計しか使えないプログラム言語を勉強して自分でプログラムする必要はない。

  製造だけをしてくれるファウンドリの最大手TSMCは子会社にデザインハウスGlobal Unichip社を持っている。だから、「私はこんなチップが欲しいのだが」と依頼するだけでプログラム言語まで習得しなくてもいい。つまり、HDLVerilogを知らなくても半導体チップを持てる時代になったのだ。こうなるとグーグルやアマゾンなどのITサービス産業でも半導体チップを持てる。そして自分だけの競争力のある機能を織り込むことができ、差別化できるテクノロジーを手に入れることができる。

  ところが、自分の半導体を持ったグーグルは、スマートフォンの台湾HTCを昨年暮れに買収した後、アプリケーションプロセッサを独自に開発するため、アップルから人材を続々連れてきている(参考資料2~5)

  アップルはマッキントッシュパソコンを作っていた時代は、半導体チップを外部から購入していたが、iPhoneを設計し始めた時から自分でプロセッサを持つようになった。ARMのプロセッサコアをライセンス購入し、それを高速化するため、イントリンジック社を買収した。そして昨年、APUに搭載するグラフィックス回路を、従来のイマジネーションテクノロジーズからの購入をやめ、自社開発に踏み切った。さらに電源ICもダイヤローグ社から購入していたが、これも自社開発に切り替えた。つまり自分でIC設計言語を習得しマスクまで設計するようになった。さらに201712月には、イメージセンサの企業インビセージ社を買収した(参考資料 6)。アップルはもう立派な半導体メーカーとなった。

  グーグルも同じ道をたどりそうだ。グーグルにとってアップルのアプリケーションプロセッサよりも優れたプロセッサを手に入れたい。だからアップルからエンジニアを引き抜いた。来年にはグーグルも立派な半導体メーカーになっていることだろう。

 

参考資料

1.    グーグル、アマゾンに続きテスラも自前の半導体チップを開発

2.    Google Bets a Billion Dollars More Brains Can Help Take On Apple

3.    Google hires Apple chip designer John Bruno

4.    Google is dabbling in chip design: what does that mean? 

5.    Google's new hire from Apple could help design custom chips for future Pixel phones

6.    GSA Market Watch - Q4 2017


2018/02/02

   

3D-ICがモバイルPCにやってきた

(2018年1月12日 21:21)

 半導体ICチップを重ねて、貫通電極(TSV)でチップ間をつなぐという3次元ICが、これまでのハイエンドサーバーやHPC(スーパーコンピュータやハイエンドの高性能コンピュータ)から、パソコンレベルに降りてきた。インテル社がクアッドコアのCPUである第8世代Coreプロセッサと、AMDのグラフィックスICチップRadeon RX Vega Mシリーズ、3次元DRAMであるHBM 2(高速バンド幅メモリ)を、インテルのEMIB(埋め込みマルチチップ配線ブリッジ)と呼ぶシリコン内蔵基板に搭載したプロセッサボードをモバイルパソコン向けに発売したのだ。

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1 Intelの第8世代COREプロセッサとAMDGPU、超高速DRAMメモリのHBM1枚のプロセッサボードに集積した 出典:Intel

 

 このニュースは、海外ではIntelがこれまでのライバルだったAMDと手を組んだ、という視点で採り上げられているが、今回のコラボではAMDCPUではなく、GPU(グラフィックスチップ)をIntelが採用することになったもので、AMDIntel互換CPUを使う訳ではない。もともとAMDが持っているGPUは、かつてカナダのグラフィックスチップメーカーのATI2006年に買収したもので、厳密にいえばAMDが開発したものではない。NIHNot Invented Here)だ。とはいえ、AMDIntelがコラボしたという構図はこれまでなかっただけに、海外の視点も面白い。

  ただ、これまでTSV技術を使った3D-ICは、コスト的に安くできずハイエンド市場で使われるのがせいぜいだろうとみられていた。経産省が音頭を取り、3D-IC技術をドリームチッププロジェクトとして大々的に組織化したのは2009年。ASET超先端電子技術開発機構)と名付けられた開発の主力団体は、2013年度までの5年間で3D-ICTSVを作製することに注力してきた。

  しかし、国内の半導体メーカーからも後工程メーカーからもビジネスにつながらなかった。シリコン基板ウェーハを薄く削り、貫通させるTSV技術は工作時間が長くかかり、低コスト化にまで至らなかった。元々日本の国家プロジェクトでは低コスト技術には見向きもせず、ひたすら微細化を追求し失敗してきた歴史があったが、このASETプロジェクトでもビジネスにするための低コスト技術については全く議論されずに終わった。それもプロジェクト期間が終われば、実用化まで継続される議論がなく、プロジェクトは文字通り終わり、さよならを迎えただけだった。

  米国や欧州では、チップを積層しTSVで配線電極をつなぐ3D-ICDRAMで検討された。HBMHigh Bandwidth Memory)やHMCHybrid Memory Cube)と呼ばれ、DRAMの高速化に向けた3D-IC構造に変えたのである。市販のDRAMをただ単に重ねただけの構造ではない。市販のDRAMでは、チップ上のメモリマトリクスにあるメモリセルを長辺側と短辺側からアクセスし、どちらかからメモリセルのデータを読み出していた。しかしHBMでは、TSVを通して縦方向にデータを読み出している。すなわち、最下層のチップは読み出すためのセンスアンプを備えたアクセス回路になっている。その上に重ねたチップはDRAMアレイであり、それらには読み出し/アクセス回路が載っていない。

  海外勢が韓国のSK HynixSamsung、米e-Silicon、台湾ASE、米Rambus、米Northwest Logicなどとエコシステムを作り、それぞれ得意な技術を持ち寄り、HBMを商用化させると共に、データセンターやAI学習向けなどに提供し始めているのだ。SK HynixDRAMメモリそのもの、Samsung はメモリをよく知るファウンドリ、e-Siliconはアーキテクチャ、ASEは実装・パッケージング技術、Rambusは高速SerDes(直並列変換チップ)技術、IPベンダーのNorthwestHBMのコントローラという具合に、技術を持ち寄った。そして、その顧客が今回のIntelであった。

  Intel1枚の回路基板上に、3D-ICであるHBM 2メモリと自社のクアッドコアCoreプロセッサ、そしてAMDGPUを搭載し、GPUHBMCPUGPUなどの接続には、多層配線を施した小さなインターポーザチップを基板に埋め込むEMIBEmbedded Multi-die Interconnect Bridge)技術を活用した。EMIBIntelが開発した技術で、チップ同士をつなぐ再配線チップに小さなシリコンチップを用いたため、コスト的には有利な技術となった。

  これまでIntelFPGAHBMを並べる2.5D技術もリリースしており、クラウドとしてのデータセンターでの高速プロセッサ技術やAIディープラーニング技術も揃えている。今回はデータセンターなどで実績を積み、技術を習熟させ、低コスト技術を磨き、モバイルパソコンに使う半導体ボードとなった。日本のASETが日本だけにこだわらず、海外企業を含めたエコシステムでHBMなり、高密度実装技術をドリームチップとして続けていれば、勝ち組にとどまれたかもしれなかった。

2018/01/12

   

ムーアの法則を再定義しよう

(2018年1月 3日 16:55)

半導体業界の真っただ中にいると、ムーアの法則が終焉し、半導体に代わるデバイスが求められる、という趣旨の発言がある。しかし、本当だろうか。ムーアの法則とは、市販される集積回路(IC)に集積されるトランジスタ数は毎年2倍で増えていく、と元インテルのCEO/会長を経験したゴードン・ムーア氏が提案した経済法則である。彼はインテル設立前のフェアチャイルド時代の1965年、米Electronics誌やIEEEの論文誌にその経済法則を寄稿した。その12ヵ月で2倍というスピードは、のちに18ヵ月~24ヵ月に2倍に代わったが、それでもムーアの法則といわれている。

FigMoores_law.png

図 ムーアの法則 出典:IntelIEEE IEDM 1975

 なぜ、トランジスタ数の集積度は、これほどのスピードで高くなってきたのか。ウィリアム・ショックレイ、ジョン・バーディーン、ウォルター・ブラッテインのノーベル賞受賞者3人が開発した半導体デバイスはpnpトランジスタであり、このままでは集積化しにくかった。その後、集積化しやすいMOSトランジスタを世界中で開発に成功したことにより、集積化が進んだ。ムーアの法則が進んだのはMOSトランジスタが発展したことが技術側の理由である。応用側の理由として、MOSトランジスタは10だけで全ての機能を表現するデジタル論理回路の進展にピッタリ向いていたからだ。

  この進化を見ると、半導体産業の最も重要なインパクトは、トランジスタの発明よりも、マイクロプロセッサとメモリの発明が最大ではないかと思う。デジタル回路はコンピュータの進展とピタリ合っているからだ。元々デジタル論理回路だけで全ての機能を表現するだけでは汎用性がなく、コストの高い専用回路しかできなかったが、インテル社がマイクロプロセッサとメモリを発明してくれたおかげで、汎用コンピュータの小型化の道が開けるようになった。

  MOSトランジスタは、微細化すればするほど性能(動作速度)が増し、消費電力が減る、という大きなメリットがあり、微細化が進み高集積化が進んだ。まさにムーアの法則が成り立ったのである。しかし、ムーアの法則はアナログ回路やバイポーラトランジスタ回路では集積化の進展は大きく遅れ、ムーアの法則は成り立たなかった。最近でこそ、ようやく微細なアナログCMOS回路が登場するようになってきたが、その要求は4G5Gなど無線回路技術によるものである。

  ここにきてCMOSの限界が叫ばれるようになったのは、10nm7nm5nmと最小寸法が原子レベルの長さに近づいてきたからだ。原子の大きさは、0.2~0.3nmであり、シリコン半導体結晶では、5nmの長さの中にシリコン原子は、わずか10~20個しかない。元々MOSトランジスタは、1024乗個のシリコン原子の中にドーパントとして1018乗個のドナーやアクセプタなどの不純物(すなわち100万分の1個の不純物)をドーピングすることで電子や正孔を生み出し、二つの電極間(ドレインとソース間)を走行させるデバイスである。つまり、100万個のシリコン原子に対して1個の不純物で電子や正孔を1個生み出すデバイスであるからこそ、二つの電極間に10~20個しかない原子の間に不純物がどれほど入っているだろうか。ゲート長Lがたとえ10~20個の原子しか含まないサイズでもゲート幅Wを広げることで原子の数を増やすことはできるが、不純物の力で要求する数の電子や正孔を生み出すことは難しくなってくる。だからMOSトランジスタは、物理的限界に近づくのである。

  ところが、マイクロプロセッサとメモリの発明によって、ソフトウエアを半導体チップに埋め込むことができるようになったことは、産業的なインパクトが大きい。ハードウエアを替えなくてもソフトウエアだけで異なる機能を生み出すことができるようになったからだ。つまり、ハードウエアをCPUとプログラムメモリのROMと、データメモリのRAM、保存メモリのフラッシュなどさえ揃えていれば、ソフトウエアを自由に取り換えるだけで別の機能を実現できる。スマートフォンのアプリがまさにソフトウエアである。ゲームアプリを入れればゲーム機に、最初から内蔵されているがメールソフトを入れればメーラーに、ラジコを入れればラジオになる。スマホはコンピュータだからである。

  となると、半導体チップはCMOSトランジスタの集積度を上げなくても、ソフトウエアを生み出すことで、新しい機能やユーザエクスペリエンスを生み出すことはできる。ただ、そうは言っても現実には、集積度の向上への要求は、クラウド時代にはさらに高まってきている。

  では、微細化に頼らずに集積度を向上させるのにはどうすべきか。これが3次元化である。3D-NANDフラッシュは、シリコンの平面上にフラッシュメモリセルを並べるには面積の増大を招き、歩留まりよく生産することは難しくなっている。このためシリコン内部に32層や64層などのメモリセルを構築し3次元化で対処しようとしているのだ。DRAMでもメモリ容量を増加させ高速化も同時に果たすため、すでにメモリセルをスタック型やトレンチ型といった3次元化で平面の限界を乗り越えてきた。さらに集積度を上げるため、メモリチップを重ねてゆきTSVThrough Silicon Via)と呼ばれる貫通電極でチップ同士をつなぐ技術HBMHigh Bandwidth Memory)が使われるようになってきた。

  3次元技術を使うことで、集積度の向上はまだ増やすことはできる。つまり、1個のシリコンチップ上に集積されるトランジスタの数は年率2倍で成長するというムーアの法則が破綻しても、1個のICパッケージ内に集積されるトランジスタ数は24ヵ月に2倍の速度で増加すると定義し直せばよい。つまり、IT技術がよりクラウドへ進展することで高集積化への要求は止まることがない。さらに最近では、ムーアの法則がさらに進むことで、2045年ごろにシンギュラリティが現れるという予想も出ている。シンギュラリティとは、半導体技術などで人工的に作る神経細胞(ニューロン)の数が人間の頭脳のニューロン数(1000億個)よりも増える時期を指す。つまりシンギュラリティに向けた高集積化の要求はさらに出てくることになる。

  高集積化の要求が続く以上、ムーアの法則は続くことになる。となると、「シリコン平面上に集積されるトランジスタの数」を「ICパッケージ内に集積されるトランジスタ数」と定義し直せばムーアの法則はさらに続くことができる。逆に、ムーアの法則はもう限界=半導体技術はもう限界=テクノロジの進歩は止まる、という単純な図式を思い込むようでは、世界が進めるテクノロジの進歩を見失うことになる。トランジスタの高集積化は少なくとも20年、30年以上後でも進展することは間違いない。このことは仮に今、大学を卒業する若者が一生の仕事として、IT/エレクトロニクスを選択しても定年までは、食っていけることを意味する。

  ただし、心掛けなければならないことは、IT/エレクトロニクスの進展は今後も続くが、その中の細かい技術や市場はどんどん変化していく、ということだ。その変化についていける企業や人間こそが生き残る。まさにダーウィンの言葉そのものである。日本の電機・電気・電器企業が世界と差を付けられたのは、時代の変化についていけなかったからだ。時代の変化に対して敏感になるには、さまざまな情報にアンテナを立て、デマに惑わされずに自分で検証する作業をするという地道な作業が必要である。少なくとも海外の勝ち組と言われる企業は常に時代のトレンドをウォッチし、自社の製品やサービスにどう生かすか、そのための作戦・戦略を常に変えながら、生き残っている。

2018/01/03

   

2018年はドッグイヤー

(2018年1月 2日 00:24)

 開けましておめでとうございます。

昨秋から暮れまで仕事に追われ、NEWS & CHIPSの記事が大幅に減りましたことをお詫び申し上げます。今年は、そのようなことのないように頑張りたいと思います。今年もどうぞよろしくお願いします。

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図 成田山新勝寺の初もうで 

さて、戌(いぬ)年の2018年はまさにドッグイヤーである。犬の寿命は人間の1/3~1/4と短いので、ドッグイヤーの1年は人間の3~4年に相当する。つまり、ドッグイヤーとは、3~4年の仕事を1年で終えることになる。犬の世界を人間の世界に置き換えると、世の中の動きが非常に速く、3~4倍の速度で仕事しなければならないことになる。

ITの世界は20年前から犬と同じスピードで動いている、と言われてきた。つまりITを企業に採り入れようとする場合には34倍もの速い経営判断が求められる。ソフトウエアを使ったサービスが中心のIT時代は、3~4倍の速度でもついていけた。しかし、今はソフトウエアだけではなく、ハードウエアも大きく変革する時期に来ている。ハードウエアの重要なインフラとなるコンピュータのアーキテクチャが基本的に大きく変わらざるを得ない時期に来ているからだ。コンピュータアーキテクチャの重要なインフラはもちろん半導体チップである。

米国では国を挙げて、Rebooting Computer(リブーティングコンピュータ技術)、すなわちコンピュータアーキテクチャそのものを再起動しよう、というキャンペーンを張っている。その候補がAI(人工知能)であり、量子コンピュータなどである。要は超並列コンピューティング技術だ。

従来のフォンノイマン型コンピュータは、演算部と記憶部に分けプログラムを書いて指定通りに動かすものだが、次の新しいリブーティングコンピュータ技術は全く新しい概念が必要となる。その一つが人間の頭脳を模倣するやり方だ。もちろん、ノイマン型コンピュータも頭脳を模倣したものではあるが、新型コンピュータは頭脳の仕組みの発展と共に生まれるものに違いない。

ただ、人工知能という言葉は非常にいい加減に使われてきた。昔はちょっとした自動制御も人工知能と呼んだことがある。現在は、ニューラルネットワークを利用するディープラーニングや機械学習をAIという呼び名を使っていることが多いが、それだけではない。頭脳を模倣するという意味のニューロモーフィック半導体チップも登場しており、IBMや最近ではIntelも開発している。これらは脳の神経細胞(ニューロン)とそれらをつなぐ節点(シナップス)でネットワークを構成したニューラルネットワークを基本とするアーキテクチャだ。これをベースにして機械学習やディープラーニングを行っているのがNvidiaなどのAI技術である。

頭脳の機能は最近になってわかってきたことも多い。例えば、人間の脳の一部である海馬は記憶をつかさどる役割を持つと言われてきたが、最近では過去の記憶やそのエピソードから新しいことやモノを生み出す創造力もあることがわかってきた。記憶と創造という役割を利用するAI技術も日本の小さなベンチャーが開発するようになってきた。つまり、AI技術といってもディープラーニングだけではない。

2018年はさまざまなAI技術が登場し、それをチップ化して性能を上げ、消費電力を下げる努力が世界中で行われるであろう。もはやハードだけ、ソフトだけ、は許されない。両方を理解する必要が出てくる。

さらに、何の目的でAIを利用するのか。その牽引力となるのはセンサのアプリケーションである。それによってソフトウエアが決まり、ハードウエアはセンサとその応用、アナログフロントエンド回路、センサフュージョン回路、そしてデジタルのAIか従来型コンピューティングか、などを組み合わせることになる。最後は情報に変換したセンサデータを手元や顧客のもとに送る通信技術が必要になる。こういったシステム全体をデジタル化やデジタルトランスフォーメーションと呼ぶが、全体をセキュアに保つ技術も欠かせない。セキュリティ技術はどのようなアーキテクチャにも対応しなければならない。つまりここにも大きな市場があるという訳だ。

こういった新市場、新技術はできるだけ素早く開発しなければならないが、そのためには素早い経営判断が必要となる。過去の実績を求めるような幹部は、IT/エレクトロニクス市場から消えた方がよい。ドッグイヤーには、実績は不要。潜在市場や利用シーンなどの想像力は絶対に必要。そして投資するのかしないのか、素早い決断が勝負を決める。かつてのシャープや東芝の経営者のぐずぐずはこの時代にはそぐわない。だから負けたともいえる。

シリコンバレーではすでに毎日がドッグイヤーだ。日本ではこれまでのマインドセットを切り替え、素早い判断が必要で、そのためのスリムで透明な組織に変え、差別意識のないエコシステムに対応するなど、全く新しいビジネス手法が経営者に求められる。AIベンチャーを先頭にドッグイヤーにふさわしい企業が伸びる社会を志向することこそ、これからの日本に必要ではないだろうか。

2018/01/02

   

グーグル、アマゾンに続きテスラも自前の半導体チップを開発

(2017年12月30日 23:51)

電気自動車メーカーのテスラモーターズが自動運転用の半導体AIチップを自分で作る、と同社CEOのイーロン・マスク氏が語ったという報道が相次いだ(参考資料1)。自動運転に必要なAI(ディープラーニング)ソフトを載せたチップを開発するためだ。また、Linked Inを見るとアップルが半導体の設計・検証者を198職種で募集している(参考資料2)。米国では、半導体業界にもウーバー化が押し寄せてきている。つまり、これまで半導体を使う側だった企業が自分で作りたいと考えるようになってきたのだ。もちろん、グーグルは第2世代のAIチップを開発中であるし、アマゾンも買収したAnnapurna社が半導体設計者を募集している。

 

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図 テスラの電気自動車 AIをまだ搭載していない

 

 海外では、ITサービス業者もIT機器メーカー、クルマメーカーまでもが半導体チップを設計し始めた。これに対して日本は、半導体産業=斜陽産業、という図式から逃れられず、いまだに間違った認識を持っている。2017年の半導体産業は、メモリバブルのおかげで、年率20%増という驚異的な成長を示す。2016年の3390億ドルから4087億ドルという、700億ドル近い差である。8兆円弱の新規市場が1年でできたようなものだ。

  ただし、メモリを除く半導体産業の成長率は2017年には9%程度であり、堅実な高成長を遂げている。メモリは、DRAM75%成長、NANDフラッシュは45%成長と大きく伸ばしたが、需要に対して供給が追い付かず、単価が上がったために売り上げが増えた。生産能力はわずか3%程度しか伸びていない。DRAMの生産能力は2018年もそれほど大きくならず、単価はいまだに増加傾向にある。市場関係者は2018年の中ごろには単価が落ち着くとみている。NANDフラッシュはDRAMほど単価が上がらなかったが、新しい集積度向上技術である3次元構造のNANDチップの量産が軌道に乗れば単価は上がらず生産量は伸びていくことになりそうだ。

  メモリ以外のシステムLSIあるいはSoC(システムオンチップ)の世界では、Intelを除き、水平分業が確立している。ファブレスメーカーはクアルコム、ザイリンクス、メディアテック、AMDNvidiaなどがおり、工場を持ち製造できるファウンドリ(製造専門の請負業者)サービス業者には台湾のTSMCUMC、米グローバルファウンドリーズ(GF)、イスラエルのタワージャズセミコンダクタ、中国のSMICなどに加え、最近はサムスンも出てきた。

  半導体チップは工場を持たなくても設計データ(マスクデータ)があれば、誰でもチップを持てるのである。テスラやグーグルが自分の独自チップを持てるようになったのは、このためだ。しかも水平分業は、設計側でさらに進んでおり、自分でシステムLSIを設計する必要もない。「こんなチップが欲しい」という全体システムのコンセプトと仕様さえ持っていれば、設計してくれるデザインハウスがいる。LSI設計ではVHDLVerilogという独特の言語で論理設計をプログラムしていかなければならないが、このLSI言語を使ってプログラムしてくれる業者がデザインハウスだ。だから自分で例えば、クルマの前にいる物体がクルマなのか人なのか、自転車なのか、あるいは建物なのか、を一瞬で判断する機能をディープラーニングや機械学習で覚えさせるためのAI機能を自分のクルマ用に半導体チップを使えば一瞬で判断する推論チップを手に入れることができるのである。

  残念ながら、日本は長い間、メモリでは威力を発揮できる垂直統合にしがみついてきたため、水平分業の便利さに気が付かなかった。垂直統合は、昔ながらの大量生産可能なメモリには向いていたが、少量多品種のシステムLSIには全く向かない。日本はメモリからシステムLSIに舵を切ったのにもかかわらず、垂直統合にこだわり続けた。工場の生産能力は余って仕方がなかった。赤字になるのは無理もない。

  工場は持たなくても自前のチップを作れることにいち早く気づいたアップルは、iPhone用のプロセッサチップだけは自社開発の道を選んだ。アップルは最初はマッキントッシュパソコンを設計製造するため半導体を外から購入してきたが、iPhoneから自前のチップを採用するようになった。アップルのプロセッサチップにはCPUの他に、絵を描くためのグラフィックス回路(GPU)や動画の圧縮・伸長を行うためのエンコーダ/デコーダ回路、画像をきれいに見せるための画像処理プロセッサ、デジタルフィルタや積和演算用のDSPなど、いろいろな回路機能を集積しているため、SoCあるいはアプリケーションプロセッサと呼んでいる。

  そのアップルが今度は本格的な半導体メーカーを目指す。GPUと電源IC(パワーマネジメント)は自前に切り替えた。このため設計者、検証者、アナログ・ミクストシグナルなどのエンジニアを大募集している。

  なぜ半導体チップを持ちたがるのか。チップこそ、他社とは違う特長を出すための差別化技術だからである。日本の電機メーカーも早くこのことに気が付かなければいつまでも世界の負け組から脱出できない。電機メーカーの幹部に聞いてみたが、未だに気が付いていなかった。残念だ。

2017/12/31

参考資料

1.    例えば、T. Simonite, "Musk Says Tesla Is Building Its Own Chip for Autopilot," Wired, December 8, 2017

   J. Vincent, "Elon Musk Says Tesla Is Working on Custom AI Chips," The Verge, December 8, 2017

   D. Etherington, "Tesla Said To Be Working On Its Own Self-Driving AI Chips with AMD,"  TechCranch, Dec.8, 2017

2.    Apple 198 jobs for chip design, Linked In

 

 

   

ブロードコムがクアルコムを1300億ドルで正式買収提案

(2017年11月 8日 09:59)

ブロードコムがクアルコムに1株当たり70ドル、買収金額1300億ドルで買収提案することが正式に発表された。日本ではなじみの薄いブロードコムだが、2016年での売上額世界順位は5位の131億ドル、これに対してクアルコムは3位の153.5億ドルである。小が大を飲み込むような提案だ。両者の合併で世界はどう変わるか。これは半導体産業だけの問題ではなく、通信産業、自動車産業にも大きな影響を及ぼすので、これから考察していきたい。

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図 2015年に訪問したブロードコムのオフィスから見たシリコンバレー

 

 ブロードコムは、米国では非常に有名な通信チップの企業であり、ワイヤレスではWi-FiBluetooth、有線通信ではEthernetに強くクルマ用のEthernetであるBroadR-Reach規格で主導権を握っている。ストレージではSATAやファイバチャンネルなどのインタフェースチップで実績がある。かつて東芝メモリに触手を伸ばしたのは、このストレージ部門とのコラボを狙ったためだ。

  ブロードコムの今の地位をもたらしたのは、下位のアバゴテクノロジーが一昨年ブロードコムを買収したことが大きい。2015年に16位だったブロードコムはアバゴと一緒になって5位にまで上り詰めた。この時、ユニークだったのは、下位のアバゴが上位のブロードコムを買収し、そして名前をアバゴではなくブロードコムとしたのである。合併前のブロードコムはBroadcom Corp.であり、合併後にはBroadcom Ltd.に名称を変えた。

  一方のクアルコムは、携帯電話(セルラー通信)用のモデムから出発し、アプリケーションプロセッサへと製品ポートフォリオを広げて成長してきたファブレス半導体のトップメーカーだ。従来、盗聴されにくいスペクトル拡散という軍事用無線通信技術を、CDMA変調という形に民生分野へ改良したことで大きく伸びた。その基本技術がCDMA(符合分割多重アクセス)であり、クアルコムは第2世代の2G技術から使ってきた。3Gになると、CDMA 2000W-CDMA2つの技術に絞られ、クアルコムはCDMAの基本特許を持っているため、携帯電話メーカーからも、モデムチップを購入するメーカーからも収入を得ることができ、我が世の春を迎えた。

  ところが、セルラー通信技術が4GLTEへ進んでくると、クアルコムのCDMA技術からOFDM技術へとモデム技術はシフトした。LTEでもクアルコムは最大の特許件数を持つ企業であるが、基本特許を持っている訳ではない。このため、クアルコムの絶対優位は崩れてきつつある。だが、5Gでもクアルコムは先頭に立っており、簡単に引き下がらない。さらにこれまでのクアルコムは携帯電話、スマートフォンメーカーにモデムやアプリケーションプロセッサを提供してきたため、チップの販路は一般流通チャンネルではなく直販だった。この販路を変え、一般流通チャンネルにも通すようになった。

  クアルコムのモデムとアプリケーションプロセッサは、アンドロイド陣営をかなり支配していた。欧米アジアだけではなく中国にも深く入り込んでいた。しかし、台湾系のメディアテックは中国市場にも強く、クアルコムより中国市場への存在感は高かった。ところが、中国市場では華為技術という広東省の通信機器メーカーがスマホや半導体で中国国内向けに成長してきた。半導体はハイシリコンというファブレス半導体を小会社として設立、さらにスプレッドトラム社も現れ、中国におけるモデムとアプリケーションプロセッサの市場は両社が支配的になり、クアルコムやメディアテックが追い散らされているような様相だ。

  さらにクアルコムは、電気自動車のワイヤレス充電システムを送受信アンテナも含め、提案できるような技術を開発している。電力用の太い配線の表皮効果を下げるために細い配線で束ねるという電力ではよく使われる工夫も行っている。弱点だった近距離無線のBluetoothでは、英国で有力なCSR社を買収し手に入れた。ピアツーピア通信、スマホのディスプレイにも乗り出した経験があり、成長分野への情報アンテナは高い。

  そして、クアルコムはNXPセミコンダクターへの買収提案を行っている。NXPはオランダのフィリップスから独立した半導体企業で、ファブも持つ垂直統合型の半導体メーカーだ。そのNXPが数年前フリースケールセミコンダクタを買収し、今やクルマ用半導体のトップメーカーになった。フリースケールはマイコンやSoC、ミリ波レーダーなどクルマ用半導体に元々強く、NXPSDRを利用したカーラジオ用チューナICやキーレスエントリICなどクルマのインフォテインメント系を開発していた。

  クアルコムはスマホの次の成長分野として見出したのはクルマである。クルマに使う半導体は徐々に増えてきていたが、自動運転とEV(電気自動車)化の方向がはっきり見えてきたため、自動車用半導体に活路を見出した。

  自動運転では、人間の目と同様、いやそれ以上の性能を持つシステムを作り、ブレーキやハンドル、アクセルなどの基本制御機能に伝える。このシステムには、クルマの前方、後方、周囲に目を配るためのイメージセンサカメラ、レーダー、LIDAR(ライダー)、超音波などのセンサが欠かせない。同時に検出したものが人か自転車か、乗用車か、トラックかなど判別するために機械学習(AI)が要求されている。つまりこれら全ては半導体で実現するため、市場が生まれることになる。

  EVは基本的にモーターとバッテリで動くが、モーターの回転数を変えたり止めたり回転させたりするのにパワー半導体で制御する。そのパワー半導体はマイコンやアナログ回路で駆動させる。バッテリが正確に充電されるかどうかの制御も半導体で行う。さらに従来のシリコンよりも耐圧を高くしオン抵抗を低くでき、コイルやコンデンサを小型にできるSiC半導体が将来は使われるようになる。半導体の新たな市場が生まれることになる。

  クアルコムはだからクルマにはどうしても進出したい。NXP買収はそのための布石となる。自動運転車やこれからの安全・安心なクルマには常時無線でつながるコネクテッドカーが必須だ。その通信に今は、Wi-Fiの一種である802.11pという規格が使われるが、将来は5G通信でリアルタイム動作を実現できるようになる。ここにクアルコムの強みが生かせる。

  クアルコムは今回のブロードコムの提案には反対している。敵対的買収となるとどちらの企業も大変な労力を割くことになる。この買収の行方はどうなるか、見守っていきたい。

2017/11/08

   

ソフトバンク、RPAロボットも提供

(2017年10月21日 22:30)

業務改革が叫ばれている。広告会社最大手の電通に入社した女性社員、高橋まつりさんが1年目に自殺したというニュースは日本の会社組織を震撼させた。高橋さんの職場では、上司による叱責の日常化や嫌がらせ(意図的に間違えた指示を出す)というパワーハラスメント(参考資料1)によって、やる気(モチベーション)が失われ、自殺に追い込まれた。それ以来、残業時間を減らそう、業務を改革しようという機運は高まっている。

しかし、上司や経営陣がノー残業デーを設ける、残業時間に制限を設けるなどしても、社員の仕事が実際に終わらなければ、まじめな社員はコーヒーショップでサービス残業を続けることになる。これは業務改革ではない。見かけ上の残業時間を減らしても、社員のやる気がそがれるような仕事の与え方をするようでは、企業の生産性は上がらず売り上げは決して伸びない。プレミアムフライデーも強制退社にすぎない。どこかで業務を片付けなければならない。

そこで、「残業止めよう」という単なる掛け声ではなく、ITをうまく使って、単純作業をロボットに肩代わりさせ、残業時間を実際に減らせる手段が登場した。これが最近新聞やメディアを賑わせているRPARobotic Process Automation)である。

社員の業務を見直し、例えばファックスやメール、ウェブ、手紙などさまざまなメディアを通じて入ってくる情報を一つのエクセルファイルに打ち直すような単純作業は、ロボットにやらせ、社員はもっと自分がやりがいのある仕事に打ち込めば、生産性はぐんと上がる。やる気も出る。 

こんなロボット(ソフトウエアロボット)は、誰しも望むところ。このRPAロボットを実は1年くらい前から稼働させている企業が増えている。ソフトバンクがRPAホールディングスと提携し、そのコラボレーションの第1弾商品「SynchRoid」(図1)をこのほど発表した。RPAホールディングは、すでに4000体以上のソフトウエアロボットの導入実績を持つRPAテクノロジーズ㈱を傘下に持つRPA分野の大手企業だ。

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1 ソフトバンクが提供するRPAロボット、SynchRoid 出典:ソフトバンク

RPAとは、ソフトウエアロボットによる業務の自動化の意味であり、事務職の単純作業を人間に代わって代行しようというもの。デジタルレイバー(digital labor)とも言われ、最大手のRPAテクノロジーズ社はBizRoboという製品を提供してきており、ソフトバンクは、RPA社以外にも3~4社のソフトウエアロボットを使ってみたが、BizRobo製品は直感的に作りやすい、とソフトバンクは言う。BizRoboではプログラミングを知らない人でも、使う表の中の項目などを覚えさせるだけでロボットを作れるという。

一般に企業内でシステムを組む場合、業務の要件を定義し、システム要件を定義することから始め、システム導入までに半年から1年もかかる場合が多い。これに対してRPAはわずか1~2週間でロボットを1体作れるという。しかも、システムの専門家ではなく、営業や総務など業務部門の人が短期間の訓練でロボットを作れるようになる。

このロボットはAI(マシンラーニングやディープラーニングなど)と比べても、学習させる必要がなく、業務担当者が自分でロボットを作り、自分で単純作業をロボットに任せようというもの。だからITシステムに疎い者でもプログラミングを学ぶことなく、ロボットを作ることができる。

ソフトバンクでは、すでに社内の業務改革にソフトウエアロボットを使ってきた。社内実験ではさまざまな失敗を繰り返し、「しくじり先生」で見られるような業務のワナも経験してきたという。すでに26部門でロボットが活動し、単純作業から解放されているとする。各部門では、RPAを推進するリーダーを決め、RPAを習得させ、さらにほかの業務や他部門などへ拡張していくとしている。

ソフトバンクでは、この1カ月前での集計では、1289件の業務改善のアイデアがあり、そのうち358件の開発プロジェクトができ、152人のロボットを作れる人間を育成できた。その結果、一月当たり9000時間削減できたとしている。

RPAの良い点は、導入によってイノベーションを感じる、それを拡散する、そして新しいイノベーションを共創する、ことだとしている。

今回、ソフトバンクは自社で成功したRPA導入を他社にも提供するという新ビジネスを売りにする。同社が111日から提供するのはパッケージサービスであり、自分でロボットを作れるように育成するプログラムだ。導入支援のワークショップから始まり、開発スキルのトレーニング、そして開発エンジニアの派遣、導入のトレーニング、そして検定試験を行う。サービスパッケージは2種類あり、スモールスタート向けのライトパックと、本格導入向けのベーシックパックがある。ライトパックでは開発者を一人育成する1ライセンスであり、1年間に90万円で提供する。ベーシックパックでは最大10ライセンスを与え、毎月60万円で提供する。まず働き方改革をRPAで行い、単純労働を止め付加価値のある商品設計やデザインなどの業務へと人間はシフトさせる。

ソフトバンクは、業務自動化のロードマップを描いている。まずはこのRPAによる提携作業の自動化だ。次がAIを使った非提携作業の自動化、さらに将来はビッグデータ解析などによる高度な自律化へ向かうとしている(図2)。ソフトバンクはIBMとも提携しており、IBMAIマシンである「ワトソン」を使える。このワトソンとRPAを使う業務も想定しており、例えば、顧客から新規注文に必要な見積もり依頼のメールを受け取ると、ワトソンがその内容を解析し理解したら、RPAが見積書を自動作成する、といったシーンだ。実際にこの場面にワトソンとRPAを使ったことで、従来なら15分かかった作業がわずか3秒で終わったとしている。

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図2 RPAは業務改革の第一歩 ソフトバンクは将来AIも想定

 小売店では、ハードウエアロボットである「ペッパー」とRPAとのコラボについても実験しており、こういった経験もビジネスにつなげていく。

(2017/10/21)

 

参考資料

1.    「過酷電通に奪われた命、女性新入社員が過労自殺するまで」、AERAdot20161018

   

TSMCモーリス・チャン氏引退、ファウンドリのビズモデル発明者

(2017年10月19日 23:07)

 世界トップのファウンドリサービス企業、台湾のTSMCの創始者であり、取締役会会長でもあるモーリス・チャン氏が20186月に引退すると表明した。今後はTSMCの経営から完全に手を引くという。実は彼は、リーマンショック前にも引退していたが、リーマンショックでの業績の落ち込みによって、経営に戻ってきた。しかし、今は後継の道筋も見えたため、引退を決意したようだ。モーリス・チャン氏は、エイサーの創始者スター・シー氏と並び、台湾の英雄と呼ばれている。

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写真 TSMCのモーリス・チャン会長 同社2016アニュアルレポートより


  チャン氏は、ファウンドリサービスという半導体の製造だけを手掛けるビジネスモデルを創り上げた。1990年少し前、上級副社長を務めていたTIを退社し、台湾でTSMCを立ち上げた。当初の出資者にはITRI(工業技術院)やフィリップス(現NXPセミコンダクタ)などがいた。1980年代後半から米国シリコンバレーでは「Start-up fever(ベンチャーフィーバー)」と揶揄されたほど、ファブレスのベンチャーが続出した。当初、製造は、IDM(設計から製造まで手掛ける垂直統合型半導体メーカー)しか請け負えなかったが、同氏はその様子を見て、製造だけの請負サービスを始めようと考えた。半導体産業での分業化の始まりである。

  TSMCは今や、2016年の売上額2857000万ドル(約31427億円)、市場シェア58%という圧倒的な強さを誇る、世界一のファウンドリ企業となった。ファウンドリビジネスで最も重要なことは、製造プロセスの完備もさることながら、多くの顧客を獲得するために設計に強いセールスエンジニアを確保することだ。このためTSMCは設計ツールを十分揃え、設計サービスを提供できるグローバル・ユニチップというデザインハウスを小会社にし、どのような顧客の要求にも答えられるように努めてきた。TSMCIDMになる、と誤解したアナリストもいたほどだ。

  設計ツールと設計エンジニアを揃えるのは、顧客によってはLSI設計特有の言語であるVHDLVerilogなどの言語を覚えたくない、というレベルから、GDS-IIフォーマットのマスクデータまで作成できる、というさまざまなレベルにも対応するためだ。設計フローによって顧客の要求レベルがマチマチだったため、設計の知識があればどのような顧客にも対応できる。だからファウンドリビジネスでは設計に詳しいセールスエンジニアが欠かせない。

  これが日本にはなかなかいない。パソコン画面に向かって、VHDLなどの言語でLSIの機能仕様をプログラムしていく、という作業を経験してきたエンジニアは、人付き合いの苦手な人が少なくない。様々な顧客の要求を聞いてその設計レベルまでできる顧客なのかを工場で伝えなければならない。そのような対面営業トークができる愛想の良いセールスマンでしかも設計に熟知しているエンジニアが望ましい。

  ファウンドリ工場は、マスクデータのフォーマットであるGDS-IIレベルからスタートするため、システム設計、機能記述、検証などの設計・検証作業は別会社が担う。この別会社は、その後のネットリストによる回路構成、さらにレイアウト、配置配線、検証、などのLSI設計作業を担うデザインハウスと呼ばれている。今はファブレス大手となったメディアテックも当初は、ファウンドリ3位のUMCのデザインハウスだった。今やファウンドリは、PDK(プロセス開発キット)というツールをこしらえ、自社の固有のプロセスに沿った形のトランジスタに基づく設計を要求するようになった。

  ただし、最近のTSMCの売り上げは実は伸びていない。1~9月の売り上げは累計で前年同期比わずか2.1%69987700万台湾元(約26000億円)にとどまっている。9月単月では前年同月3.6%減となっている。今の半導体景気がメモリ単価の値上がりによるものであるため、TSMCはその恩恵を得ていない。それどころか、クアルコムの10nmアプリケーションプロセッサSnapdragon 835の製造をサムスンにとられた。ただ、10nmプロセスを使ったiPhone 向けアプリケーションプロセッサA11の製造は、サムスン嫌いのアップルから請け負っただけにすぎない。その前まで、Aシリーズはサムスンが、SnapdragonTSMCがそれぞれ製造を請け負っていた。それが逆転した。先端プロセスのファウンドリビジネスは、まさにサムスンとの一進一退を展開している。

  ただ、モーリス・チャンが引退を表明したのはこれが初めてではない。2005年に一度退任したが、2007~2008年のリーマンショックで業績が大きく落ちたことで経営に復帰している。この時から2016年までは極めて順調に成長を遂げ、昨今の半導体ブームで大きく落ちることもなくなった。TSMCの今後は、マーク・リュー氏を会長、C.C.ウェイ氏をCEOとする2頭経営という形で運営していくとしている。

  米国の有力ビジネス誌の一つであるフォーブス誌は、2年をかけて、世界のビジネスに大きなインパクトを与えた100人の一人にモーリス・チャン氏を選んだ。その100人の中には、投資家のウォーレン・バフェット氏、マイクロソフトのビル・ゲーツ氏、アマゾンのジェフ・ベゾス氏、フェースブック創業者のマーク・ザッカーバーグ氏、eベイとテスラ・モーターズのイーロン・マスク氏、バージン・グループのリチャード・ブランソン氏、フェースブックCEOのシェリル・サンドバーグ氏、メディアのラパート・マードック氏、ファッションデザイナのジョルジオ・アルマーニ氏、メディア兼ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏などそうそうたる人たちが含まれている。半導体業界からはモーリス・チャン氏のみ、だとしている。


(2017/10/19)